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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第一章 初めての異世界「辺境の街」編
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閑話 異世界の少年(アイゼン視点)

2015/4/10:狼型魔物の名前を変更しました。

「ララたちが襲われた?ウォーウルフの群れだと?」

「はいそのようで」


俺の副官であるマインスが報告してくる。

報告内容に思うところはあるが、マインスに動揺した様子はない。

もう解決済みなのだろうと思い上げた腰を下ろす。

もっともこの男が顔色を変えることなど滅多にないのだが、それはまぁ長年の付き合いでわかる。


「それで?」

「はい。何名かの騎士が負傷、ララシーヌ様は無事です。エルーシャは多少怪我を負っていますがララシーヌ様は無傷だそうで負傷した騎士を癒してくれたそうです」

「そうか」


たとえ疲れていてもララは自分の為に傷を負った騎士を放っておくことなどできないだろう。そういう子だ。


「ウォーウルフは何頭だったんだ?」

「総勢で12頭だったと」

「12だと?」


うちの騎士たちは辺境ということもあり決して弱くはない。

しかし、ウォーウルフはランクCの魔物。

それが12頭となればいくらエルーシャがいると言っても撃退できるとは思えなかった。

エルーシャ個人を冒険者のランクで表すとB程度の実力はあるが一人だけで群れに対処できるとも思えない。

できて5頭といったところではないだろうか。


「どういうことだ?」

「なんでもたまたま居合わせた旅人が加勢してくれたと」

「旅人?」


一人加わっただけでウォーウルフの群れを撃退できる戦力を持った旅人か。

面白い。


「その旅人というのは?」

「もうすぐこちらに着くそうなので直に会われてはいかかでしょうか」


そう言うマインスも笑っている。

こいつも興味があるのだろう、その旅人とやらに。


「わかった。応接室に通せ」

「かしこまりました」


---


そこにいたのはどこにでもいそうな少年だった。

歳の頃は10代半ばといったところだろうか。

少し変わった服装をしていて黒髪黒目というここらでは見ない見た目をしていた。

しかし、この者が素手でウォーウルフを2頭仕留めたという。

その前にも2頭を小石で仕留めたそうだ。

信じられんがエルーシャが嘘を言うとも思えん。


俺は少し試してみることにした。

身体から魔力を発し少年に向ける。

常人ならすくんでしまう魔力量を放ったが、少年は特に気にした様子がない。

気づいてすらいないようだった。

俺の威圧にも反応しないとは、面白い。


だが、本当に面白いのはそこからだった。

マインス曰くその少年、シュウは異世界人だという。

実際に見るのは初めてだ。


シュウのステータスは更に驚きだった。

基礎ステータスは既に俺を超えているし、ユニークスキルが異常だ。

もしこいつが敵であるならば最大の脅威となるだろう。

シュウにはそれだけの力がある。


だが、腹芸はあまり得意ではないようだ。

しかし、こちらの意図は確実に察している。

シュウを縛ることは俺にはできないだろう。

金や権力に執着するタイプにも見えなかった。

無理やり押さえつけてもデメリットが大きすぎる。

この世界を見たいと言っているのだし敵にならないだけ良しとするか。


---


翌日。

また訪ねてきたシュウに少し驚いた。

権力にはあまり関わりたくないタイプだと思っていたからだ。


だがそれ以上に持ってきた話に驚いた。

魔物の大群だと?

どうにも作為的な匂いがする。

しかしガイアが落ちて喜ぶのは誰だ…?

