閑話 雪の中の姉妹
年中雪が吹きやまない地。
その地の領主グラス子爵家の邸宅にて二人の少女が遊んでいた。
降る雪なんてなんのその、二人は白い庭を走り回る。
楽しそうな笑い声が響く。
それは寒空の下にありながらも温かい思い出。
とてもとても温かい、数少ない思い出であった。
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「ポラリス!ポラリスはどこだ!?」
「はい、お父様」
父の呼びかけに応じ、ポラリスは自室から出る。
ちょうど帰って来た父が、玄関ホールから呼んでいるのがわかり顔を出すと父の顔が嬉しそうに歪んだ。
「おお、ポラリス!調子はどうだ!?ちゃんと勉強しているか!?」
「はい、お父様」
ポラリスは実の父に対するには恭しすぎる程に頭を下げる。
それに満足そうに頷き、頑張れよと声をかけ父は自室へと戻った。
今日は父が出張から帰ってくる日であった。
出張と言っても、近くの領主と会談をして世間話をするくらいだが、大切な仕事なのだそうだ。
そういった出張の後、父はいつもポラリスを呼び声をかける。
ポラリスには魔法の才能があった。
エルーシャにもあったのだが、ポラリスの才能は天才といってもいいほどであり、歴然とした差があった。
しかし、エルーシャは特にそんなことを気にしていない。
むしろそんな姉を誇りに思っている。
それと同時に、不憫にも思っている。
父は、他者とは比べるまでもない程の魔法の才があった姉に多大な期待をした。
姉の能力によって、領地を発展することができるかもしれない。
そうなれば、王によって爵位を上げてもらえるかもしれない。
そんな皮算用を持ち、姉には優しく接する。
ただしそれは、自分の打算の上であり、姉には遊びに行く自由も与えられなかった。
勉強という名の研究・研鑽を強いられている。
救いなのは、姉がそんな生活を苦に思っていないところだろうか。
私はそんな姉を尊敬し、支えになれればいいなと思っている。
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姉の研究が実を結んだ。
水魔法から氷魔法の発展。
逆に氷魔法から水魔法への変化。
その理論を確立し、水から氷、氷から水の状態変化の法則を見出した。
これによって六つだった基本属性に氷が加わり七つとなる。
その後、姉は水の偉大な魔導師を冠され、王国の魔導師として登用。
すぐに魔導師長へとなった。
大出世である。
けれど、それは父の思っていたものとは違った。
確かに姉は出世し、給金も多大なもの。
しかし、あくまでそれは姉の物であり父に入るわけではない。
もちろん姉は父に対しいくらかの仕送りをしているようなのだが、それは父が考えていたものではなかった。
自分が情けをかけられている気になった父は姉に対して怒った。
まったく理不尽で、筋の通らない話。
私は心底呆れたのだが、姉はそんな父に何も言わずただ聞いていた。
けれど、父が魔導師長の座を降りて、領地の発展に努めろと言った時。
姉が初めて父に反発した。
それを決めるのは私であって貴方ではない、と。
姉にとって先代の魔導師長は、師とも慕う方だった。
姉という後継を得て、御歳を理由に退位した彼女の後を就いた姉には、彼女が残した魔法師や、魔導師を支え教え導く責任がある、故に、私は貴方に従うことはない。
そう言い残して、姉は家を出た。
母と私とはその後も手紙のやり取りをしていたが、父とは絶縁となった。
父もまた、姉がこの家の敷居をまたぐことを良しとしなかった。
その後私もラッセン辺境伯にスカウトされ、領地を去ることになる。
父は私には何も言わなかった。
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「姉上…」
そして今、姉から救助要請が届いたことでシュウと、第二王女フィオナ様、七聖剣のベン様が向かってくれている。
私は三人からすると実力が足りない。
それでも、実の姉のピンチに駆けつけられないのは悔しかった。
「エル…行ってきてもいいですよ?」
「え?」
私が主と定めた、ララシーヌ様が声をかけてくれる。
「貴方にとってお姉さんのポラリスさんがどんな存在か、昔から教えてくれていましたね。その敬愛するお姉さんの危機。胸がざわつくでしょう。私も同じでした。母上の最期の時…」
「ララ様…」
「だから、行って来てもいいですよ?」
「しかし…」
シュウにも、辺境伯にも頼まれている。
ララ様の身の安全を守らなければならない。
自分が離れるわけにはいかない。
「大丈夫です。この家は安全ですよ。だから、命令です。行きなさい、エルーシャ・フォン・グラス」
「…はい!」
私はバッと礼をして駆けだす。
さっきから胸騒ぎが止まらない。
姉に何かあったとしか思えない。
自分よりも遥かに強い姉に何かあったとして、自分が何かできるとは思えない。
けれど何かできることがあるかもしれない。
ジッとなんてしていられなかった。
今行きます、姉上!
あまりいい出来とは言えないですね。
後で加筆するかもしれないです。




