第148ページ 情報収集
明けて翌日。
朝食を摂りながら、今日の予定について考える。
昨日までは今日朝すぐに深淵の森へと行くつもりだったが、その前にある程度今の状況を踏まえた情報収集をしておくべきだと思ったのだ。
というわけで午前中は情報収集に割くことにする。
「地震かい?そうさねー最近多いねー」
「その割に街の人達は気にした風もないな?」
「そりゃ今のとこ被害がでてないからだね。小さい地震がいくら続いても被害が出なければまたかくらいにしか思わないんだろうねー」
朝の片づけを終え、一休みしているマーサさんに声をかける。
俺が昨日帰って来た後も、地震は幾度か起きていたにもかかわらず、街の人は皆まったく気にしていなかった。
近年地震とは無縁だったと辺境伯が言っていたにも限らずだ。
だから聞いてみたのだが、返ってきた答えは納得のいくものだった。
実害が出てない地震を気にするよりも、先の魔族襲撃被害を回復することが優先であり、実害が出る魔物の存在の方が問題なのだろう。
「ありがとう」
「はいよ!」
俺はマーサさんに礼を言い、何日か空けると声をかけてから街の外へと出る。
辺境伯の下で見せてもらった資料はあの石板だけ。
他に何かあるのなら一緒に見せてくれていただろう。
辺境伯城にはもう何も無いと見るべきか。
となるとギルドか、図書館か…
しかし、辺境伯城にない資料が図書館にあるとは思えないしな。
ギルドに行ってみるか。
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「申し訳ありません。調査依頼はシュウさん宛の指名依頼しかでておらず、詳しいことはわかっていないのです」
「ああ、そう」
眉を下げて謝ってくるレイラに俺は何も言えず礼を言ってギルドを出る。
ふむ。
情報収集もうまくいないな。
辺境伯城もギルドもダメ。
街の情報が集まってくる宿屋の女将に聞いてもわからなかった。
そもそもこの街の住人は地震のことなんて気にしていないようだ。
武器屋の親父さんは長く生きているのだろうが、ガイアで育ったわけではないと言っていた。
他に聞ける奴…
千年以上前から生きている奴なんていないし…
…待てよ?
いや、さすがに千年生きているとは思えないが、あいつなら何か知っているかな?
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「おーい、出てきてくれないかー??」
「クルー」
やって来たのはガイデン森林。
秋のことだが、マーサさんの依頼でここへキノコ狩りに通ったことがある。
その時に出会ったこの森の主なら、何か知っているかもしれないと思ったのだ。
森の主に会うには森の奥地に踏みこまなければならない。
初めて会った時は、迷い込んだと言った方が正しく道などわからないと思っていた。
だが、そこは<識図展開>が解決してくれた。
その時にはなかったのだが、俺の記憶からも補完してくれるようできちんと脳内には地図が出来上がっていた。
声を上げながら進むこと少し。
森の奥からのっそりと巨体が姿を現した。
『誰かと思えば小僧だったか』
「よっ久しぶりだな、サンダース」
俺がそう言うとその大熊、サンダースは疲れたように首を振る。
『それで何の用だ?会いに来たというわけではあるまい?そのように覇気を飛ばしおって』
「お?おお、すまんすまん」
今は秋とは違い森に踏み入れば当然魔物に襲われる。
どうせ返り討ちにするのだが、面倒だしこの森の主に会うというのに森を荒らすのもどうかと思い覇気で威圧し、魔物避けをしながら進んできたのだ。
アステールもいるから効果二倍だな。
「地震のことについて何か知っているか?」
『そのことか。わざわざ聞きに来るということはある程度知っているということでいいのか?』
「ほんとに軽くだがな」
こう聞いてくるということは知っているということか。
ダメ元だったが来てよかったな。
『我も詳しく知っているわけではない。だが、今回の地震は想定外の出来事だというのはわかる』
「想定外?」
『左様。本来ならば起こり得ないことだった。何かしらの問題が生じたということだろう』
「それは?」
『我にもわからぬ。そして我から言えることは少ない。ただ一つ、深淵の森の深奥には厄が封じられている』
「厄?」
『この世界全体に関わるほどの厄だ』
その厄がどういったものかはわからないが、世界全体に関わると言われたらやはり放置することはできない。
すぐにでも行くべきか。
『おや?この匂い…』
突然、サンダースが鼻をピクリとさせる。
同時に俺も気がついた。
脳内の地図に、人の反応がある。
色は緑。
俺と関わりの無い者ということか。
その人物は迷いなくここに向かっているようだ。
ガサガサと森を分け、一人のローブを羽織った者が姿を現す。
「あ!いた」
少年の声だ。
背も俺より少し小さいくらいか。
その少年は、サンダースを見て嬉しそうに声をあげた。
「久しぶり、サンダース!」
『久しいな、ケイト』
隠しきれないほど嬉しそうに、サンダースが答える。
少年ケイトがローブを取る。
彼の髪は、黒色だった。




