第188ページ 国王の呼び出し
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「よく来てくれた、シュウ君」
有無を言わせず王城に連行された俺は、公の広い謁見の間ではなく王の執務室へと通されていた。
こっちの方が楽でいいが、本来ならば一介の冒険者が通される部屋ではない。
「本日はどういった御用でしょうか、エドガー陛下?」
いきなり連行され若干気が立っていたのだが、疲れた様子の国王を見てそんな気はなくなった。
一目で疲れているとわかるくらいなのだから。
「どういった御用…先ほど緊急で回ってきた案件についてだ」
「緊急?」
「…昨夜の件だ」
「ああ!」
ほんとになんのことだかわからなかったが、国王に緊急で話を通すほどのものだったのか。
王子と宰相まで部屋にいるから何事かと思った。
詳しく話が聞きたいということだったので、俺は昨夜のことを話す。
恥ずかしながらシッケルのことを話すときは少し口が遅くなってしまったが、だいたい情報通りのことで受け入れられた。
「色々言いたいこともあるが、まずは礼を言わせてくれ。君はまたマジェスタの危機を救ってくれた」
俺は既にいくつか斬っているので気にしなかったが、本来魔神の欠片は人に対処できるものではなく、放置していおけば王都が消えてなくなる可能性もあったみたいだ。
俺の後ろに立って面白そうにこちらを見ている竜人さんがいる限りそんなことにはならないと思うが。
「君には借りばかり増えていくな」
「今回のことは正当な依頼の延長線でしたからお気になさらず」
俺がそう言うと、国王はふっと笑い、宰相も穏やかに微笑んだ。
「シュウ君。話はもう一つあるんだ」
「なんでしょう?」
他に何かあったか?と俺が首をひねると、国王が扉の外に向かって入るように呼び掛ける。
「失礼します」と一言、入って来たのはベンとウィリアムだった。
どういうわけかベンは俺を睨んでいる。
ウィリアムはいつもと変わった様子はないが、どこか楽しそうでもある。
「話というのはウィリアムのことだ」
「ウィリアムの?」
国王はあまりこの話をしたくないようで、後は任せたというようにベンにめくばせする。
ベンは一つ溜息を吐いてから口を開く。
「先程私の部下であるウィリアムから辞表が提出されました」
「辞表?!」
俺が驚いてウィリアムを見ると、ウィリアムが微笑んで頷いた。
「何でも?仕えるべき主を見つけたらしく」
ベンが嫌そうにこちらを見る。
おい、まさか?
「俺か?」
その場にいた俺以外の全員が首を縦に振った。
「…どういうことだ?」
俺がウィリアムを見て説明を求めると、心得たというようにしっかりと頷いてから説明を始める。
「私はとある施設の出身です」
「施設?」
「ええ」
施設の名は「エルベリーベ孤児院」。
この大陸のどこかに在るというその孤児院は、普通の孤児院とは違いあらゆる技術を叩き込まれ、あらゆる道に通じたエキスパートを育てる施設。
その技術には、一般的な家事や勉学、雑学から格闘術、暗殺術まで幅広い。
孤児たちは成人までにこれらの技術を詰め込まれる。
と言っても、あまり信用はできないがよくある非人道的な施設というわけではないそうだ。
例えば、どんなに頑張っても人を殺すことは嫌だと言う子がいたりする。
そんな子にはそれ以上そっち関係の技術は教えず、ある特定分野のスペシャリストとして育てるのだと。
そして成人になると、孤児達の道は二つに分かれる。
一つは孤児院で仕事をこなすこと。
普段の仕事内容は、自分たちの後輩に当たる孤児に対する教育だが、この孤児院では冒険者ギルド並みにあらゆる依頼を受けることがある。
違いがあるとするならば、ギルドが仲介業ならばこちらは派遣業といったところだろうか。
ギルドでは冒険者が各自好きに依頼を受けるが、孤児院では依頼があると、最も適任だと思う者を派遣するのだそうだ。
