第161ページ 従魔契約
伸長した天羽々斬が迷宮核を貫く。
その瞬間、迷宮核から勢いよく煙のようなものが噴出した。
『おのれっおのれぇぇこんなところでぇぇ!!!』
煙は一瞬だけ人の顔をのようなものを形成し、そのまま霧散する。
おそらくはあれが迷宮核と融合していた魔神の欠片。
《条件を満たしました。称号「破壊神の敵」が称号「破壊神の宿敵」へと変化します》
『イヤダイヤダイヤダ!強サガ欲シイ!コノ世デ一番ニナルンダ!イヤダイヤダイヤダイヤダ!……………独リハイヤダ』
声はそこで終わり、迷宮核が砕けていく。
それは初めて聞いた甲高い子供のような声。
迷宮核の意思なのだろうな。
俺が黒白の王を迷宮から解放すると約束したことで迷宮核は暴走した。
魔神はそれを黒白の王の力を使って迷宮核が高みへと登るつもりだったからだと言ったが、最期の言葉を聞く限り違ったようだ。
ただ、寂しかっただけか。
ほんの少しだけ罪悪感が湧くが、これだけのことをしたのだ壊されても文句を言うんじゃない。
「っとまずい!」
このままだと迷宮核と一緒に黒白の王が死んでしまう。
少しギリギリだが迷宮核が完全に破壊される前に従魔契約を結ばなければならない。
「ケイト!」
「いいえ、ここはシュウさんがやってください。もう使えますよね?」
「…わかった!」
俺はなんとなくで把握した従魔法の使い方通りに、契約を行う。
「我ここに汝と契約を願う。我が下に従い、我の命に従い…」
だが、言っているうちになんだか違和感が生じた。
従魔法なのだから従わせることは間違いないのだが、何かが違う。
だから俺は、自分の本能に従い詠唱を変える。
「俺と共に歩け、王と呼ばれし我が友よ。汝が新たな名は」
考えていた。
このバカの名前を。
自分の身を犠牲にして俺たちに被害が出ないようにする程のお人よし。
それなのに、世界中から恐れられている恐怖の象徴。
その元となった魂と矛盾する明るく振舞おうとする姿。
「ジャック・クラウン」
地獄への立ち入りも許されなかった彷徨える魂。
アイルランド伝承にあるジャック・オ・ランタンから。
そして、悲しみのマスクで笑いを表現する道化師。
二つを合わせた名前だ。
「ああ、いい名前だね」
いつの間に気づいていたのか。
黒白の王、ジャックがそう声に出す。
その時、俺とジャックの間に確かな繋がりが生まれ契約が成立したことがわかった。
同時に、迷宮核が完全に砕け散る。
際どいところだったな。
《称号「迷宮踏破者」を獲得しました》
迷宮核が破壊されたからか俺の脳内にそうアナウンスが流れる。
どこか納得はできないが、まぁよしとするか。
「ふぅ。ようやく解放された!」
迷宮核が砕けた瞬間に、ジャックとの契約は完全に破棄されたようで今まで倦怠としていたのが嘘のように元気になった。
こっちはもうへとへとだというのに。
「とりあえず降りるか」
俺はエリュトロスに乗せてもらい<竜の化身>を解除して地上へと降り立つ。
ジャックとアステールの治療もしないといけない。
「片付いたようね」
そう思っていると、空間が揺らぎ、イザベラが転移してきた。
「全員ひどい有様ね」
笑いながらイザベラが手を振る。
一瞬にして俺たち全員の傷が癒された。
なんとも…反則だろ。
「そっちはどうだった?」
「迷宮核が地脈からも力を奪っていたことが原因だったからね。原因が取り除かれればすぐにでもまた元の封印の状態に戻るでしょう」
地脈を通し、大地に深く根付いている大地竜からも徐々に力を奪われていたのだという。
それが原因で封印が解けかけ、地震が起きていたのだと。
とりあえずこれで、俺も依頼完了ということになるのか。
「ところでさっき助けてくれたのはイザベラか?」
「助け?なんのこと?」
「いや…」
イザベラではないのか?
人を見つけれなかったからイザベラが隠れているのかと思ったが。
ならあれは一体誰が?