ここは西の辺境。深淵の森を抜けた者はいないからその先はわからんが、もし人の国があったとしてもあそこを越えてくることはできないだろう。

深淵の森は進めば進むほど魔物の危険度も上がっていく。


それに人がどんな手を用いようとそんな大勢の魔物を操れるとは思えない。

では一体誰が…可能性として一番高いのは魔族か。

まぁいい。考えてもわからない今やることは別にある。


シュウは報告をしたあと、一つの願いをしてこの場を去った。

あいつのスキルからして魔法を視れば使えるようになるとかそんなところなのだろう。

戦力が増えるのは嬉しいことだ。


あいつが気づいているかどうかはわからんが、本来シュウはこの戦いに参加しなくてもいい立場だ。

それでも参戦してくれる気でいる。

それはあいつの性質なんだろうな。


まだ会ってから二日も経っていないが、あいつの性格が分かってきた気がする。

敵対した者には容赦がないようだが好んで敵を作るタイプでもない。

絡んできたDランクパーティーも適当にあしらったと聞いている。

必要なら殺しを躊躇わないが、必要がなければそこまではしない。

合理的な人間のようだな。


俺が自分の思う通りに動かそうなどと考えなければ手伝ってくれるだろう。

今回のこともある。あいつはすぐに冒険者のランクをあげる。

高ランクの冒険者と繋がりを持てるというのはありがたいことだ。

それもあいつのような規格外の存在なら歓迎だ。


---


「おいおい。地竜を倒すかよ…」


シュウが地竜の首を断ち切るのが遠目で見えた。

地竜は竜種の下位に位置する魔物ではあるが、劣竜と呼ばれるものでそのランクはAとなっている。

亜竜と呼ばれるワイバーンやワームなどとは比べ物にならない力を持つだろう。

また地竜の鱗は上位の竜種にも匹敵するほどの強度を誇るという。

にもかかわらず刀で屠るとは。


「いやはや、規格外だな」

「まったくですな」


隣に立つギルバートがこいつにしては珍しく驚きを顔に出して言ってくる。

ギルバートは長年俺に仕えてくれている男で、その戦闘力はSランクを超えるだろう。

俺もギルバートと戦って勝ったことはない。

王国が持つ最大戦力と言われ、「七星剣」と呼ばれる7人。

その序列6位と言えばその強さがわかるだろうか。

まぁギルバートクラスで6位なのだからこの国は化物ぞろいだと言わざるをえないが。


「ギルバート、あいつと戦って勝てるか?」

「…正直厳しいでしょうな。剣だけでの戦いであるならばまだ戦えるでしょうが、魔法もとなると…」

「…そうか」


王国最強の7人のうちの一人にここまで言わせる強さ。

いかんな。欲しくなってしまうではないか。


「彼に勝てるとなるとアレキサンダー殿かフィオナ殿、ローレンス殿くらいではないですかな?」

「竜騎士と舞姫に雷霆か…」


七星剣の序列一位と二位、三位だ。

それで勝てないならこの国に勝てるものはいなくなってしまう。

いや、客観的に見てこの大陸に七星剣を超える力の持ち主はいないだろう。

つまりはこの大陸において最強を冠するのが七星剣なのだ。

もっとも宮廷魔導士長やギルド協会会長などは七星剣入りしていなくて彼らに匹敵する力量の者もいるにはいるが。


「おお、そういえば最近七星剣入りをした彼ならあるいは渡り合えるかもしれませんぞ?」

「ああ、公爵家の坊ちゃんか」


そういえば歳も同じくらいだな。

幼少より天才と言われ、つい最近序列第7位を降して七星剣入りを果たした少年。

この国に二家しかない公爵家の次男であり、エルフでないにもかかわらず精霊魔法を使えるという不思議なやつだ。

一度だけ、王都に行った時に話したことがあるが、どうにも大人びた子だった。


シュウとあの子が闘うところか。

いつか見てみたいものだな。


「む?お館様!シュウ少年がどうやら倒れたまま動かないようですぞ!」

「何っ!?」


遠目ではっきりとはわからないが確かに倒れているようだ。

おそらくは魔力欠乏だとは思うが詳細はわからない。


「急ぎ回収しろ!」

「はっ!」


俺の護衛として付いて来ていた騎士たちに命令する。

幸いなのは既にゴブリンたちが退却をし始めていることか。

しかし、ここからでは距離がある。

ええい、もどかしい!


「離せっ!俺が行く!」

「行かせませんぞっお館様っ!」


走り出そうとした俺をまるでわかっていたかのようにギルバートが羽交い絞めにする。

くそ、長年の付き合いが仇となったか。

なおも暴れていると


ドォォンッ


という開戦の折りにも聞いた轟音がした。

どうやらグラハムが復帰したようだ。

今回は魔力を抑えて牽制目的のようだがそれでも多数を仕留めているからさすがだ。

これでゴブリンはあと少し。


「ギルバート!焼き払え!!」

「はっ!炎よ!汝は力、汝は剣!その圧倒的なる業を解き放ち、我に力を貸したまえ!燃えろっ我が心のままに!〈フレイム・ストリーム〉!!」


ギルバートの掲げた長剣に集約されし炎が、振り下ろされると同時に奔った。

味方も巻き込んでしまいそうな技だがそこはきちんと調節しているらしい。

まったく、こいつも十分化物だな。


焼かれていくゴブリンを見ながら呆れてしまう。

シュウの回収もきちんとできたようだ。


「ガイアは守れたか」


---


「さて、諸君!この度はよくぞ戦ってくれた!勝利を私に届けてくれたこと、礼を言う。言ったとおり宴の用意をした。今日は存分に飲んでくれ!」

「ウォォォオ!!」


俺の音頭が終わると宴会が始まる。

俺に話しかけてくるやつもいれば仲間同士で騒いでいるやつもいる。


チラリとシュウの方を見ると色んな奴に囲まれている。

自分たちのパーティーに入れと言っているものや、ぜひ手合わせをと言っているもの。中には弟子にしてくれなんて言っているやつもいるみたいで、あいつの困っている顔が面白い。


そんな風に見ていると、俺が見ていることがわかったようで助けろと視線で訴えてくる。

しかし、俺はそんなことしたくないし何よりこんな面白いことはないため肩をすくめて視線をそらす。

あいつは何か言いたいことがあったようだが、地竜を一人で倒すなんてことをしたんだ。

自己責任だろう。


アイツがこのタイミングでガイアにいてくれてよかった。

アイツがいなくても勝てただろうが被害はもっと大勢出ていただろう。

地竜を仕留めたこともそうだが、何よりGランクのアイツが先陣を切ったことにより他の者が負けてられないとばかり奮起したことも大きい。

それにそもそもアイツの全知眼がなければ魔物の軍勢を発見した時には既に手遅れという状況に陥っていたかもしれないのだ。


さて、アイツへの報酬は何にするかね。

今回の一番の功労者は間違いなくアイツなんだからな。

ああ、俺が冒険者時代に使ってたあれにするか。

あれならばアイツには金よりも価値があるだろう。

もちろん相応の金も渡すがな。

どんな顔をするか今から楽しみだな。


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