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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第九章 荒れる海と幽霊船「曇天の港町」編
225/358

第191ページ プロローグ

お待たせしました。

第九章開幕です。

「上がり立てのまぐろだよー!」

「こっちはウニだ!」

「サハギンもあるよー!」


早朝の港、漁師たちの太い声が響き渡り、買付に訪れている商人や料理人が競りをする。

これがマジェスタ王国南の辺境、港町トウナールのいつもの風景であった。


ただしそれも、少し前までのこと。


和気藹々とした喧騒は消え失せ、港に展開する(いち)はやっていない店も多く閑散としている。

海上にいつも浮かんでいた船影はまるでなく、曇天がより一層の暗さを演出している。


そこに生活する人々に、元気はなく。

屈強な体格をした漁師たちが、背を丸めてうなだれている。


こうなった原因はただ一つ。

いや、一体の魔物の存在。


冒険者ギルドより領主の名前で出された依頼にはこうある。


~~~~~~


〔討伐依頼〕近海に出現した「クラーケン」の討伐

内容:魔族たちが去った後、近海に住み着き漁船、商船など海に浮かぶあらゆる船を攻撃、捕食しているランクS+「クラーケン」の討伐要請

期間:不確定

報酬:要相談

備考:ランクS以上パーティーが望ましい


~~~~~~


張り出された当初。

報酬欄には、白金貨5枚の文字が躍っていた。


それに目をつけ、名のある冒険者や腕に覚えのある者が揃って討伐に赴く。

結果、そのすべてが返り討ちにあった。


海の中から攻撃してくるクラーケンに対し、ほとんどの者が対抗する術を持たなかった。

船を壊され、悠々と浮かび上がってくる巨大なその姿に全ての者が恐怖し水中へと引きずり込まれた。


運よく助かった者にしても、受けた心の傷は深く、水を目にしただけで恐れ震えてしまう始末。


元より冒険者顔負けの屈強な漁師たちにしても、そのような化け物相手にできることなどあるはずなく、領主によって船を出すことを禁じられた。


結果、トウナールの漁港に船の影はなくなり、収穫が無いため市も開くことができない。

漁業によって栄えていたトウナールはどんどんその活気を衰えさせていた。


港町トウナールを含む南の辺境を預かるユース・フォン・クインテスは、いつまで経っても改善されない現状に頭を抱えていた。

対面に座り、重い溜息を吐くのはこの町のもう一人の顔役である漁業組合の組合長オルフォー。

60を超える年齢でありながら、オルフォーの体は引き締まり、未だ現役と豪語するだけはある。


「ユースよ、そろそろうちのガキ共を押さえておくのも限界だぞ」

「わかっております。漁師たちはそれでなくとも血気盛んだ。けれど、彼らはこの町にとって何より大切なのです。みすみす死なせるわけにはいかない」

「だがこのままではこの町は終わる」


オルフォーの重く低い声に、ユースの握った拳が震える。


ユースとてこのままではいけないことは重々承知している。

だからといって、ランクSオーバーの魔物など自分たちの手には余るのだ。


これが普通に陸にいるのであれば、これほど面倒ではなかっただろう。

あるいは船上で戦えるのであれば。


しかし、クラーケンが姿を見せるのは海に浮かぶ落水者を引きずり込むときだけ。

その姿にしろ、水を纏っているようで攻撃を加えることができないという徹底ぶり。

一体どうしろと言うのか。


「チッ、陸にいやがれば俺がかち割ってやるってのによぉ!」


悔しそうに吠えて拳を自らの手のひらにパンッと打ち付けるは王国が誇る七人の最高戦力の一人。

七星剣第五位ビクター・フォン・バリディオー。

魔族襲撃の後、南の辺境に派遣されていたこの男も、力を持ちながら何もできない現状に苛立っていた。


「父上、王都は何と言っているのですか?」


ユースの息子であるこの場で最年少の次期辺境伯が質問する。


「国王も悩んでいらっしゃるようだ。とりあえず騎士団を派遣してくださるようだが、それでも解決はできないだろう、と」


いざという時に人手はあった方がよいということで騎士団を派遣することは決まった。

しかし、どれだけ精鋭の騎士団であろうと海の中にいる相手に手は出せない。

結局この問題になるのである。


「ガキ共は自分たちなら水中でも戦えるとほざいている」


漁師組合に所属している漁師たちは水中戦闘も可能である。

しかし、それはあくまで低ランクの魔物に対して短い時間のことであり、クラーケンのような魔物に水中で勝てるわけもない。


「冒険者たちはどうなのだ、ハリマールギルド長?」


オルフォーの問いかけに、今まで黙っていたこの場では若い部類に入ってしまう30代の男が口を開く。


「あまり芳しくありません。水中戦闘が得意な冒険者など限られますし、近場にはいないことが確認できています」


トウナール近海には、本来高ランクの魔物が存在しない。

それ故に、冒険者としては実りが少ないのだ。


「ただ、これはまだ未確認なのですが一人任せられるかもしれません」

「それは誰だ?」


淡い期待を抱き、ユースが問いかける。

ハリマールは何かを考えるようにゆっくりと口を開く。


「最近ランクSへとなった人物で、救国の英雄と呼ばれる竜殺しの少年」

「シュウ君か…」


ユースの脳裏に、王都で会った自分より一回り以上も年下の少年が思い浮かぶ。

あれだけの戦闘力を持つのだ。

確かにクラーケンもどうにかできるのかもしれない。

しかし。


「彼は水中でも戦えるのか?」

「あくまで未確認ですが…」


きちんとした情報が来ているわけではない。

しかし状況から見るに、水中でも活動ができないと不可能だと思われる報告がアキホのギルドから出されていた。


各支部のギルド長以上しか見ることのできないその報告で、そこに気づけたのはやはりハリマールが港町に存在するギルドを預かる者だったからだろう。


「頼んでみるか…」


向こうが覚えているかは別として、彼とは二回ほど顔を合わせている。

本拠地としているガイアの領主とは懇意の仲であるし、話を通すくらいはしてくれるかもしれない。


ユースは東の友人に向け、手紙を書き始めた。

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