「知らないならいいんだ」
「そう?」
「ああ。あんたはこれからどうするんだ?」
「変わらずよ。私はこの森に居続けるわ。何かあったときのために」
「そうか…」
独りでずっとこの森で過ごすというのか。
この地で生きた子孫だとしてもあまりに寂しい選択ではないのか。
「ふふ、優しいのね。でも心配しないで。さっき見てたでしょ?私は空間魔法も使えるのよ?」
「あ…」
「偶には街にも出ているわ。こないだも買い出しで王都まで行ってきたし」
「ああそうですか」
心配して損した。
敵わんな。
「それよりも…」
「ん?」
イザベラに促され振り返ると、そこにはアステールとエリュトロスの姿。
『おほん』
「クルゥ」
二人とも何か言いたいことがありそうだ。
なんだ?
「どうしたんだ?」
『いや、その…な?』
「クルゥ!!」
はっきりとしない。
なんだと言うんだ?
「多分ですけど、二人より先にジャックさんと従魔契約を結ばれたことがショックだったんではないでしょうか?」
「え?…そうなのか?」
「クル!」
『ま、まぁそのなんだ。そういうことだ』
そんなことで拗ねていたのか。
やれやれ、可愛い奴らだな。
「そうか。しかし、アステールはまだしもエリュトロスはいいのか?従魔契約は召喚契約とは違って対等ではなくなるぞ?」
『良い。シュウを主とし共に行くのも面白そうだ』
「そうか…」
その言葉に少し頬が緩むが、気づかれないように魔法を発動する。
「我と共に歩め、我が友たちよ。アステール、エリュトロス」
二人との間に契約が結ばれる。
エリュトロスとの繋がりが強化され、アステールとの新しい絆。
「従魔契約を結び、魔力のやり取りをすることで従魔は強化されます。シュウさんの従魔たちは今でもみんな強いからすごいことになりますね」
それはお前もだろうに。
「あと、従魔には従魔師が持つ加護の恩恵を受けることもできますよ」
「ほぉ?」
それはいいことを聞いた。
これでアステールたちも温度変化の影響を受けにくくなったということか。
他の加護の効果も今度じっくり見ておくことにしよう。
「さぁ、帰るか」
俺が言うとケイトとアステールが頷く。
エリュトロスはキラヴェイアへと送還だが、どこかすっきりとした顔をしている。
従魔契約がそんなに嬉しかったのか?
エリュトロスを送還すると、ケイトもエクスを残しクロとスーを帰還させていた。
「じゃあな、イザベラ」
「ベラでいいわ。またね」
俺とケイトはベラに手を振って森の外へと向かう。
「何してる?行くぞ、ジャック」
俺達が進んでいるのに動かないジャックを疑問に思い、振り返って声をかける。
すると、ジャックは少し驚いてから嬉しそうに「うん!」と言った。
やれやれ転移を使えないのは嫌になるな。
歩いて帰るしかないとは。
まぁ楽になれたらダメだということだな。
黒葉周 17歳 男
種族:???
冒険者ランク:A
HP:11200
MP:∞
魔法属性:全
<スキル>
格闘術、剣術、槍術、棒術、弓術、刀術、棍術
身体強化、完全回復
馬術、水中行動、天足、解体、覇気、看破、隠形、危機察知、魅了、罠解除、指揮、並列思考
耐魅了、耐誘惑、耐幻惑、恒温体
礼儀作法、料理、舞踊
<ユニークスキル>
天衣模倣、完全なる完結、全知眼、識図展開、天の声、竜の化身、万有力引
<オリジンスキル>
魔法
<称号>
「知を盗む者」、「異世界からの来訪者」、「武を極めし者」、「すべてを視る者」、「竜殺し」、「下克上」、「解体人」、「誘惑を乗り越えし者」、「美学に殉ず者」、「魔の源を納めし者」、「全能へと至る者」、「人馬一体」、「無比なる測量士」、「翼無き飛行者」、「竜の友」、「半竜」、「湯治場の守護者」、「妖精の友」、「底なしの動力源」、「戦闘狂」、「深淵へ至りし者」、「逸脱者」、「神…????」、「人を辞めし者」「奔放不羈」、「破壊神の宿敵」(change)、「迷宮踏破者」(new)
<加護>
「??神の加護」、「創造神の加護」、「破壊神の興味」、「戦と武を司る神の加護」、「知と魔を司る神の加護」、「生と娯楽を司る神の加護」、「死と眠りを司る神の加護」、「大海と天候の神の加護」、「鍛冶と酒の神の加護」、「炎竜王の加護」、「妖精女王の加護」




