第145ページ プロローグ
第七章開始です。
ズズズと音がし、大地が揺れる。
「またか。このところ多いなぁ」
この地方では地震は珍しい。
いや、珍しかったと言える。
最近では多い時など日に何度か地面が揺れるのだ。
地震など滅多に起きなかったにも関わらず頻繁に起きている現状に、住民たちは不安を抱く。
しかし、辺境に住む住民たちは、魔物の脅威が日常に隣接している。
不安があったところでいつもと変わりない毎日を送っている。
だが、この地を治める者としては見過ごせる問題ではなかった。
「魔族の襲撃の後で、ただでさえ大変だというのにこの地震はなんなんだ…」
今日何度目かわからない地震に、重い溜息を吐くと一度仕事の手を止めお茶を入れる。
本来ならば辺境伯自らがやるようなことではないのだが、ここでは普通の光景である。
そんな一時の休憩を取っていると、コンコンとノックの音がする。
「入れ」と声をかけると、「失礼します!」とまだ若い騎士が入って来た。
「どうした?」
「は!ララシーヌ様、及びエルーシャ第三騎士団長がお戻りになられました!後ほど帰参の報告に来られるそうです!」
「帰ったか。わかった、ありがとう」
そう言うと、若い騎士はもう一度敬礼をし「失礼しました!」と部屋を出る。
愛娘の帰還という報告に、自然と笑みがこぼれる。
王都であったことに対する連絡は来ている。
無事でよかったというのと、なんとも間が悪いという気持ちがあり、魔族に対する怒りもある。
「ん?ララ達が帰って来たということはシュウもか?」
ちょうどよかったかもしれない。
最近は色々と忙しなく動いていたシュウであるが、当分の間はガイアにいると聞いている。
この地震の調査を依頼しよう。
いい案だと一人頷くラッセン辺境伯の耳に、「失礼します」という愛娘の声が聞こえた。
ラッセン辺境伯は、笑みを浮かべ二人を招き入れると娘を労わるように手を頭を撫でた。
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「困ったわね」
暗い森の中。
雲に隠れ月も見えないその中に、一人の女が立っていた。
銀色の髪を揺らし、地面を見ている女は考えるように顎に手を当てる。
「迷宮があるのは知っていたけどまさかこんなことになるなんて…」
憂いげに今度は顔を上げ一点を見つめる。
「仕方ないわね…」
何かを決意したように、女は踵を返した。
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「ここら辺には久しぶりに来たなぁ」
フードを目深に被り、街道を進む少年。
驚いたことに、馬車などではなく歩きである。
「サンダースは元気かなぁ?」
楽しそうに、少年は笑う。
フードから少し黒い色の髪が見えていた。




