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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第八章 更なるステージへ「Sランク昇格試験」編
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第184ページ 狂気の結末

すごく間隔を開けてしまったぁぁぁぁぁ!

すみません。

忙しかったのもあるのですが、どうも筆が進まなくて。

王都にいると筆が進まない…

また毎日更新でやっていきたいと…思います…

「あひゃひゃひゃひゃ!」

「シュウさん!」

「下がってろ!」


狂声を上げながら向かってくる男。

月に照らされ、ナイフが光る。


ガキンと音を立て、火花を散らす勢いでナイフと双月が打ちあわされる。

狂気を感じさせていながら、男のナイフ捌きは一流のそれだ。


少し長めのサバイバルナイフのようなそれは、闇の瘴気をまとわせ段々と刃の銀色が闇色へと変化していく。

夜、月明かりだけの状態で、ナイフの刃が見えにくいというのはかなりのアドバンテージではある。


俺でなければ。


俺の目は夜の闇も関係なく視える。

多少ナイフが見えづらくとも問題は無い。


問題は、ナイフの軌道が読めないことだ。


男のナイフは、俺の急所を狙っているようでいて、急所に拘っていない。

傷を多くつけ、出血させることが第一目的。

急所に入るならそれはそれでいい、といった感じだ。


けれど、どれだけの技術があろうと俺にとってはいい見本でしかない。

相手の動きを把握し、徐々にであるがこちらの双月が男へと届いて行く。

二刀である双月を完全に避けきっていた今までが不自然だったのだ。


男も不利を悟ったのか、後ろへ大きく跳び退る。

同時に男の魔力が動きだすのが感じられた。


「狂っているくせに魔法まで使うのか!」


俺も火矢を作りだし放つが、一瞬遅れ男の魔法が完成する。

ぶわっと男の周りから濃霧が生みだされた。


「水魔法で霧を作ったか!」


火矢に当たった感触もない。

霧を出し、姿が見えなくなったと同時に移動したのだろう。


だが、霧だけ(・・)なら俺にとって問題ではなかった。

霧だけならば。


「…何?」


気配を感じられない。

それどころか<識図展開(オートマッピング)>にも光点が映っていない。


「どういうことだ?」


男のユニークスキルの効果は、自分に関わる音を消すというものだった。

気配は消せないし、俺のユニークスキルを防ぐことはできない。


霧によって視界は塞がれ、ユニークスキルによって音は聞こえない。

どういうわけか気配はなく、マップにも映らない。


現状(・・)、男の場所は完全にわからないと言っていい。

あくまで今のままならだが。


「吹き飛べ」


風魔法により生みだされた暴風が、俺を中心にして渦巻き、霧を吹き飛ばす。


視界がクリアになるが、男の姿は見えない。

振り向けば、霧と一緒に吹き飛ばされたのか男が壁際で起き上がろうとしているのが見えた。


壁が一部崩れているのでかなりの勢いでぶつかったのだろう。

それだけ至近距離にいたということか。

あと一歩魔法の発動が遅ければやられていたかもしれない。


ゆらゆらと安定しない動きで何も気を配っていないというのに不自然な程音がしない。

これがユニークスキルの効果か。


更に男の身体には闇の瘴気がまとわりついており、おそらくはあれが気配を消しマップにも映らないようにした原因。

魔神の瘴気は魔力を吸収するだけでなくこんな効果もあったのか。


「シュ、シュウさん…」

「おお、シッケル。巻き込んだか?悪いな」


声が聞こえてきた方を見れば、シッケルがうつ伏せで横たわっている。

息も絶え絶えの様子だが、壁にぶつかった感じもないし怪我もしていない。

大丈夫だろう。


視線を戻すと男はゆらりと立ち上がり、上体を反るように起こして視線だけをこちらに寄こしていた。

青みがかった前髪が顔にかかり、かなり怖い。


「邪魔ァするナァ…」

「衝撃で少しは正気に戻ったか?」

「邪魔スルナァァァァ!!殺ス殺ス殺ス…」

「…ほんとに少しだな。だが今なら視える(・・・)か?」


全知眼(オールアイ)>によって心を覗く。

戦闘中などは覗いた心に集中することなどできない為使えないが、今なら問題ない。


「視させてもらうぞ。お前の記憶」


ノイズ混じりの映像が流れ込んでくる。


薄暗い路地。

汚い格好をした大人達。やさぐれた印象を受ける街娼の母親。

少し身なりの良さそうな医者風の男。その男から医術を学ぶ風景。

軍医として従軍する男。護身用にと教えられる体捌き。

帰って来た英国。医者として活動する日々。

再会した母親。子宮の摘出を望む母親。

男に湧き上がる感情。殺した母親を見降ろす男。

子宮を摘出する男。


似て非なる異世界の風景。

同じように身体を売る女たち。

男の内から湧き上がる憎悪。嫌悪。


「邪魔するナァァァ!!」


ガキンと音を立て、男の振るったナイフを受け止める。


記憶を見る限り男は街娼から生まれ、孤児となった。

自分を捨てた母親への恨みが、子を生まない娼婦達への恨みとなり事件を起こした。


それはこの異世界でも同様に。


「想像以上に、くだらない話だった」


双月を振るう。

背中を打ちつけ怪我を負った男は、今までのように機敏な速さを見せない。


左手で振るわれた双月が男の右腕を肩から切断する。


「捨てられたお前にも色々あったのだろうが、母親と話もしていないんじゃないか?」


右手で足を薙ぎ、足首に傷を負わせる。

これで男はもう立ってもいられない。


「娼婦たちを一撃で殺していたのは、お前なりの優しさだとでも言うつもりか?反吐が出る」


男の左肩に一振り刺し貫き、男を地面へと縫いつける。


「結局お前がやったことは理解できない無差別殺人だ。許容できるものではない。お前は…美しくない」


もう片方の双月を大きく振るう。

双月の軌道に沿うように、男の首が斬り飛んだ。


「あの世で母親に甘えて来い。マザコンが」


男の犯行は、母親を殺してしまったがために続いたものだ。

どうにか正当性を持たせようと、自分が捨てられた恨みからの犯行を、子どもを殺す娼婦たちへの怒りの代弁と塗り替えていた。


双月についた血糊を払い、仕舞う。


「嫌な仕事だった」


この手の仕事はもう受けないようにしようかと割と本気で考える。

どうせ俺には、誰かを救うことなどできないんだ。


「お疲れっす!」


近付いてきたシッケルの顔には、畏敬が映る。

だが今の俺にはそれさえも、気分が悪くなることだった。


「帰るぞ」


俺はシッケルの顔を見ないように言葉少なに早歩きで歩き出す。


「はい!いやぁ流石っすね、シュウさん!途中から速すぎて私には何が何だか…どうやったらそんなに強…く…?」


後ろから興奮気味に話しかけて来ていた声が唐突に消える。


「シッケル?」


俺が振り返るのと、シッケルの身体が傾き倒れるのは同時だった。

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