第164ページ 新しい武器
「くっそ…こんなに勉強したの初めてじゃないか?」
本を片手にガイアの街を歩きながらぼやく。
若干頭が痛い気がしてきた。
「あー親父さんのとこでも寄るか。次来た時に寄れって言われてたしな」
前に火酒を土産に持っていった時何やらえらいテンションがあがってそんなことを言っていた。
新しい武器を作ってくれているらしい。
どんな物ができているのか楽しみだ。
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「親父さんいるかー?」
「いらっしゃいませ。あ、シュウさん!」
「ああ、ミトス。久しぶりだな、親父さんはいるか?」
「お久しぶりです!いますよ、少し待っててくださいね!」
ミトスが奥へと親父さんを呼びに行ってくれる。
その間店内に陳列している物を見ていたのだが、色々増えている気がする。
だがそれはモーニングスターだったり、パタだったり、鎖鎌だったりと、まともな物がない気がする。
…俺にはどんな物を作ってくれているのだろう。
「おう、シュウ。来たな」
親父さんが奥から現れる。
その手には木箱。
どこかで見た光景だ。
更にミトスも現れ、こちらも布で包まれた何かを抱えている。
何だろうか?
「これが、儂がお前の為に作った新しい武器だ」
箱を開けて見るとそこには鞘に入った二振りの刀。
というよりもこれはククリ刀と呼ばれる物か。
厳密には形だけ同じ別物ではあるが。
銀色の刀身に黒い持ち手。
緩く婉曲した刀身は、いかにも斬れそうだ。
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【短刀】双月
品質S、レア度7、鍛冶師ジズマンの作。
湾刀に分類される短刀であり、二刀一対の刀。
ダマスカス鋼をメイン材料とし、地竜の血を馴染ませている為非常に強度が高く、切れ味も折り紙つきである。
対人戦を想定して作られている。
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「斬鬼はよい刀じゃが小回りが利かん。魔物相手ならそれでよいじゃろうが、対人戦には向かんじゃろ。これを使うとええ」
良い刀って自分で言ったな。
否定はできないが。
「じゃが高いとは言っても、極限まで薄く研いだからの。強度は斬鬼に劣るじゃろう。もしそれで相手の武器を受け止めないとならんとなったら受け止めるよりいなすようにすることじゃ」
完全に俺の力量任せということになるのか。
いや、親父さんは謙遜しているが、強度もかなりの物なのだろう。
斬鬼に比べたらという話で、斬鬼と同じようには扱えないぞ、という警告か。
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ。いくらだ?」
「そうじゃの。ダマスカス鋼は一般的に使われてる物じゃし、地竜の血はお主から貰っておった物じゃ。金貨25枚と言ったところかの」
日本円で25万円ということだ。
武器の相場なんてわからないが、かなり安いのではないだろうか。
「わかった」
25万を安いと言ってしまえるのは金銭感覚が完全に麻痺している。
が、先日の調査依頼での報酬に白金貨10枚頂いたばかりだ。
月給一千万ともなれば感覚もおかしくなるさ。
「それで、シュウ。ミトスもお前の為に作ったようなんじゃ。まだ見習いじゃがそれなりに良い物ができておると儂は思う。気に入ったら使ってやってくれぬか?」
「そうなのか?それはありがたいが…」
ミトスは親父さんから褒められたことで嬉しそうだ。
親父さんの性格からして面と向かって褒められることなんてないんだろう。
「こ、これです!」
ミトスが持っていた包みを俺に押しつけてくる。
開いてみると、中には黒塗りされた木製の二本の棍。
というかこれはトンファーか?
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【旋棍】竹風
品質C、レア度6、鍛冶見習いミトスの作。
バンプーベアの持つ竹によって作られたトンファー。
自然界で最も硬い木材と言われるバンプーベアの竹を加工したものであり、当たり所が悪ければ簡単に人を殺せる打撃武器。
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「……」
「父さんの作った二つは、殺傷能力が高すぎて殺したくない時の手加減ができないのではと思い打撃武器を作ってみました。まぁ僕が打った物を売ることがまだできないという理由もありますが」
「あ、ああ。ありがとう」
簡単に人を殺せるとか書いてあるが?
十分な殺傷能力だと思うが?
「これはいくらだ?」
「そんな!お金なんて貰えませんよ!」
「そういうわけにはいかない。前に親父さんが斬鬼をくれたのはこれが呪われていて売り物にならなかったからだが、これは違うだろう?」
「気付いておったのか!」
当たり前だ。
あんな禍々しいオーラ発しているのに気付かないわけないだろう。
最初は気付かなかったが。
今はもうそのオーラも落ち着いているみたいだし気にしていないが。
「で、どう思う?親父さん」
「そうじゃのぉ。品質はCと普通じゃが、バンプーベアの竹は希少素材じゃからのぉ」
バンプーベアは東部に生息する熊であり、白と黒の斑柄をしているそうだ。
絶対パンダだと思う。
そんなバンプーベアだが、気性が非常に荒く、好戦的。
手に持つ竹は元は普通の竹であるそうだが、バンプーベアの成長と共により硬質に成っていくそうだ。
同時によくしなり、折れることはほとんどないというから驚きだ。
その性質上、良い竹程成長したバンプーベアが持っている為、より良い物はその採取も極めて難しい素材と言える。
「ミトスのお試し価格と考えて、金貨1枚くらいが妥当かの?」
「そんなもんでいいのか?」
「構わんよ。いくら希少素材であっても儂はほとんど使わんしの」
確かに親父さんが木材を使って何かすることはあまりないようだ。
槍の柄なんかも金属製の物しか見ていない。
「珍しいから見つけた時に買ってみただけじゃからの。今回ミトスが使うと言うまで仕舞ってあった程じゃ」
そういうことならいいのだろうか?
俺は親父さんの双月と、ミトスの竹風に合わせて金貨26枚を支払う。
対人武器を得れたのは良い成果だったと言えるだろう。
俺は礼を言ってから店を出た。




