第174ページ 試験一日目
本日二話目です。
ルーリの護衛という依頼を終えた翌日から、俺は何故だか忙しなく動くことになった。
シュレルン公爵家から遣いが来て、パーティーで挨拶しなかったことを公爵夫人に責められた。
王城から遣いが来て、俺が王都にいることを知った王族たちの愚痴に付き合わされた。
どうしてこうなった。
そんなことをしていると昇格試験の日はすぐに訪れた。
一日目の今日は筆記と戦闘試験だ。
そして今、筆記試験が終わったところなのだが…
「騙された!!!」
俺は途中退室を許可され、部屋から出ると思わず怒鳴る。
怒鳴った相手はもちろん冒険者ギルドガイア支部のトップ二人だ。
筆記試験は恙無く終わった。
終わりすぎた。
グラハムやテロメアに教えてもらった範囲は出たのは出たが、少量であった。
どうやら俺は入れなくていい知識を必死になって詰め込まされていたらしい。
言われていたよりも遥かに簡単だった。
もっともこれは俺があちらの世界で数学などを習っていたからだ。
こちらの世界では文字も算術も一般的には学習しない。
冒険者は平民が多いので筆記試験というだけで難しいということになってしまうようだ。
だから、それに加えこちらの世界の専門的な知識を覚えさせられたことでかなり難しいと思っていた。
実際はこの機会に覚えさせてしまえという考えだったのだろう。
役に立つ知識なので覚えさせてもらったことに否はないが、あんなにした勉強がほとんど無駄に終わった徒労感はどうにもならない。
帰ったら文句を言ってやらねばならんだろう。
一人だけ早く部屋を出た俺は、ギルド内に作られたカフェスペースで時間を潰す。
この後午後から戦闘試験となる為一端帰るのもめんどくさいのだから仕方ない。
「相席してもよろしいですか?」
「ん?ああ、いいぞ」
そう声をかけてきたのは見慣れないまだ若い男だった。
きっちりした格好をしており、まったく冒険者には見えない。
白金の短髪にスラッとした体型。
優男といった風貌で、イケメンだ。
「申し遅れました。私、冒険者ギルドで働いています、フィリップと申します。よろしくお願いします」
「ランクA冒険者のシュウだ。よろしく」
差し出された手を握り答える。
冒険者ではなくギルドの職員らしい。
ギルドの職員がこのようにギルド内のカフェで食事をする光景は珍しいような気もするが、そんなこともあるのだろう。
周りも特に騒いだ様子はない。
だが、そういえば空席はいくらでもある。
わざわざこの席に座ったということは俺に何か用があるのか?
「何か俺に用か?」
「単なる興味です。英雄と呼ばれる冒険者とは気になるではないですか」
どこか観察するような視線だが、その雰囲気もあり嫌ではない。
イケメンは得だな。
それから俺達は食事を摂りながら話をする。
といっても別に大したことは話していない。
日常の話が多く、取り留めの無い話だ。
気になると言った割に俺のことを聞いてくるわけでもない。
マインスのように特殊なスキルを使い俺のステータスを覗くわけでもない。
「では、お邪魔してもなんですから失礼します。ありがとうございました」
結局目的はわからなかったが、俺の目的であった暇つぶしは達成したのでよしとしよう。
戦闘訓練の時間となり、俺はギルド裏にあるという訓練場へと移動した。
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「これから諸君らにはSランク以上の冒険者と実際に戦ってもらう。武器、魔法、スキルは全て使用可能だが、相手を死亡、もしくは死に至らしめる怪我を負わせた際は失格となる。この試験では相手に負けたからといって不合格になるわけではないので気楽にやるといい」
気楽にと言われて気楽にできる奴はほとんどいないだろう。
負けても不合格に直結するわけではないとはいえ、勝った方が評価が高くなることは当然だ。
まぁ俺はせっかくの対人戦闘なので新しい武器の使用感チェックも兼ね気楽にやらせてもらうが。
順番を呼ばれ、いくつかの対戦スペースで試合が行われる。
評価するのは対戦相手である試験官と、対戦の様子を外から見る一人のギルド職員。
どちらか一人でもSランク以上の能力があると判断すればいいのだろうか?
よくわからないな。
「次!シュウ・クロバ!」
おっやっと呼ばれた。
お相手は誰だろうか?
「ん?相手がいないみたいだが?」
「ああ、すまない。君の担当試験官がまだ来ていないようだ。おっ来たぞ。光栄に思うが良い。あまりないのだぞ?」
その言葉の意味がわからず、職員が見ている方を見るとこちらに来ている俺の試験官が見えた。
思わずニッと口の端が吊りあがるのがわかる。
「おいおい…勘弁してくれよ、まさか兄さんが相手か?」
「どうやらそのようだ。久しぶりだな」
俺が立っているところまで来たその男は、本当に嫌だというように顔を歪めギルド職員にも確認する。
なるほど、光栄に思えというのはこういことか。
「Sランク以上だもんな。そういう可能性もあったんだよな」
「はぁ…兄さんに戦闘試験なんて必要か?もう合格でいいだろうよ」
「せっかくなんだ。やろうじゃないか。なぁ、ギース?」
俺がそう言うと目の前の男。
ギースは盛大に溜息をつき、腰から剣を抜いた。
「SSランクの力、見せてもらおうか」
「まったく、引き受けるんじゃなかったなぁこの仕事」
俺も双月を取り出し、構える。
俺達のやり取りに疑問顔を浮かべていたギルド職員が、戦闘態勢に入った俺達「始め!」と声をかけた。
瞬間、俺達は同時に踏みだし相手に接近する。
刃を討ちつけ合う音が、その場に響いた。




