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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第七章 秘められた真実「深淵の森再び」編
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第160ページ 最終ラウンド

「さぁ第三ラウンドだ!」


神刀を振るう。

届く寸前で刀身を短くし、強引に方向修正。

刺突に切り替える。


普通の相手ならば、このような変化が隙を生じ攻撃を通すことは容易い。

しかし今の相手は魔神とさえ呼ばれる黒白の王。

更には魔神と迷宮核(ダンジョンコア)が取り憑いていることで魔力量の制限もなし。

色んな意味で普通ではない。


ガキンと音を立て、天羽々斬が魔法障壁によって防がれる。

逸失能力を使っていない状態でも天羽々斬の切れ味は一級品だ。

その刃が、全く動かない。

これ以上突き進まない。


「普通魔法障壁ってのは一点への攻撃には弱い筈なんだがな」

『普通ならばな』


くくくっと愉快そうに笑う魔神。

その後ろから、エリュトロスの尾が振るわれる。


『ぬっ!?』


瞬間的に反対側にも魔力障壁が展開され、トラックがぶつかったような音を立てエリュトロスの尾を防いだ。

が、更に上からアステールの鉤爪が迫り、下からはクロの(あぎと)


全方位からの攻撃に対して、魔神は全ての包囲に魔力障壁を展開。

自らを囲むような球形だ。


しかしそれは悪手である。

一見隙のないように見えるが、それはつまり自らも大きく動けないということだ。


「やるぞエリュトロス!」

『おお!』


右手を握りしめ、竜力を集中させる。

エリュトロスも同じように拳を握る。


「『竜の拳(ドラゴンインパクト)!!』」


前後から挟むように拳を突き出す。

竜力を拳に集中させて殴るだけの技だが、その破壊力は計り知れない。


『ぐぅっ!?』


バリバリと音を立て障壁がひび割れる。


「やれ、クロ!」

「ガァッ!」


そこに、突き上げるようにクロのブレスが直撃した。

限界を迎えていた魔力障壁はあっさりと砕け散り、魔神へと直撃する。


『ぐぉっ』


だが寸前で魔力障壁を展開したようだ。

衝撃で腕の一本が消し飛んだようだが比較的無事である。


「加減はいらん!いけ、アステール!」

「グルゥ!」


アステールが追撃をかける。

前脚の鉤爪、後脚の蹄、嘴を利用したコンボ攻撃。

本来のヒッポグリフの戦い方ではないと思うが俺の戦いを見ていたからか、その連撃に隙はほとんどなく完成されている。


『ぐっがっ』


さすがに魔力障壁を発動させる瞬間はなかったのか、アステールの連撃を食らい続ける魔神。

しかし、その姿は何かを待っているようにも見える。

何かする隙を与えてはいけない。


「畳みかけるぞ、エリュトロス」

『うむ。見方によってはひどいことだが、こやつに対しそのような情を持てる程の力は我々にはないからな』


その通りだ。

魔法を封じられ、回復魔法も治癒魔法も使えない今、隙を見せればやられるのはこちらだ。

それだけの力量差がある。


天羽々斬が、竜力を纏わせた蹴りが。

エリュトロスの尾が、爪が。

アステールの身体全てを使った連撃が。

クロのブレスが、牙が。

それぞれの攻撃が連続し間断の隙間なく叩き込まれる。


こういったやり方は好きでなく、俺の美学に反する。

だが今はそんなことを言っている場合ではない。

俺の美学よりも友人の命の方が大事なのはわかりきっている。


それに何より


『鬱陶しいわ!』


貯め込んでいた魔力を放出され、俺達は攻撃を中断せざるをえない程に吹き飛ばされる。

視線の先にはぼろぼろになりながらも確かにそこにいる魔神の姿。


あれほどの連撃を食らえば普通は死ぬというのに。


『これで終わりだ!』


俺達を見据え、発動するのは特大の魔法陣。

あれだけの連撃の中、魔法を発動させる準備をしていたというのか。


<全知眼>が魔法の詳細を教えてくれる。

闇属性禁呪「ナイトメア・ノヴァ」

発動されれば俺達どころか深淵の森ごと危ない魔法だった。


けれど、魔法の使えない俺に防ぐ術はなく。

既に魔法は発動状態。

例え今一撃で魔神を殺したところで阻害されることはない。


「くっ!」


魔法が、発動される。

闇が渦巻き、全てを飲み込む漆黒が辺りに広がる。


それは、俺達に死を覚悟させるには十分な光景であった。
























瞬間。

ズガンという音がしたとかと思えば、魔神に何かがぶち当たる。


『ぐっ!?』


魔神の胸。

迷宮核(ダンジョンコア)のある場所。


「何だっ!?」


俺は辺りを見回し、<識図展開(オートマッピング)>も確認するが、何者かの存在を発見することはできなかった。

仕方なく視線を戻す。


闇が、動きを止めていた。


「間に…合った…はぁ…はぁ…」


黒白の王が言葉を発する。

それはあいつの声。


「黒白の王か?」

「君が…名付けて…くれたクロって…呼んでよ」

「その名前は却下だ。被ったからな」


俺が黒竜のクロを見ながら言うと「ひどいや」と力無く笑う。


「どういうことだ?」

「この感じは…多分あいつだろうなぁ…」


黒白の王は何かを考えるようにしていたが、すぐに顔を歪ませる。


『おのれぇどういうことっ…!?』

「早く!今は僕の意識が魔神を押さえていられる!今なら僕は魔法を放たない!」


それは自分の身を犠牲にということか。

そういえばさっきもそんなことを言っていた気がするな。


「ああ、わかった」


天羽々斬を構える。

剣道において霞の構えと呼ばれる構え方であり、両脚を開き腰を落とし、刀は肩よりも上に顔の横で水平に構える。


「だが…俺に指図するな」


狙うは一点。

天羽々斬を突き出すと同時に、刀身を長大化させる。


「『断ち切れ』」


神刀は少しひびの入った迷宮核(ダンジョンコア)を正確に捉え、貫いた。

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