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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第八章 更なるステージへ「Sランク昇格試験」編
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第165ページ 再び王都へ

しばらくはギルドと図書館を行き来して勉強漬けの毎日だった。

片っぱしから知識を詰め込み、副ギルド長のテメロアさんが手ずから作成した模擬試験をクリアした段階でちょうど王都へ向かわねばならないくらいになった。

ああ、勉強した。


ちなみに俺が勉強している間に俺の従魔であるはずのジャックは旅立った。

なんて薄情な奴だ。

ただ、一つだけ指令を出しておいた。

ついででいいからやっといてくれるといいんだが。


「シュウさん、行かれるんですね」

「ああ。ケイトはどうするんだ?」


あれからケイトはガイアに留まり、のんびりと暮していたようだ。

サンダースの所へ行ったりもしていたようだし、俺もケイトが従えている色んな魔物を見せてもらったりもした。

あれとか向こうの世界でも有名な魔物もいたりして驚いたな。


「僕ももうすぐ帰ります。やることもなさそうですし」


聞けばのんびりと暮していただけでもないようだ。

何度か深淵の森にも足を運んでその後の様子を見てきたらしい。

いやはや頭が下がる。


結果として深淵の迷宮は既に消滅しており、地竜王の様子にも変わりはない。

その判断ができたことで、ケイトも本拠地に戻ることにしたそうだ。

ケイトの本拠地は獣大陸なんだそうで、いつかは行きたいと思っている。

また会うこともあるだろう。


「じゃあまたな」

「はい。お世話になりました」

「こっちのセリフだ」


そう笑って、手を振るケイトに見送られながら、アステールが飛び立つ。

今回はサルベニーに滞在したりもせず王都へ直行だ。

大丈夫だとは思うが日数が心配だからな。


---


結論を言えば、心配は杞憂に終わった。

というか


「アステール、お前速くなってないか?」

「クル」


ヒッポグリフのドヤ顔を見たのは初めてだ。


前回は二週間程かかった道中だったのだが、今回は一週間でついた。

普通に地上を馬車で行ったら20日は最低かかるのだからこの移動速度は尋常ではないといえる。


「まぁ速い分にはいいか」


速く着いた所で問題になるわけでもない。

俺は門兵に対しギルドカードを提示し中へと入る。

何故かものすごく(かしこ)まられた。

どういうことだ?


「とりあえず宿を取りに行くか」


公爵はまたここに泊まればいいと言ってくれていたが、そこまで甘えるわけにはいかない。

それに、二番街の方が冒険者ギルドに近く何かと都合がいい。


俺は前に一度泊まったことがある二番街の宿に向かう。

高級宿というほどではないが、厩がしっかりとしているこの宿はアステールを連れている俺にとっては最適だった。


「これはこれは、シュウ様。いらっしゃいませ」


出迎えてくれたのは前に来た時にも担当してくれた初老の紳士。

白髪を短く切り揃えオールバックにセットしている。


「覚えていたのか?」

「それはもちろん。例え一日しか泊まられなくてもお客さまですから」

「すごいな」

「というのは冗談でございます」


ガクッと肩から力が抜ける。


「シュウ様はご自身の知名度を知られていないようですね」

「俺の知名度?」


俺のことを知っている人なんてせいぜいガイアの住人くらいだと思ったが、先日の一件で王都民にも伝わったらしい。

主には衛兵や騎士などあの戦いに関わった者だけだが、宿のように情報が集まる場所では知られているのだそうだ。


そんなに目立つ風貌では無い筈なので何故わかったのかと思ったが、俺以上にアステールが知られているそうだ。

それはなんだか嬉しいな。


「申し遅れました、(わたくし)この宿で雇われておりますウィリアムと申します」

「言う必要はないかもしれないがシュウ・クロバだ。これからしばらくよろしく頼む」


というかこの人オーナーとかでなく雇われなのか。

佇まいとか完全に只者でない感なのだが。

言ってみればジェームズさんやゲラルトさんと同じ雰囲気。

この世界の執事風な人達は戦闘能力が必須科目だとでもいうのだろうか?


俺は厩にアステールを連れて行き、その後ウィリアムに案内され部屋へと通された。

小さくもないがそれ程大きくもない部屋は、ベッドと机、椅子が一つずつあるだけの部屋だったが、窓を開けると良い風が入ってきて俺は気に入った。


とりあえず今日はもう休むことにして、明日公爵家とギルドに顔を出すことにしよう。

少し硬いベッドに横たわり、目を閉じた。


---


「依頼された仕事は終わりましたよー。僕はほとんど何もしてませんけどね」

『お疲れさまでした。彼は元気でしたか?』

「見てたならわかってるんじゃないです?」

『…わかっていたのですか?』

「銃声なんてこの世界で貴方以外に出さないでしょう」

『なるほど。御見それしました』

「どうして貴方に褒められるとバカにされているよな気になるのでしょう?」

『それは心外ですね』

「はぁ…もういいです」


この人と話しているとなんだかすごく疲れる。

同郷の人だというのに心休まらないのはなんでだろう。


「でもほんとに今回僕は何もできなかったので報酬の方は前払い分だけで結構ですよ」

『そういうわけにもいきませんが、貸し一つということにしておきましょう』

「貴方には貸しを作るのも借りを作るのも嫌なんですけど…」

『これは手厳しい。それでは失礼します』

「あ、ちょっ」


プープーと、電話が切れたような音がする。

変なとこに拘っているなぁと感心半分呆れ半分の観想を抱き、僕はニコラスさんから貰った魔道通信機をしまう。


今回の依頼。

黒白の王の解放。

本当に僕は何もできなかったけれど、一応連絡はしておかないといけなかった。


ベンさんから頼まれたニコラスさんが僕に依頼を持ってきた。

自分でもできるだろうに、僕の方が確実性があるということだった。


結局本人が出張ってきていたみたいだから、本当にここに来た意味があったのか疑問だけど…


「まっいいか」


あんまり難しいことを考えるのは向いていない。

シュウさんに会えたし、サンダースとも再会できたし、それだけでも今回ここに来てよかったと思おう。


シュウさんはいつか獣大陸にも来ると言っていた。

その時僕のとこを訪ねてくれるように言っておいたけど、また会えたらいいなぁ。


僕はクロを召喚してその背に乗る。


「さぁ家に帰ろうか」

「ガァ」


僕らは獣大陸へ向け飛び立った。

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