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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第六章 迫り来る脅威「王都星天会議」編
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閑話 ドワーフと酒

シュウがアキホからガイアへと帰還した後のお話。

五章の最初辺りです。

シュウ目線ではありません。

「こんちわー、親父さんいるかー?」


表の方から声が聞こえてくる。

今は息子のミトスが店にいる筈で、何やら話しているようだ。

少しして鍛冶場にミトスが顔を出す。


「父さん、シュウさんが来たよ」

「なに?」


シュウというのは半年前に突然現れた男だ。

初めて会った時はそりゃあもう驚いた。


へんてこな服を着て、武器が欲しいと言いおった。

冒険者だというが、どうにも線が細く本当に戦えるのかと疑問に思ったものだ。


じゃが、あやつは領主の紹介状を持っておった。

人の評価なんぞどうでもいいが、領主にはこの街に受け入れてくれた恩があったからの見てやろうという気になった。


剣を振らせてみると、その素振りは一流の剣士を思わせた程の綺麗なもんじゃった。

剣をまっすぐ振り下ろすというのは実は結構難しい。

剣自体の重さもあるし、相応の筋力と鍛練がなけば不可能なのじゃ。


じゃが、あやつの手には剣士の特徴がなかった。

あそこまで綺麗に素振りをするには何千、何万と剣を振らねばならんはずじゃが剣胼胝もない柔らかい手じゃった。


それに疑問を感じつつも儂はこやつならと思ったのじゃ。

こやつならばあのじゃじゃ馬を使いこなせるかもしれん、と。


儂は奥へと向かい、厳重に保管しておいたそれ(・・)を小僧に渡した。

小僧を箱を開け中を見ると驚いたようじゃった。

一目で気付いたようじゃ。


じゃが驚いただけで普通に手に取りおった。

儂の人生最高傑作「黒刀・斬鬼」を。


斬鬼は確かに儂の人生最高傑作じゃったが、同時に売り物にはならん物じゃった。

あの刀は呪われておったからの。


斬鬼の素材に使ったオーガキングを討ったのは、ある冒険者じゃった。

しかし、その討ち方はとても気持ちいいものではなかったようじゃの。

素材から伝わってくる怨念は今まで見たことがないほどじゃった。


何故か儂はその怨念に魅せられたのじゃがの。

気付けば槌を握っておった。


そうしてできたのがあの刀じゃ。

斬鬼からは常時呪いの怨念が発せられておる。

儂以外が持てばすぐさま精神を病んでしまう程のの。


それを持っていながら涼しい顔をしておったわ。

あの時は驚いたの。

そしてやっとこの刀が日の目を見ることができると心が浮ついた。


金はいらんから貰ってやってくれと言ったのじゃ。

もう少し違う言い方じゃったかの?


その後何度かあやつは店に来た。

斬鬼で地竜をも斬りよった。


自分の打った刀で竜種が斬られる。

それも一際鱗の硬い地竜じゃ。

これ程嬉しいことはなかったの。


斬鬼の呪いのことなんぞまったく気付いとらん風じゃったが、既に呪いはあやつに馴染んでおったから言うまでもないじゃろう。


さて、今日はどんな用事で来たのかの?


---


「こ、これは!?」


儂の目の前に出された樽。

きちんと密封されているが、ドワーフの儂には隠しきれぬ香りが漂っておる。


「依頼でキラヴェイア火山島に行くことがあってな。そこの火竜達に貰ったんだ」

「火竜に貰うっていったい…」


息子と小僧がなんか話しておるがそんなことどうでもよい。

火竜の火酒!

ドワーフで知らぬ者はおるまい。

幻の名酒ではないか!


「親父さんには世話になっているからな。土産として持って来たんだが…」

「くれるのか!?」


まさか!

こんな珍品を!?

この男この酒の価値がわかっておらぬのか!?

白金貨では足りぬ程の値がつくかもしれぬのだぞ!?


「ああ。喜んでもらえたなら何よりだ」

「ぬぬ!?」


本心から言っておるようじゃ!

くっ、このまま何も言わず貰えば心が痛むの…

じゃが、欲しい。

一度でいいから飲んでみたいと思っておったものじゃ。


じゃが、ここまで信頼してくれている小僧を裏切るようで申し訳ないの。

ここはやはり真実を告げよう。

その結果、小僧が店に売りに行くとなっても仕方あるまい…


「実はの…」


儂は真実を話した。

この酒がどれほどの価値があるのかを。

息子も小僧も驚いっておった。

じゃが、そのあと小僧が言った言葉に更に儂は驚かされた。


「へー、そうなのか。そんなに高価な物だとは思わなかった。大事に飲んでくれ」

「何!?」

「ん?」

「く、くれるというのか!?今の話を聞いておったじゃろ!?」

「ああ、俺が他のとこに持っていくと?金には困ってないんだ」


そう言ってあやつは笑いおった。

その笑みにはまったく深い意味など無く本当にそう思っているようであった。

息子なんて驚いたまま固まってしまっておるのにの。


「そうか…」


儂は決意した。

そういえばこの小僧は、いやシュウは色んな武器を使いたがっておった。

小僧の使う武器、生半可な物ではダメじゃろう。

最低でも斬鬼クラスのものじゃ。


作ってやろうではないか。

儂をここまで信頼してくれてこんな貴重な品をポンと渡す。

その信頼に応えずして何が鍛治師か!


待っておれシュウ。

次に会う時までにはお主に合う武器を作っておく。

刀剣、弓、槍、棍棒、多種多様なその他武器。

お主の為に作って見せるからな!

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