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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第八章 更なるステージへ「Sランク昇格試験」編
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第183ページ 犯人発見

夜の静寂を破るように響き渡る女の悲鳴。

俺はすぐさま身を翻し、声の方へと走る。


「シュウさん!場所がわかるんですか!?」

「ああ!」


声が聞こえてきた方に光点は一つしかない。

そのことを疑問に思いながらも俺はその場へと急ぐ。

俺の全速力にシッケルは付いてこれないようだったが、速度を落とすようなことはせずただ走る。


現場についた俺に見えたのは、腰を抜かして震えている女性と、その前に横たわる明らかに死んでいる女性。


「遅かったか!」


駆けつけた俺が上げた声に、女性はビクッと震え恐る恐る振り向いた。


「依頼を受けてこの事件を追っている冒険者だ。大丈夫か?」

「わ、私は大丈夫です…で、でも…その…」

「落ち着け。ゆっくりでいい」

「シュウさん!」


息を荒げながらシッケルも到着。

恐怖で真っ青になっている女性から話を聞くが、どうやら彼女は全てが終わってからたまたま通った場所でこの遺体を発見しただけだそうだ。

あの悲鳴はこの女性が襲われた時ではなく、彼女が遺体を発見した時に上げたものであった。


だがそうなると、この殺された女性は悲鳴を上げる間もなく殺されたということか。

これだけ近くにいてそれを俺が気付かなかったのか?


人が死んだ時、<識図展開(オートマッピング)>に映る光点は色を失くし薄くなっていく。

完全に死ぬとマップ上からも消えるのだ。

そんな異常が起きればすぐにわかるくらいにはチェックしていたのに全くわからなかった。

そもそもここに光点はなかった筈だ。


「いつもそうなんです。巡回を始めてからも遺体を発見することはあっても、被害者と犯人が争う音や悲鳴が聞こえたことはありません。今回聞こえたのもびっくりしたんですが、やはり被害者ではなかったんですね…」


悔しそうにシッケルが顔を歪める。

衛兵隊に勤めている以上この犯人に思うところがあるのだろう。


「まだ終わっていないぞ」

「え?」

「今ならまだ視える(・・・)


全知眼(オールアイ)>を発動。

今回視るのは過去ではなく、この場に残る魔力の残滓だ。


時間が経つと完全にわからなくなってしまうのだが、今はまだ魔力を追うことができる。

相手の魔力が少なかったりすると無理だが、その心配はいらなかったようだ。


はっきりと視える魔力の残滓が暗い裏道に続いていた。


---


第一発見者の女性にどこか近くで隠れているように言い、俺達は走りだした。

他の衛兵やアステール達も向かって来ていたようだから大丈夫だろう。


犯人に近付くにつれ、魔力の残滓も濃くなっていく。

それによって俺は、自分が何故犯人を知っているような気がしたのかわかった。


「シッケル、ここから先は絶対に危険だ。自分の身を最優先にしろ。俺を置いて逃げることも考えておけ」

「そんな!?」

「安心しろ。やられるつもりはない」


だが、場合によってはどうなるかわからない。

近くにいられると危険と言う可能性も十分に有り得る敵だ。

むしろその可能性の方が高いと言えるだろう。


「…シュウさんは犯人が誰かわかったんですか?」

「わかったと言えばわかった。わからないと言えばわからない」

「どっちなんですか?!」

「…すぐにわかるさ」


言葉の通り、犯人にはすぐ遭遇した。


その男は、少しだけ開けている場所で空を見上げながら立っていた。

ほんの何十分か前に残虐に人を殺したとは思えない程静かに、月を見上げていた。


その手が血に真っ赤に染まり、その後ろ姿に見覚えがなければその男が犯人だとは思わなかったかもしれない。

そんな感じであった。


「どういう理由でこんな殺人をしているのかは知らん。だが言った筈だ。お前は俺が斬る、と」


男がゆっくり振り返る。

にやぁと気味の悪い笑みを浮かべた男が右手に持つ大きなナイフを振り上げた。


「あひゃひゃひゃーー!!」


甲高い声を上げながら男は猛然とこちらに走ってくる。

その動きは素人そのものであり、脅威にはならない。


脅威になるのは、そのナイフだ。


膨大な魔力が宿ったナイフが、振られる。


俺の天羽々斬と似たような能力。

魔力による不可視の刃が俺へと襲いかかる。


「下がっていろ、シッケル!」


俺は斬鬼を手に持ち不可視の刃を受け止める。

ガキンという金属音がし、俺の手に衝撃が走る。


「ぐっ!?」


男の細腕では到底かからないような力が加えられた一撃が、俺の身体を強引に横へ吹っ飛ばした。

空中で体勢を整え着地する。


「やはりそうか。随分とやることが小さくなったな、神様よ」

「アァ…」

「表層に意識が出てきていないのか?取り憑かれてそうなったのか元々そういう奴だったから取り憑かれたのかどっちだろうな?」


男にはもはや理性などないようだった。

こんな状態でよく捕まらなかったものだ。


―・―・―・―・―・―


ジャム 38歳 男

種族:人間

HP:6660

MP:5900

魔法属性:水

<スキル>

短剣術、暗器術、隠密、逃走、解体、医術

<ユニークスキル>

無気質な道化師(ノイズインザダーク)

<称号>

「切り裂きジャック」、「殺人鬼」、「美学に殉ず者」、「異世界からの来訪者」、「知らぬ人」、「魔神の玩具」、「人殺し」、「狂気に溺れる者」、「混沌に支配されし者」、「平穏を破る者」


―・―・―・―・―・―


「おいおいおい…まさかあの事件の犯人その人か?」


犯人が異世界へと渡って来ていたのなら向こうの世界で捕まる筈は無い。

時間が合わないが、やはり空間を超える段階で時間もまたあべこべになっていると考えるべきだろう。


「魔神の欠片に取り憑かれた連続殺人鬼ね…」


厄介な奴に最悪な物がピッタリと嵌ってしまったようだ。


「逃がせない理由が増えたな」


俺は斬鬼を戻し、双月を手にする。


月明かりに照らされる男の顔は、相変わらず笑っていた。

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