第144ページ エピローグ
魔大陸・ルビアンナ魔国。
その中心に聳え立つ魔王城と呼ばれる城の一室で、二人の人物が向かい合っていた。
椅子に座り報告を聞くのは、まだ年若いこの城の主。
報告するのは無表情な赤髪の女。
「メーアが帰ってこない、か…」
「はい。二人が残したモノが稼働していることから死んではいないと思われますが如何いたしますか?」
「…」
自らの副官であるリンレからの報告に魔王は眉を顰める。
あの二人がわざわざ出張った上で拘束されたとなると、敵の戦力を少々見誤っていたかもしれない。
そしてその責任は自分にある。
「無論助ける。メーアが蘇らせたあの男はどうした?」
「只今他の任務へと出かけております」
「それが終わり次第救出に向かわせろ。手が足りぬようなら言えと言っておけ」
「かしこまりました」
一国の主として時に仲間を見捨てなければならないことも理解した上で尚、魔王は発言する。
魔王が甘いというのも一因ではあるが、今メーアを喪う訳にはいかないというのが主な理由であった。
「まったく馬鹿な真似をしおって」
事後承諾という形で与えた許可を後悔する。
メーアの力はまだ魔王軍に必要なものなのだ。
「シェンツィアートを呼べ」
「かしこまりました」
それは本来ならばあり得ない指示。
メーアと共に捕まっている筈のシェンツィアートを呼べる筈ない。
「お呼びですかな、魔王陛下」
だが、その男は現れる。
いつものように嫌な笑みを浮かべながら。
「お前が付いていながら何故このようなことになったのだ?」
「報告いたします、陛下」
慇懃に礼をするシェンツィアートに、魔王は内心でため息を吐く。
どうにもこいつの相手は疲れる、と。
そこから魔王はシェンツィアートの報告を聞く。
結果、彼にとって誤算だったのは一人の冒険者の存在ということがわかった。
「空間魔法を使い、竜の力を操り、更には死霊術までこなすか…」
ビオの言っていた話が蘇ってくる。
魔王にとってももはやその男は無視していい存在ではなかった。
しかし気になったこともある。
メーアの部下であるダルバインの話によれば、彼の男は別段人族の味方というわけではないらしい。
勿論、これまでの経緯を考えれば人族に肩入れしているのは間違いないが、人族を全肯定しているわけではなく、あくまで冒険者として依頼に応じているという形。
そして、自らの前に立ちはだかったから、自分の邪魔をしたから斬ったという話だ。
そんな理由でこちらの作戦を悉く邪魔されているのだから、たまったものではないが、その考え方にどこか歪な物を感じる。
(異世界人か…?)
それならば納得がいく。
この世界の常識に縛られない考え方。
もしそうであるならば、味方にするとまではいかずとも中立にするということはできるかもしれない。
「魔大陸に観光へ来る、か…ふふふ…ははは…はぁはっはは」
突然笑いだした魔王に対し、シェンツィアートは心配そうな顔をする。
リンレは無表情だ。
「面白いではないか。一度会ってみたいな」
ビオに出した許可を撤回する気はないが、その男ならばビオの策略でさえ粉砕するだろうという確信めいたものが魔王の中に生まれていた。
まだ見ぬその男に興味が湧く。
部下達を下がらせ一人、杯を傾ける。
久しぶりに感じる愉快な気持ちであった。
第六章これにて終了です。
途中不定期になってしまい申し訳ありません。
9月になりましたので毎日連載でまた頑張っていきたいと思います。
この後は閑話を挟み増して第七章となります。
お読みいただいている方どうもありがとうございます。




