第142ページ 終局
《スキル「死霊術」を習得しました》
習得したくなかったものを習得してしまった…
しかし、ということはあのスケルトン達は死霊術によって生み出された存在ということか。
「あの紋章…マジェスタ王国の国章だよ!つまりあれは…」
「死んだマジェスタの兵士や騎士たちか…」
ひどいことをする。
俺の美学とは合わないな。
「さて…殲滅するにしてもどうするか…」
「俺はここを動けないよ。この男、目を離すと何するかわからないから」
「わかった」
ベンの力を借りることはできない。
死霊術、アンデッド系魔物に対抗するには光魔法か火魔法が定石。
だが、ベンと戦ったことにより多少なりとも消耗している今、力技によってあの数を対処することはできない。
神聖魔法ならば手はあるが、あれは信仰の力により神の力を借りる魔法らしい。
加護を受けている俺は使えなくもないんだが、信仰心が薄い為劇的な効果は期待できないレベルだ。
さて、どうするか。
「死霊術で対抗したら?迷宮で魔道書見つけたよね?」
「あったなそんなの」
忘れていたが、かといって失くなったりはしないものだ。
俺はディメンションキーの中から死霊術の本を取り出す。
ざっと目を通し、目当ての箇所を発見。
「他者の死霊術を解除することは難しいようだが…まぁできなくはないか」
スキルは既に習得済み。
となれば難しかろうができないわけない。
それが俺の能力なのだから。
「呼び覚まされし迷える魂達よ―」
俺は詠唱を開始する。
メーアの魔力を補足し、死霊達の魂と切り離す。
俺の魔力はスキル効果によって既に回復しているが、繊細さを要求される作業。
嫌でも時間がかかる。
そもそもこれは、魔術師数人がかりで行う方法であるらしい。
それを一人でやっているのだから自分でもどうかとは思う。
詠唱を続けながら、戦場の様子を見る。
フィオナ王女の戦いを。
まるで小さな台風のようだ。
彼女の周りだけ、スケルトンの姿がなくなる。
またすぐに生まれるのだが、それでも彼女は止まらない。
両手に持つ聖剣を振るい、宙を舞う聖剣を振るう。
斬り、貫き、蹴り、身を翻す。
それはまるで、ダンスを踊っているかのよう。
「舞姫。それが彼女の異名だよ」
俺が何を見ているかに気付いたベンが教えてくれる。
舞姫。
それは彼女にピッタリの異名だと思った。
あれだけ激しい猛攻をしながらも、優雅と言って差し支えない身体さばき。
彼女が剣を振るうごとに、一体、また一体と沈んでいくスケルトン。
スケルトン自体の攻撃能力は決して高くない。
しかし、相手はマジェスタ王国の死人達。
王女の性格からして何も感じていない筈がない。
それでも彼女は止まらない。
一心不乱に剣を振るう。
その動きに迷いはなく。
だが、その顔には哀しみの色を浮かべていた。
美しい。
そして同時に、なんて悲しい舞なのかと思う。
彼女が舞うべきは戦場ではないのではないか。
そんな考えが浮かぶが、それを決して良しとはしないだろうということもわかっていた。
ならばどうするのがいいか。
それは彼女の憂いを払うこと。
彼女がもっと美しく。
笑顔で舞えるように。
「―今ここに、地の門は開かれる。憐れな魂達よ、本来あるべき座へと帰るがいい!再びその魂が生を宿す時まで、眠るがいい死者達よ!」
詠唱が終わる。
それと同時に、俺の魔力が戦場を覆った。
まるで糸が切れた操り人形のように、スケルトン達が崩れる。
魔力が半分以上持っていかれる感覚。
一瞬ふらりとするが何とか立ち続ける。
ハッとしてこちらを見る王女に、力強く頷くと、彼女も一度頷き、屍を乗り越えて進む。
進む先は勿論メーアだ。
メーアは死霊術を強制解除された反動により、魔力を著しく失ったはず。
その結果、苦しげに顔を歪め憎々しげに俺を、そしてフィオナ王女を見る。
「これで終わりです!」
いつの間にか展開されていた16本の聖剣が、宙を舞い全方位からメーアへと押し寄せる。
メーアもそれに対抗しようと魔法を発動させるが、そこに先程まで見せていたような余裕はない。
致命傷となりかねない物だけを選択し防ぐ。
当然、それ以外を防ぐことはできなかった。
「ぐあっ!」
腕に、足に、剣が刺さり彼女を縫いつける。
そこへ王女が迫る。
「覚悟!」
だがそこで、苦痛に歪んでいたメーアの口端がつり上がる。
「魔王陛下に栄光を」
メーアの胸元から紫色の光が発せられる。
死を賭した最後の一撃。
相討ち狙いの自爆。
それを見ていた誰もが同じ思いを抱くが、動くことはできなかった。
最も近くにいた王女でさえ、慌ててその場を飛び退くことしかできない。
それでも、効果範囲がどの程度かわからない以上意味はないのかもしれない。
先程の解呪の影響によって、咄嗟に魔法を発動できない。
王女は魔法能力は低いというは話だったし、ベンの空間魔法では発動に時間がかかる。
ここまでか、と誰もが思ったその時。
ひどく静かな声が響く。
「其は溶けることなき永久の牢獄。〈サウザンドアイシクル〉!」
メーアの周りに氷柱が浮き、一気に紫の光ごと彼女を覆った。
氷の中でメーアの動きが止まる。
魔法も発動することはなかった。
メーアの決死の魔法をも封殺した氷を生み出した魔導師に茫然としながら目を向ける。
皆を救った功労者、魔導師長ポラリス・フォン・グラスは魔力が切れたのか意識を手放し、エルーシャが慌てて支えるところであった。
黒葉周 17歳 男
種族:人間
冒険者ランク:A
HP:11200
MP:15400
魔法属性:全
<スキル>
格闘術、剣術、槍術、棒術、弓術、刀術、棍術
基本六魔法、氷属性魔法、空間属性魔法、無属性魔法、神聖魔法、暗黒魔法、魔法陣術、召喚術、死霊術(new)
身体強化、魔力制御、完全回復
馬術、水中行動、天足、解体、覇気、看破、隠形、危機察知、魅了、罠解除、指揮、並列思考
耐魅了、耐誘惑、耐幻惑、恒温体
礼儀作法、料理、舞踊
<ユニークスキル>
天衣模倣、完全なる完結、全知眼、識図展開、天の声、竜の化身、万有力引
<称号>
「知を盗む者」、「異世界からの来訪者」、「武を極めし者」、「すべてを視る者」、「竜殺し」、「下克上」、「解体人」、「誘惑を乗り越えし者」、「美学に殉ず者」、「魔の源を納めし者」、「全能へと至る者」、「人馬一体」、「無比なる測量士」、「翼無き飛行者」、「竜の友」、「神掛」、「破壊神の敵」、「半竜」、「湯治場の守護者」、「妖精の友」、「底なしの動力源」、「戦闘狂」
<加護>
「創造神の期待」、「戦と武を司る神の加護」、「知と魔を司る神の期待」、「生と娯楽を司る神の加護」、「大海と天候の神の加護」、「鍛冶と酒の神の加護」、「炎竜王の加護」、「妖精女王の加護」




