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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第七章 秘められた真実「深淵の森再び」編
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閑話 とある魔物の過去話

雲ひとつない晴天。

空はこんなにも青く綺麗だというのに辺りに立ち込める死臭のせいで台無しになっていた。


いや、地上がこんなにも血に濡れ赤く染まっているからこそ、空がより綺麗に見えるのかもしれない。


そんな屍山血河の中を歩く一人の姿。

黒のローブをすっぽりと被り、覗く肌は真っ白。

いや、それは肌ではなく骨だ。


「うーん、生きている人がいないなぁ」


白骨死体が動いている。

そんな有り得ない現実が、気取った風もなく闊歩している。


まるで散歩でもしているかのようで、この場にそぐわないその風景を見る者はいない。

この場にいる全ての者は、既に何かを見ることも、聞くことも叶わない。


「僕はどうしてここにいるんだろう?」


白骨は呟く。

気が付いた時、彼はここにいた。

彼は自身が何者かもわからない。


わかっているのは、自身に宿る大量の力。

それは魔力と呼ばれるものであり、その使い方まで何故か知っていた。


「僕は一体何なんだろ?」


その問いに答える者はここにはいない。

誰もが横たわるその場所に白骨の声だけが響く。


---


場面は変わる。

そこは属する国でさえ存在を忘れているような小さな村。

辺境にあったその村では、魔物の襲撃が起きたばかりであった。


自分達の力だけで生き抜いてきた彼らの実力はそれなりであったが、度重なる襲撃、数の暴力には敵わなかった。

今ではたまたま村を離れていた数人の生き残りだけとなり、彼らは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、村人を一人ずつ埋葬しているところだった。


「あっようやく人発見!」


そこにえらく暢気な声が響く。

生き残った村人たちは、この状況でそんな声を出すのは誰だ!?と怒りを込めて声の方を見る。


見て、動きを止めた。


そこにはローブを羽織っただけの白骨。

明らかに人とは違う何か。


それは魔物のせいでこんな状況になってしまった村の生き残り達に恐怖を齎すには十分すぎる光景だった。


「ひぃっ!?」

「ま、魔物だぁ!!」

「スケルトンか!?」

「また魔物が襲ってきやがったぁ!!」

「ちくしょうっ俺達が何したってんだ!」


村人は必死に手に持つ武器を向ける。

武器とは言えぬ、鍬やスコップであるが足を震わせながら必死に立ち向かおうとする。


それを見て白骨は一瞬だけ悲しそうに顔を歪めて、黙って背を向けた。


---


「お前が村を壊滅させた魔物か?」


ローブを羽織った白骨の前に一人の男が立っている。

身の丈を越える槍を構えたその男は、敵意を隠そうともせずに白骨を見据える。


それに対して白骨は


「…」


無言だった。


白骨が敵意を向けられるのはこれが初めてではない。

先日魔物により壊滅したと思われる村を去ってから、幾度となく声をかけられた。


そのほとんどが、勝負になるわけもなく終わったが。


「冒険者としてお前を放っておくわけにはいかない。ここで始末させてもらう」


男は冷静に言い、腰を落とす。

槍のリーチを用いた突撃のような刺突。

それが男の得意とする技であった。


「シッ!」


男が勢いよく踏み込む。


白骨はその光景をどこか他人事のように見やる。

クルリと背を向け、何気なく手を振る。


白骨はそのまま歩き去り、男は地に倒れて動かなかった。


---


「お、お主…な、なんだその魔力は!?」


白髪の老人が、目の前のローブを着た白骨に対してわなわなと震えながらも問いただす。

老人は、高そうなローブを着て、手に古びた杖を持っている。


「こ、これが黒白の王だというのか!こんな理不尽があってよいのか!?」


老人は必死に魔法を組み立てる。

だがそれはいつもと違いあまりにお粗末な物。


白骨はそれを見て、興味がなさそうにすぐ目を背ける。

自分に背を向ける白骨が歩き去るのを見て、老人は足から力が抜け崩れ落ちた。


---


白骨は座っていた。

この場所に呼び出されてからどれほどの時間が経ったのか。


退屈だ。

けれど外の世界にいても楽しいことなどない。


自分に勝負を挑んでは勝手に散っていく者たち。


何もしていないというのに、恐怖を抱かれる日々。


そんな日々に嫌気が挿してきた時。

何か(・・)が自分を呼んだような気がした。


それに近付くといつの間にかここに繋ぎとめられていた。

それでよかったのかもしれないと思うが、だからといって退屈が変わることはない。


そんな時、初めてここを訪れる存在があった。


「おや?」


その人は、黒い服の上から白衣を着ており、まるで自分の反対のような色。


「おやおや、これは珍しい存在に出会いましたね。貴方がここのラストガーディアンですか?」


男は冷静に、ただ自分の疑問を解決する為にそう聞いてきた。


白骨はそれに驚く。

その声には、恐怖も畏怖も何もない。


「そ、そうだよ」

「そうですか。では」

「え!?」


男はそのまま迷宮を出ようとしてしまう。

白骨はその予想外に思わず声を上げてしまう。


男は振り返る。


「何か?」


白骨は言う。


「と、友達にならないかい!?」


男は言う。


「お断りします」


---


白骨は今日も時間を潰していた。


初めての友との出会いからどのくらい経ったか。

自分が全力を出しても敵わない存在とは初めてだった。


けれどまた暇な日々、退屈な日々。


そんな日々を送っていた白骨は、迷宮内に誰かが入って来たのがわかった。


「最近お客さん多いなぁ」


白骨は嬉しそうに呟く。

つい先日来た魔族の男は、有無を言わさず魔法を放ってきた。


戦闘というのが久しぶりだったことと、最後に戦ったのが自分の敵わぬ相手だったことから、手加減を忘れていた白骨は、後手で放った魔法で一瞬にして勝負が終わってしまった。


「今度の人はどんな人かなぁ?」


白骨は楽しげに想像する。

そして魔法によって視界を飛ばす。


時間だけはたっぷりとあった白骨は、様々な魔法を覚えていた。


「友達になってくれるかなぁ?」


この日を境に白骨の魔物生は変わる。

けれどそれを知る者はまだいない。

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