第187ページ S級到達
衛兵詰め所を後にした俺は、その足で冒険者ギルドへと向かう。
もちろん今回の依頼についてを報告する為だ。
今回のような依頼達成について依頼主の確認が必要な依頼では、冒険者ギルドから依頼書の複製が発行される。
その複製に、依頼主から依頼達成のサインを貰いギルドの受付に提出すれば依頼終了だ。
ただ、この依頼は俺のSランク昇格試験でもあった為どうするのかわからず受付で聞いてみたところ、当然のようにギルド長執務室へと通された。
「やぁ、お疲れ様でした」
「前置きはいい。依頼は達成だそうだ」
ギルド長室に入ると、フィリップが紅茶を飲んでいるところだった。
美形と合わさりとても似合っている。
「ええ、報告は頂いています。犯人の動機も明らかにし、更にはそれ以上の事態に発展しかねなかった問題を排除。文句なしの合格ですね」
「……何故知っている?」
昨日の事件はまず先に衛兵隊へと報告した。
それもついさっきのことだ。
ウィリアムがギルドに報告をあげるとも思えないし、俺に誰かギルドの者が監視についていた気配もなかった。
フィリップが昨日のことを知っているはずはないのだが。
「私、ハーフエルフですから」
「そういうことか」
<全知眼>により映る景色を変えると、この部屋には無数の下位精霊たちがいるのがわかった。
下位精霊は意思を持たないが、そこに確かに存在する。
エルフのような精霊が視える者にとっては情報源にもなり得ると本で読んだことがある。
「もう通達はしてあります。下へ行き依頼達成の報告をしてギルドカードを提出してください。報酬金と共にランクを修正したギルドカードをお返しします」
「わかった」
俺が礼を言い部屋を出ようとすると、後ろから「お待ちください」と声がかかる。
振り向くと、いつもの笑顔ではなく初めて見る真剣な顔をしたフィリップ。
「彼のことは貴方の責任ではありません。依頼は彼の護衛ではありませんから」
「…それでも俺が守れなかったことは事実だ」
俺はそれ以上何も言わずフィリップを見返す。
やがて、フィリップの方が折れ困ったように笑う。
「貴方は強いですが、できないこともあります。あまり抱え込まないように」
「心遣いに感謝するよ」
今度こそ俺は部屋を出る。
最初から最後まで何を考えているのかはわからなかったが、最後の言葉をあいつが本心から言ってくれているのはなんとなくわかった。
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「これで、シュウ様はSランク冒険者です。おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう」
受付でギルドアードを更新して貰い、報奨金を受け取る。
国からの依頼というだけあり、その額はとても個人に渡すようなものではなかった為受付嬢がギョッとしていた。
「シュウ様はこれでSランクとなりました。SランクはAランク以下とは比べ物にならない特典が付きます」
具体的には、ギルド連携店での大幅割引。
全てのギルド施設の使用許可。
一級危険区域立ち入り許可。
Aランク以下冒険者に対する指揮命令権(緊急時に限る)。
ギルド権限の一部行使(要審査)。など。
大きなところではこんなもので、他にも小さいものはいくつかある。
「ギルド権限の一部行使ってのは?」
「はい。冒険者ギルド協会が持つ権限の一部を行使することが可能となります」
「…例えば?」
「そうですね…一番身近なところで言えば貴族街への立ち入り許可証であったり、王族への謁見申請だったりですかね?」
…いらないな。
「さて、シュウ様。このようにSランク以上の冒険者は様々な特典が得られますが、同時にギルドの顔役としての自覚を持っていただけなければなりません」
要はギルドに恥じない行いをしろということだ。
これも特には問題ない。
「それから、これは義務ではないのですがSランク以上の冒険者にはギルドへ定期的に居場所の報告をして欲しいのです」
「居場所の報告?」
「はい。Sランク以上となると解決できない依頼の方が少ないと見なされます。それ故に、今いる冒険者で解決できない緊急の依頼などは近くにいるSランク冒険者に頼むことが多いのです」
Sランク昇格試験の試験官などもこれにあたるらしい。
わざわざ報告などしなくてもギルドで依頼を受ければそこにいるのがわかるのだからいいのでは?と思ったが、どうやらSランク以上、もっと言えばSSランク以上になるとギルドで依頼を受けず気ままに過ごしている人も多く、実際SSランク以上の8人のうち、今の居場所を掴めているのは半分にも満たないそうだ。
「強い人は我も強くて困ります…」
「…」
…魔大陸に行ったりする予定もあるし、俺も確約はできないので沈黙で答えておく。
受付嬢は何やら悟った顔で首を振る。
「以上になります。シュウ様の今後の活躍を楽しみにしております」
「ありがとう」
用の済んだ俺は、これからどうするかと考えながらギルドの出入口へと向かった。
が、そこには何やら遠巻きに人だかりができており、ヒソヒソと冒険者たちが話しているのが聞こえてくる。
「おい、あれ」
「ああ…マジかよ」
「ギルドに何の用だ?」
「初めて見たぜ…」
邪魔だなと思いつつ、そこを通らないわけにはいかないので人ごみを縫って通り抜けると、出入り口の前に見覚えるのある人がいた。
「見つけたぞ、クロバ」
「何をしているんだ、アレックス…」
ギルドの出入口に仁王立ちし、こちらを睥睨しているフードの男。
青銀の鎧と、両腰に差す二刀。
七聖剣の第一位。
アレックス・テムエ・ドラグニル。
「陛下がお呼びだ。来い」
アレックスがくいっと顎で指す方には、王家の紋章入り馬車が待ち受けていた。




