○話 どこかの場所の誰かの話
そこはただ真っ白な空間。
何もない延々の白が続く空間に何人かの影が現れた。
「状況はどうじゃ?」
白服に身を包み。
身の丈ほどの杖を持ち、地に付きそうなほどの白髭をたくわえた老人が問う。
「うーんそうねー特に問題はなさそうねー」
同じく白服に身を包んだ女が答える。
どこか艶かしい印象を与える20代くらいの女は足元の鏡を覗き込んでいた。
「しかし、今代はイレギュラーが多いですね。それぞれに状況が違っているために監視も大変ですよ」
30代くらいの男が言う。
メガネをかけた研究者風の男はやれやれといった具合に首を振る。
「まったくだな。これで何人目だ?」
50代くらいの男が言う。
無精ひげを生やし、酒瓶を手に持つその姿はどこか他のものとは違っていた。
「そうさねー。今回の子に、あの子とあの子と、それからあの子もだろう?あとあの子も一応イレギュラーに入るだろうし、そういえばあの子もまだ生きてたっけねー」
40代くらいの恰幅の良い女性。
大らかという印象を与えるその女性は考えるようにして答える。
「…あの自分の力で不老を成し遂げた男ね…彼が私の管轄に入るのが楽しみだわ・・・」
7歳くらいの少女がどこか眠そうに言う。
だがその姿からは眠気など感じられず気品を漂わせている。
「でもでも、これだけいるのに性質が悪の人がいないのが救いだよね!」
10才くらいの少年が声を明るくさせて言う。
愛らしいその容姿と相まって周囲が微笑む。
「…」
その中で20代くらいの長髪を無造作に垂らした男だけが目を閉じて無反応を貫いていた。
「いずれにしてもじゃ。この世界においてのイレギュラー、異世界人の監視は儂らが行わなければならないことじゃ。彼らは容易にこの世界のバランスを崩す恐れがある。まぁ基本的には何もせんが望んで世界を壊す動きを見せれば…」
最初の老人が言う。
その言葉に周囲の者全員が真剣な面持ちで頷いた。
「さてさて、黒葉周か。その力、儂らにも届くやもしれんな。そうなったらあるいは…あやつのことを止めてくれるのはお主になるかものう」
老人は自分たちにも届きうる力を持った存在に危機感を持ち、だがどこか面白そうに言う。
そして鏡の中に映る少年を見てその姿を消した。
気づけばそこには誰もいない。
誰も知らないその場所で誰も知らないその話。
しかしこの時確実に、世界の運命は動き出していた。
 




