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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第八章 更なるステージへ「Sランク昇格試験」編
200/358

200部記念SS「食欲の秋」

我は熊だ。名前はサンダース。

数少ない友人が付けてくれた大切な名前だ。


我はガイデン森林の(ぬし)ということになっている。

間違ってはいないが正確ではない。

しかしこれは人の知らぬこと。

知る機会も訪れぬ方がよい。


我は人という種族に対し好きも嫌いも抱いていない。

幸いにしてこの森は人族に踏み荒らされるということもあまりないからだ。

大抵の人族よりも我の方が強いことも理由の一つかもしれない。


そんな我だが、今は来客を迎えに行っている。

といっても招いてはおらんが。


『また小僧か…』

「いい加減小僧扱いはやめてくれないか?サンダース」


この小僧は冒険者だ。

それも並の冒険者ではない。

今まで我が見た中最も強いと言ってもいいかもしれん。


おそらく我ではこの小僧に勝つことはできんだろう。

初めて小僧がこの森に来た時、我は死を覚悟してその前に姿を見せた。

我の命よりも優先すべきものがこの場にはあるからだ。


しかし、小僧の目的は我でも我が守っている物でもなくキノコだった。

茫然としたわ。

なんだそれはと肩透かしを食らった気分だったわ。


それからこの小僧は何度かこの森に訪れるようになった。

もう放っておくことにしたが、偶に我に会いに来ることもある。

我の知る情報を求めてが多いが、土産を持ってくるからよしとしよう。

さて、今日は何用で参ったのか。


『何用だ?』

「ああ、鮭を取りにな」

『……鮭?』

「ああ、レインボーサーモンだ!」


レインボーサーモンとは幻の魚と言われている。

その名の通り虹色に輝く鮭であり、一憶匹に一匹の割合で現れるという。


『この森にそれが現れると?』


この森には渓流がある。

あの場所に繋がる渓流。

そこに鮭が帰ってくることもあるが、レインボーサーモンは見たことがない。


「知らんが、そんな話を聞いたら食べてみたくなるだろう?」


運任せか。

まぁそれもいいだろう。


あの場に行かせるわけにはいかぬが、渓流に案内するくらいならいいだろう。

それにもしレインボーサーモンが現れるというのなら我も食べてみたいものだ。


---


「ここか?」

『この森にある渓流はここだけだ』


小僧とブラックヒッポグリフを案内する。

二人とも前に会った時より力が増している気がするので、正直心配ではあった。

案の定、小僧は気付いたようだ。


「この川は…」

『気付いたか』

「ああ。これは何だ?魔力ともまた違う…」

『悪いがそれは言えない。ただし、悪い物ではない』

「…そうか」


それ以上、小僧は何も聞かなかった。

我が言えないと言ったことの意味をわかってくれたようだ。


「さて!レインボーサーモンは来るだろうか?」

『我は見たことない。しかし、可能性はあるだろうな』


考えてみるとこの川は特別だ。

レインボーサーモンの出現条件はわからないが、マイナス要素は無い筈。

むしろ他の川よりも一段と栄養素が高いのだから。


「来たな」

『ああ』


小僧が見る方を見ると、ちょうど鮭が川を登ってきているところだった。

身体がうずく。


隣りからブラックヒッポグリフが飛び出すのが見えた。

我も我慢できずにそれに続く。


「おいおい…アステールはまだしもサンダースまでか」

「クル!」

『う、うむ。これは野生の本能というやつだ』


気付けば我は口に鮭を咥え、更に河原へ鮭を放り出していた。

ブラックヒッポグリフも同じような感じである。

最初はうまくいっていなかったブラックヒッポグリフだが、我のやり方を見てすぐに学んだようだった。

まったく賢い魔物だ。


しかし、レインボーサーモンは見当たらない。

我も姿を知っているわけではないが。


「…いたぞ。レインボーサーモンだ」

『何っ!?』

「クルッ!?」


我とブラックヒッポグリフの声が重なる。

だが小僧の指す方向にはただの鮭がいるだけだ。


『どこにいるというんだ?』

「クル?」

「レインボーサーモンは虹色に輝く。ただ、全身が輝いているわけではない。輝くのは、尾びれだけだ」


そう言われ、我は注視して鮭の一団に目をやる。

するとその中の一匹だけ、尾びれが虹色に輝いているものがいた。


『あれかっ!』

「クル!」


ブラックヒッポグリフも認識したようで同時に駆けだす。

むむ、邪魔だ。


「クル!」

『大人しくしておれ!』


興奮で周りが見えなくなっているようだ。

鮭を蹴散らし凄い音を立てながら川に飛び込んだ。


「レインボーサーモンは警戒心が異常に強いらしい!気をつけろ!」


そういうのは早く言うものだ小僧!

それにそう言うならばお主の従魔をどうにかしてくれ!


だが、既に遅かったようだ。

レインボーサーモンは普通の鮭に混ざり込み、どれがどれだかわからない鮭の群れとなる。


「離れてろ!」


後ろから小僧の声が聞こえ、我とブラックヒッポグリフが瞬時にその場から跳び退る。

同時に川の水が持ち上がり、鮭の群れを飲み込んだまま空中に大きな球形の水塊ができあがる。


「捕獲完了だな」


流れている水を操り鮭の群れごとレインボーサーモンを捕獲するという規格外なことを一瞬でやらかした小僧はそうニヤリと笑っていた。


---


「うまいっ!」

「クルゥ!」

『これは本当に…うまいな』


レインボーサーモンを三分割すると我にとっては少ないが、それでもその凝縮された旨味は我の身体を震えさせた。

これ程うまい物を食べたのは初めてかもしれぬという程に。


量が少ないのが問題か。

あの子たちにも食べさせたかったが…


「ほら」

『む?』


小僧が我にレインボーサーモンを差し出してくる。

だが我に充てられた分は全て食べ終えた筈だが?


「子どもにも食べさせてやれ」

『!』


知っていたのか。

そう言えば初めて会った時、待っていろと言ったにもかかわらず我を心配して子どもたちが近くまで来てしまっていた。

その時に見たのだろう。


『良いのか?』


我はほとんど何もしていないと言っていい。

それなのにこれ程貰っていいのだろうか?


「いいさ。美味いもんは皆で分けた方がいいだろう?」

『…感謝する、シュウ』


我がそう言うと、シュウは一瞬だけ驚いたように目を瞠り、面白そうに笑った。


---


「またな、サンダース」

『ああ、いつでもこい』


シュウになら、森の秘密を教えてもいいかもしれない。

人の協力者というものがいてもいいだろう。


「そうだ、サンダース。お前言わないのか?」

『何をだ?』

「ケイトにだよ」

『…ああ、良いのだ。それに我はこの名前気に入っておる』

「そうか。じゃあな、サンダース母さん」

『お主を産んだ覚えは無い!とっとと帰れ、シュウ』


はははっと笑うシュウを見送り、我は子どもたちの下へ戻る。


シュウが我の性別を見抜いたことは驚きだ。

ケイトは全くわかっていなかったのに。


空を見上げると、赤くなり始めた空を鳥が編隊を成して飛んでいた。

秋の澄んだ空と、新しくできたかもしれぬ友に、我は頬が緩むのを感じた。

中途半端で投稿されていましたすみません!

リクエストを取り入れ、「サンダース」と「食欲の秋」を描いたつもりです。

如何でしたでしょうか?

今夜0時からまた本編に戻ります。

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