第193ページ 大先輩の提案
「なんであんたがここにいるんだ?ベラ」
突然背後に現れたSSSランクの冒険者に脅された後、気を取り直して問い掛ける。
「私はここのお得意さまなのよ。ね、ティファナ」
「はい。イザベラ様は定期的に貴重な資源を卸してくださるので助かっております」
「資源?」
俺が疑問を込めた視線を向けるとベラは人差し指を口に当て、片目を閉じた。
「乙女の秘密よ」
ここで乙女の部分にツッコミを入れない程度には、俺もベラのことがわかってきていた。
しかし資源か。
魔物の素材とかならばわかるが資源ってのは何だろうか。
魔法で何か作って売っているのかね?
「それよりさっきの話の続きだけれど」
「ああ、自分で建てるって話だったか?だが俺にはそんな技術なんて…」
「技術は必要ないわ。必要なのは想像力よ」
そう言ってウインクしてくるベラ。
それはつまり魔法で建築をしろということか。
「方法は…あなたはもう知っている筈よ」
そう意味深に微笑んでいたベラは、担当の人が「ここにいたんですか!もう早く商談の続きをしますよ!だいたいいつもいつもあなたは…」と引っ張られて行った。
「…クロバ様は魔法建築もお出来になるのですか?」
「みたいだな」
俺自身、自分が魔法で何をできるのかあまりわかっていない。
基本六属性は問題なく扱えたし、氷も使うことができた。
相変わらず空間は使えないままだが。
ただ、魔法建築の仕方を頭に思い浮かべてみると、やり方は把握できた。
まるでネットで検索したような感じで、自分の知らない知識が脳にあることは慣れないな。
「では、ご自分で建てられますか?」
「うーん…」
魔法建築は問題なくできるが、家を作る為の建築資材は別で用意しなければならないようだ。
そんな物どこで買うのかまったくわからんぞ。
「建築に必要な物はこちらで用意させて頂くこともできます。もちろん代金は頂きますが」
「そうか。なら自分で建てるのもいいかもな」
俺の好きなようにしていいってことだしな。
それはすごく魅力的だ。
「土地はあるのか?」
「そうですね…冒険者ギルドから一番近いところですとこちらでしょうか」
ティファナが提示してきた土地は確かに冒険者ギルドの眼と鼻の先といった場所だった。
ただ、少し狭いような印象を受けた為他の場所を探してもらう。
その後いくつか空いている土地を紹介して貰うが、これと言って良い場所がない。
そもそも売りに出されている土地というのがまず少ない。
ガイアは辺境故に既に街として完成している部分があり、不動産物件の移動はほとんどないのだ。
余っているのは東区画の貴族街が多いが、貴族でもないのに貴族街に家を建てると余計なトラブルに巻き込まれそうで端から除外。
西の居住区は少しの隙間も許さないというように家屋が建てられているので空き家は別として土地はない。
北は商業区画である為、同じく既に土地がない。
残るは南であるのだが、どういう訳か南は工房や魔法研究所などが乱立し整っていない為土地はあっても小さかったり、逆に広大すぎたりと問題がある。
「…僭越ながらシュウ様。小さくてもよいのでは?」
「ん?」
必要なのは俺の部屋とウィリアムの部屋。
アステールが過ごせるところと、まぁジャックの部屋か。
あとは地下と、書斎とダイニングやら。
風呂も欲しいし、客間もいるだろう。
小さいとダメじゃないか?
「上に伸ばせばいいのです」
「なるほど」
家ということで屋敷のような広い家を想像していたが、塔のようにしてもいいのだ。
それはそれで楽しそうだな。
「そういうことならば領主様との相談が必要になるかもしれません」
「相談?」
「ええ。クロバ様のお話ではかなり高い建造物になる可能性が予想されます。街の景観を整えるのも領主様の仕事の内ですので」
今は辺境伯城と東の教会くらいしかない高層建築物。
それなのに俺が街の中心に程近いところにその二つと同じような高さの建造物を建ててしまったら確かに景観を損ねる可能性はある。
ラッセン辺境伯なら許してくれるような気がしないでもないが。
「わかった。とりあえず辺境伯に会ってくるよ」
「え!?今からですか!?」
「早い方がいいだろう」
家を建てるなら建てるで建築物資も買わないといけない。
これからどんどん暑くなるそうなので早めに終わらせたいのだ。
「お、お待ちください!私も同行させて頂いてよろしいでしょうか!?」
「俺は構わないが仕事は大丈夫なのか?」
「ええ。私が抜けても問題ありません」
それならいいかと俺は軽く頷き、ウィリアムに合図し先触れとして辺境伯城に向かってもらう。
ティファナは少し準備があるそうなのでそれを待ちつつ、俺は辺境伯にどう話そうか考え始めた。