その依頼内容も、使用人の求人や要人警護、暗殺と幅広い。
もう一つの道は、独立し自らの主を見つけること。
孤児院で仕事をこなすことを選んだ場合、幾日かの休みはあっても基本的に孤児院での生活となる。
人里も近くにないどこかの僻地にある孤児院で一生を暮らすのである。
だが、こちらの道を選べば孤児院から出て、今後一切孤児院からの支援は受けられないが、自由に自分のやりたいことができるのである。
孤児院で育った者は、その教育内容から誰かに仕えることで真価を発揮する。
それ故に仕える相手は自分で決めたいと思う者も多く、能力が高い者程その傾向が強い。
ウィリアムはこちらの道を選んだが、自らの命を預け忠誠を誓えるような主を見つけることができなかった。
ただ、すでに道は選んでいた為孤児院に戻ることもできずにいた。
その頃、ちょうどこの国に仕えていた孤児院の先輩にあたる人物から、仮初の主としてでもいいのでとりあえずこの国で力を奮わないかと誘われる。
特にやりたいこともなかったウィリアムは、この誘いに頷いた。
それが今から30年前の話だそうだ。
「私は長年この国にお仕えしてきました。前王陛下にも国王陛下にも不満はありません。それどころか恩を感じております。しかし、私は今なおどこかで主を探していたようです」
そこでウィリアムは俺を見る。
「やっと見つけることができました」
「…何故俺だと?」
「貴方が弱かったからです」
「ほう?」
面白そうに言ったのは俺ではなく、アレックス。
だが、俺もその言葉が少し意外ではあった。
「俺が弱い?確かにそこの一位と比べれば強いとは言えないが…」
俺がそう言うと、国王が比べる相手が違うと頭を抱え、宰相が苦笑いし、ベンが冗談言うなと睨んできた。
解せぬ。
「昨夜の件でそう感じました。貴方は身近な人の死に弱い、と」
「…ああ、そうだ」
確信を持ってそう言われれば頷かざるを得ない。
「俺も自分があそこまで動揺し、怒りを顕すとは思わなかった。だが、だからこそ俺はもう誰も死なせない。俺の目が届く限りすべて守る」
決意を込め、ウィリアムの目を見てそう言うと、満足そうに頷く。
そして唐突に跪き、俺に頭を垂れた。
「貴方の剣となり、盾となり、貴方のその意思を手伝わせていただきたい。我が主よ」
「…どう考えても王城勤めの方が待遇がいいぞ?」
「待遇など主が気にすることではありませぬ」
「駄目と言っても聞かなさそうだな」
「この歳になりますと少々頑固になってまいりますもので」
ウィリアムを俺の下につけることで生まれるメリットとデメリットを考える。
メリットはいくつかある。
というかたくさんある。
まずウィリアムの持つ諜報能力。
王国諜報部に所属していたことからもその能力が高いことはわかる。
ティアに頼まれていた教国の情報を自分で得られるようになる可能性は大きい。
更に、仕立て屋としても優秀だ。
先日仕立ててもらった正装を見る限り、普段着でありながら鎧に劣らぬ防御力を持つ服を作ることもできそうだ。
是非やってもらいたい。
知識や経験も豊富であり、様々な技術を持っている貴重な人材と言えるだろう。
逆にデメリットはなんだろうか?
雇用費?
金はある。
住居?
特に必要があるとは思わないが、この際ガイアに家を買うというのもありかもしれん。
この世界に来た時は流浪の旅をしようと思っていたが、今ではなんだかガイアに帰るという認識が強いしな。
うーん…
考えてみるとデメリットないのか?
ならまぁいいか。
「いいぞ。なら俺の為に働いてもらおう。ただし、俺のとこはブラックだぞ?」
「我が全ては我が主の為に」
この後、俺はベンから優秀な部下を取られたと散々文句を言われた。
忠誠の誓いが告白みたいになってしまいどうしようと悩んだ数日でした。
老執事が好きなんです。はい。
次回は、遊郭に行きます。




