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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第八章 更なるステージへ「Sランク昇格試験」編
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第185ページ 怒りの中の光

「シッケル!?」

「あ…」


倒れるシッケルの身体を受け止め、地面に座り込む。

シッケルは自分に何が起きたのかわかっていないようだが、俺には彼の背から心臓を闇色のナイフが貫いているのがわかった。


「くそっ!」


ナイフを抜けば即死してしまいそうな傷だ。

けれど抜かなければ治癒魔法も発動できない。


焦る俺をあざ笑うかのように、ナイフが勝手に抜けていき宙に浮く。

同時に一目で致死量とわかるほどの血が噴き出す。


「シッケル!」

「あ…シュ…ウさ…」


光魔法と水魔法の治癒魔法を同時行使するが、シッケルの目からは生気が失われていく。

ダメ元で神聖魔法も使ってみるが、身体の傷が癒えるばかり。

そして完全に、光が失われた。


魔法では、外傷を癒すことはできても流した血を戻すことはできなかったのだ。


俺はシッケルの瞼を閉じてやり、静かに横にする。

穏やかな顔だ。


「…」


無言で立ち上がり見やると、ナイフから瘴気が出ておりそれがだんだんと人の形を成していく。

海の底で見たのと同じような黒い人型。


「人間でなくナイフの方に取り憑いていたとはな」

『あの男はよく働いてくれた。我には理解できぬが、己の定めたもの従い、そして死んだ。あの男の持っていた力は、我が駒として丁度よいものだったのだ。よくも邪魔してくれるものよ』

「何度も言わせるな。お前は俺が斬る」


守れなかった。


身体の中から感情が吹きだす。

激情が身体を駆け廻り、熱く滾る。


「シュウ様!」

「クルゥ!」

「シッケル!」


俺が感情の波に身体を委ねようとしていると、ウィリアム達が到着したようだ。

視界の端にこちらへ向かってくるのが見える。


アステールとウィリアムは俺を見て、ビクッと足を止める。

俺の後ろに横たわるシッケルを見て状況を悟り、そして心配そうにこちらを見ている。


ブリッツは、シッケルに一直線だ。

横たわる身体を抱きあげ、もう息をしていないのがわかると胸に掻き抱き悲痛な叫び声を上げ始めた。

チラリと視線をやると、涙が滝のように溢れ顔はぐしゃぐしゃだ。


胸に痛みが一瞬走る。

それを考えないように、俺は視線を前へと戻した。


完全に人型を取った魔神の欠片が、目も鼻もないくせに口だけを作り、わざわざ歪んだ笑みを浮かべていた。

口しかないにも関わらず、その笑みが醜悪な物であることが伝わってくる。


俺の身体を忘れかけていた怒りが支配した。

感情が魔力となって溢れだす。


《称号「憤怒に支配されし者」を獲得しました》


ディメンションキーの中から取り出すのは天羽々斬だ。

手加減など必要ない。

天羽々斬に魔力を通し、準備完了だ。


地を蹴り、一歩で魔神に肉薄する。

何故だかいつもより力が溢れてくる気がする。


魔神はニヤリと笑い、俺に向かってナイフを振るってきた。


俺はそれを気にせず、天羽々斬を振るう。


俺の左肩にナイフが刺さるのと、魔神の心臓部分を天羽々斬が貫くのは同時だった。


『なに…?』

「死ね」


そのまま天羽々斬を強引に切り返し、刺し貫いたまま上へと斬り上げる。

当然魔神の身体は、心臓部から肩にかけてを斬り裂かれることになる。


『ぐっ!?』


苦悶の声を上げる魔神に頓着せず、俺は更に刀を振るう。

袈裟掛けに大きく振りおろし、返す刃で胴を切断。

右腕を肩から切り落とし、首を斬り飛ばす。


『くっ』


身体から離れ地面に落ちた首から声が漏れる。


『くっくははははは!これはいい!神の力を振るいし者が闇に堕ちるか!』


魔神が哂う。

全てを嘲るように。

俺を、嘲笑う。


『ならば我はそれを歓迎しよう!我が下へ来るが良い!』


魔神の言葉の意味が、理解できなかった。


だがふと見れば、天羽々斬から溢れ出る力はいつもの白く輝くものではない。

今もなお目の前にある闇色の瘴気。

それが天羽々斬から溢れ出ていた。


『傑作だ』

「…お前を殺せるなら、どんな力でも使ってやるさ」


俺は哂い続ける魔神の首へと近付き、天羽々斬を振り上げる。

そしてそれをそのまま振りおろそうとして


(シュウさん!)


