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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第八章 更なるステージへ「Sランク昇格試験」編
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第180ページ シッケルの憧れ

「ここは…」


目を開けると見慣れぬ天井だった。

辺りを見回すと、どうやらどこかの医務室のようで、俺の他にも何人かいることがわかる。

識図展開(オートマッピング)>で確認すると、どうやら二番街の衛兵所内のようだ。


天上の木目を数えながら俺は倒れる直前の記憶を思い起こす。


過去視は確かに疲れる能力ではあるのだが、これまであのように目の前が暗くなり意識がなくなったことはなかった。

どう考えても視た映像が理由だ。


「あの男…」


前髪に隠れ顔はよく見えなかったが、どこか知っているような感じがした。

俺の知り合いにあんな奴はいない筈なのだが…


結局犯人がわかるようなものは得られなかった。

もう一度視れば何かわかるかもしれないが、何度も昏倒するわけにもいかない。

少なくとも何が原因で昏倒し、どう対策すればいいのかはっきりとわかるまではやめた方がいいだろう。


「シュウ様!気がついんたんすか!?」

「シッケルか…迷惑かけたみたいだな」

「とんでもない!大丈夫なんすか?!」


シッケルが駆け寄ってくる。

その後ろには衛兵隊長と保安部長の姿も見える。


「何があった?」

「…」


ベッケル保安部長は、いつも通りの表情をしているが、目には心配の色が浮かんでいる。

ディアス衛兵隊長も同じだ。

どうやらかなり心配をかけてしまったようだ。


「ご心配をおかけしました。倒れた原因はわかりませんがもう大丈夫です」


俺がそう言うと疑うようにこちらを見ていたが、やがてフンッと鼻を鳴らして口を開く。


「原因が不明というのが納得できんが、まあいい。何かわかったか?」


納得できないと言われても俺にもわからないんだから仕方ない。


俺は視たことをありのまま伝える。

といってもあまりないが。

犯人は男、凶器は刃渡り30cm程の刃物、青みがかった黒髪で肩くらいの長さ。

服装は一般的な庶民のもので特別汚れてはいないが新品のようでもなかった。

ただ着古されているわけでもない。


情報として伝えられるのはそのくらいだ。

知っているような気がしたものの、ああいった知人に心当たりがないので言っても仕方ない。


「まったく手掛かりがないよりはマシだが…」


言いたい事はわかる。

まったくないよりマシでもこれだけで犯人を捕まえるのは無理だろう。


「これ以上は現状わからない可能性が高いです。あの犯人には何か(・・)ある」

「何か?」

「わかりませんが俺が昏倒した原因となる何かです」

「ふむ…」


ベッケル保安部長が顎に手を当て考え始める。

ディアス隊長とシッケルも何やら思案しているようだ。


「私はこれからしばらく二番街の巡回に加わります。加わると言っても単独で行動させてもらいますが」

「わかった。衛兵隊には話を通しておこう」


ディアス隊長が頷き礼を言ったところで、二人は医務室から出ていく。

残ったのはシッケルだけだ。


「どうした?」

「あの…巡回、俺も一緒に行ってはダメっすか?」

「何故だ?」


正直シッケルがここまで俺に着いてきたがる理由がわからない。

今日初めて会ったし、長年バディーを組んでいたブリッツを力づくで黙らせている。

良い感情を抱かれているとは思えない。


「…俺、今でこそ盗賊職やってますけど本当は剣で戦う騎士になりたかったんです」

「…」

「でも盗賊職に適正があったし、早く上に上がるにはちょうどよかった。結局どこかで剣を諦めてたんすよ。けどシュウ様は、それだけの力があって俺以上に使えるスキルも持ってる。ぶっちゃけ羨ましくて、嫉妬してしょうがないっす」


俺も自分のユニークスキルを自分の力だと思っていない。

だからこそ、周りから見ればそういう風に思われることも理解できる。


「でも…同時に憧れでもあるんす。そんな風に力を持っているのに、決して驕ることなくて…自分の道を進むっていうか」


俺はそんな風に言ってもらえるような人間ではない。

ただ、真剣に言ってくれているシッケルに対しそう言えるような人間でもなかった。


「付いてこれなければ置いて行く。それと、自分の身くらいは自分で守れよ」

「はいっす!」


俺はシッケルを連れていくことにした。

自分に憧れを抱いている者の前でいい格好をしたかったのか、その憧れが幻想に過ぎないことを見せたかったのかわからない。


だが、この選択を後に悔いることになるとは思っていなかった。

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