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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第七章 秘められた真実「深淵の森再び」編
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裏話 終わった森で

ズズズと地中を掘る音が聞こえる。

少しして、大きな音を立て地中から蛇のような魔物が飛び出してきた。


硬質な土色の鱗を持ち、亜竜に分類されるその魔物は、名をバジリスクという。


「シャァァ」

「大丈夫よ、アグサ」


何かを警戒するバジリスクを落ち着かせるように撫でる女性。

黒髪を揺らし、森の一点を見つめるイザベラは、徐に口を開いた。


「そろそろ出てきたらどう?」


イザベラが言うと、ガサガサと茂みが揺れ、一人の男が出てくる。


「やはりあなたは騙せませんか」

「当然ね。あなたのそれは所詮模造品よ」


男が微笑を浮かばせながら、来ていた白衣を一度叩く。

そうすると、今まで希薄だった男の気配が完全にわかるようになった。


「それで?何故ここに来たの?」

「おやおや、心配だったからに決まっているではないですか」

「心配ね…」


胡乱げにイザベラは男を見やるが、男の表情に変化はない。

本当のことは言わないだろうと判断し、イザベラはやれやれと首を振る。


「地竜王はどうですか?」

「お陰さまでね。一番の懸念事項も消えたし、もう大丈夫でしょう」

「そうですか」


男はあたかもホッとしたように頷くが、そんな感情を表に出すような人でないことは知っている。

自分が知っていることも知った上でやっているのだろうから嫌になる。


「あなた一体何がしたいの?」

「さて、なんでしょうね」

「……私ではあなたに敵わないと思ってる?」

「シャァ」


イザベラの出す殺気に、バジリスクのアグサが反応する。

二人から出される殺気は、並の者ならそれだけで動けなくなるほどのもの。

しかし、男に堪えた様子はない。


「バジリスクを従えているとは、ますます魔女のようになりましたね」


男は笑みさえ浮かべながら、自分を敵としている二人を見ている。

その様子に、イザベラはこれ以上何をしても無駄だと、殺気を解く。


「地竜王の封印に何かする気なら、黙っていないわよ」

「何もする気はありませんよ」


今はね、と心の中で言ってから男は歩みだす。

アグサが警戒し、威嚇の声を上げるが、男はそれを気にした風もなく二人の近くを通り抜ける。


そのまま男が向かうのは、もはや何も無い筈の深淵の迷宮。


「…核は壊れた。黒白の王も既にいない。何をしに行くの?」

「…さて、本当に何をしに行くんでしょう」


そう言った男の声から、感情は感じられなかった。

今まで嘘か本当かは別として、何らかの感情は混じっていたのに。

それにイザベラは、男が今本心を語っているのだと思った。


しかし、男はそれ以上何か言うこともなく深淵の迷宮の中へと入る。

迷宮は今も緩やかに崩壊していっている。

あの男が崩壊に巻き込まれればいいのにと思いながら、そんなことは有り得ないだろうとイザベラは思っている。


それにもし、もし崩壊に巻き込まれたとして、あの錬金術師が死ぬとは思えなかった。


---


男は迷宮を迷いなく進む。

魔物はおらず、アンデッド達が醸し出していた腐敗臭も感じない。


死んだ迷宮。


それは静かな閑かな世界。


生物がおらず音の無い世界。


そこに男の靴音だけが響く。

足取りを止めず、急ぐわけでもなく、男は進み続ける。


そして、迷路の階層を越え、洞窟の階層を越え、草原の階層を越えた。

辿り着いた41層。

二つある扉のうち一つの前に立ち、一呼吸置いてから扉を開ける。


前に来た時と変わらないその光景。

十字架を一瞬だけ見やり、棺に視線を移す。


本が無くなっていたが、そんなことはどうでもいい。

男にとって重要な物は変わらずそこに在った。


「ペレネル…」


男は労わるように、慈しむように、骸の手を取る。

男はしばらくそうしたままじっとしていた。


過去の何かを思い出すように。

未来の何かを決意するように。

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