頭に響くようにシッケルの声が聞こえた。

慌てて振り向くが、シッケルはそこに横たわったままだ。


気のせいかと視線を戻すと、目の前に半透明のうっすら光るシッケルの姿があった。


「…シッケル?」

(はい)

「お前…お前は…」

(死んだっすよ。これは多分奇跡っす。シュウさんが使った神聖魔法とシュウさんが持っている死霊術のスキルが、一時の時間をくれたんす)


それはあまりに都合のいい話だった。

神聖魔法にそんな効果はなく、発動していない死霊術が効果を発揮するはずもない。


(そういうことにしてくれればいいっすのに)


シッケルは苦笑しながら言う。

死者にまで苦笑されるとはな。

だから俺は、それ以上聞くのを止めた。


(シュウさん、私の為にそんなことは止めて下さいっす)

「そんなこと?」

(シュウさんの力は、そんな力じゃない筈っす。そんな闇の力を使わないでくださいっす!)


シッケルが必死に訴えてくる。


「だが俺は…」

(すんませんっす。自分の不注意で死んじまって)

「違う!俺が…!」

(言ったはずっす。自分の面倒は自分で見るって。勝手に付いてきたのは自分っす。シュウさんに責任はないっすよ)

「それでも俺は…」


守れると思っていた。

俺にはそれだけの力があると。


誰かを助けることはできなくても、目の前にいる人を守れるだけの力はあると。


思い上がりだった。


結局俺は、人を守ることもできなかったのだ。


(なら、これから守ってあげて欲しいっす)

「…何?」

(シュウさんの眼の届く範囲の人を。シュウさんの意思で、その手で守っていってあげてくださいっす)


シッケルが優しく微笑む。

それに対して俺は、自分の顔が歪むのがわかった。


(約束っすよ)

「…ああ…ああ、約束だ。俺の眼の届く範囲の全て、俺が守る」

(私の…俺の憧れたシュウさんなら、必ずできるっす)


シッケルの姿が薄くなっていく。

もうこの奇跡の時間が終わりなのだとわかる。


「待ってくれ!なんで俺に!ブリッツは…!」

(謝っておいて欲しいっす。約束守れなくてごめんって)


哀しそうに微笑むシッケルに、俺は手を伸ばす。

だがその手は、シッケルをすり抜けるばかりで、触れることはできない。


(さよならっす。約束忘れないでくださいっすね)

「ふっ…自分が約束を破っといて、人には忘れるなと言うのか」

(ははっ!違い無いっすね)


シッケルは笑顔のまま、その姿を消した。


『どうした、小僧』


俺は沈黙したまま、肩に刺さったままのナイフを引き抜き、空中で叩き斬る。


『ぬっ!?バカなっ!?』


油断していたのか、魔神はそんな声を上げる。

天羽々斬は、本来の輝きを取り戻していた。


「約束だ」


(断ち切れ)


胸の中でそう呟き、俺はナイフを細切れに切り刻んだ。


《称号「憤怒を乗り越えし者」を獲得しました》

《ユニークスキル「優しき死者達(ディアフレンズ)」を習得しました》

《称号「死者を悼む者」を獲得しました》

黒葉周 18歳 男 

種族:???

冒険者ランク:A

HP:11200

MP:∞

魔法属性:全

<スキル>

格闘術、剣術、槍術、棒術、弓術、刀術、棍術、投躑術、暗器術

身体強化、完全回復

馬術、水中行動、天足、解体、覇気、看破、隠形、危機察知、魅了、罠解除、指揮、並列思考、変則剣技、四足機動

耐魅了、耐誘惑、耐幻惑、恒温体

礼儀作法、料理、舞踊

<ユニークスキル>

天衣模倣マスターコピー完全なる完結ジ・エンド・オブ・パーフェクト全知眼オールアイ識図展開(オートマッピング)天の声(アナウンサー)竜の化身(ドラゴンフォース)万有力引(エナジードレイン)千変万化(カモフラージュ)優しき死者達(ディアフレンズ)(new)

<オリジンスキル>

魔法

<称号>

「知を盗む者」、「異世界からの来訪者」、「武を極めし者」、「すべてを視る者」、「竜殺し」、「下克上」、「解体人」、「誘惑を乗り越えし者」、「美学に殉ず者」、「魔の源を納めし者」、「全能へと至る者」、「人馬一体」、「無比なる測量士」、「翼無き飛行者」、「竜の友」、「破壊神の敵」、「半竜」、「湯治場の守護者」、「妖精の友」、「底なしの動力源」、「戦闘狂(バトルジャンキー)」、「深淵へ至りし者」、「逸脱者」、「神…????」、「人を辞めし者」、「奔放不羈」、「千の貌」、「憤怒を乗り越えし者」(new)、「死者を悼む者」(new)

<加護>

「??神の加護」、「創造神の加護」、「破壊神の興味」、「戦と武を司る神の加護」、「知と魔を司る神の加護」、「生と娯楽を司る神の加護」、「死と眠りを司る神の加護」、「大海と天候の神の加護」、「鍛冶と酒の神の加護」、「炎竜王の加護」、「妖精女王の加護」

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