第190ページ エピローグ
「今回のSランク昇格試験、合格者は6人か。なかなか豊作だったようじゃの」
ある孤島に建てられた不釣り合いな程立派な洋館。
その洋館の主として君臨している女性は、最早植物園と言ってもいいような状況と化している中庭で報告書を読んでいた。
「王国からは二人合格しておるの。よいことじゃ。こっちの男はギルドに所属してから一年でSランクか。最短じゃの」
「彼はSランク程度で収まる器ではありませんでしたよ、ひいお婆様」
「今は職務中じゃ。会長と呼べフィリップ」
ギロリと女性に睨まれ、フィリップは笑いながらも「会長」と訂正する。
曾祖母をからかっているようにしか見えないその態度に、女性はやれやれと嘆息する。
女性の見た目は40代程。
薄い金髪に翠色の瞳、尖った耳。
一目でエルフだとわかる容貌をしている。
「能力的には既にSSランク、いえもっとかもしれません」
「何?そんなにかの?ふむ…すぐにまたランクを上げることになるかもしれんのぉ」
「いえ、それはないでしょう。彼はあまりに速くランクを上げましたから」
SSランクへの昇格条件は一般的に知られていない。
厳しいのだろうということは伝わっているが、具体的な条件は一切不明だ。
それに対し不満が出ることはない。
Sランクに昇格した者がそれに対し不満を述べるような人格者はいないということが一つ。
もう一つの理由が好んでSSランクに上がる必要もないということである。
Sランク程の待遇を得られれば大抵の者は満足なのだ。
「そうか。そういう弊害もあるんじゃの」
さて、そんなSSランクへの昇格条件だが、難しいことではない。
簡単に言えばギルドからの信用性である。
依頼受注頻度、依頼達成率、依頼主からの評価。
更には、同業冒険者からの信頼。
その他様々な要因を総合してSSランクに相応しいかどうかが判断される。
フィリップがシュウを指してSSランクは早いと言ったのは、この評価の確立がなされていないからである。
今だけ見れば、依頼達成率100%という驚異の数字となるし、その依頼もほとんどが並大抵の冒険者では達成不可能な物であることも高評価となる。
しかし、その多くがソロであり、他の冒険者からの信頼というものはまだあまりない。
多くの者に慕われ、共に依頼をしたいと思う者が少ないのである。
最も、「竜殺し」「救国の英雄」などと称されSランクとなった今、それも時間の問題であることは間違いない。
いずれはSSランク昇格の条件を揃えるだろうが、今はまだ早いというのがフィリップの評価であった。
「ところでこの報告書やけに詳しいが、昇格試験の立ちあいは誰が行ったのじゃ?」
「ああ、ジークに行ってもらいました」
「…お主」
「やだなぁ。これでも彼に配慮した結果ですよ」
「お主が興味があっただけじゃろう。まったく」
冒険者ギルド協会のトップに立つ女性は、自分の曾孫を呆れた様子で見やる。
そしてもう話は終わりだとばかりに手をヒラヒラと振ると、フィリップは一礼してその姿が掻き消える。
姿を投射する魔道具によって行われていた報告会であったのだ。
ホログラムのようなものである。
「さてさて、今度の異世界人は何をしてくれるのかの」
女性、冒険者ギルド協会会長リィーエン・エル・ミスティシアは、過去に思いを馳せながら呟く。
自分がまだ少女だった頃の記憶。
初代勇者と言われた、幼い自分が慕った男のことを思い出しながら。
これで第八章終了です。
いかがでしたでしょうか?
この章は明確なビジョンができておらず執筆が非常に難産でした。
投稿が開いたりご迷惑おかけいたしました。
今後は例の如く閑話を入れた後、九章となります。
舞台は海。南の辺境へと向かいます。
引き続き読んでいただ得れば幸いです。




