第141ページ 王女の戦い
フィオナ視点です。
「…王女殿下、私が姉上を押さえます」
「…できるのですか?」
エルーシャ殿の実力はわかる。
人族として上位にいるのは確かだが、自分やポラリスには及ばないだろう。
操られている現状、ポラリスは実力の全てを出しきれているとは言えない。
それでも、エルーシャ殿が彼女を押さえておけるとは思えなかった。
「やります!はぁぁぁ!」
エルーシャ殿がポラリスに向け走っていく。
一見がむしゃらのように見えるが、剣は魔力を帯びており、いつでも発動準備が整っているようだ。
「ならば私も、信じるのみです!」
私はメーアに向け走る。
それでも彼女はうっすらと笑っていたが、水の膜は消失していることがわかる。
エルーシャ殿がポラリスにこちらへ魔法を使っている余裕をなくさせているのだ。
これで私がメーアを斬る。
あるいは、追い込めればポラリスにかかっている魔法が弱まる可能性がある。
精神力において魔導師というものは、私の予想を遥かに超える力の持ち主なのでなんとかなるかもしれない、という期待もしている。
それになにより。
「私の友人を操って笑みを浮かべる貴方を、捨て置ける程人ができていません!『舞い踊れ』フランガッハ!」
聖剣が増殖、空中に7本の剣が踊る。
私の意思に従い、剣達がメーアへと躍りかかる。
「〈ダークウィップ〉!」
メーアの両手に闇色の鞭が生じる。
それを器用に操り、剣を弾き、あるいは絡め捕り放り投げる。
しかし、私の思考によって操作される剣達は、飛ばされようとも攻撃をやめない。
再度飛来し、メーアへと迫る。
その段階になって、私もメーアの下へと到達した。
両手に握る聖剣を振るうと、メーアの持っていた鞭が剣へと変じる。
「闇の剣は折れることなく!〈ダークネスソード〉!」
「詠唱付与!?」
詠唱付与とは、魔法を具現化させた後に詠唱を加えることで魔法の威力・精度を高める方法。
タイミングが難しく誰にでもできるわけではないが、メーアはそれができるだけの力を持っているということだ。
「一芸だけでは、六魔将は務まらないのよ?」
身体強化の魔法は使っていない。
それにも関わらず、七本の剣全てに反応しさばいている。
おそらくは聖剣から発せられる魔力を感知し、いち早く動いているのだろうが、言うのは簡単でもやるのは難しい。
「魔王直属の幹部、六魔将。何故我が国を狙うのです?」
「知れたこと。アルクラフト大陸最大の国を手中にすればその後の侵略もしやすくなるからよ」
狙いはマジェスタだけでなくアルクラフト大陸全土。
その足掛かりに我が国を手に入れると。
確かに、アルクラフト大陸の三分の一はマジェスタ王国だ。
次いでデレーゼン帝国、パレステン神聖教国と続くが、国土には圧倒的な差がある。
これは初代国王がその人望により小国を統一していった結果であるが、ここまでの大国になるにはそれなりの苦労をしてきた。
「そう簡単にあげたりしません!」
聖剣を更に三本増やし、合わせて十本の聖剣がメーアに襲いかかる。
どうにか反応はしているが、先程までの余裕は顔から消えていた。
「六魔将メーア・ストランク、あなたの技量は理解しました。しかし、近接戦では私が上です。観念しなさい!」
「ふふふ、よく言うものですね。けれど、私が何も策がないまま前線に立つとでも?」
その瞬間、地中より魔力を感じた私は、咄嗟に跳び退る。
一瞬遅れて、私が立っていた場所に地中から剣が突き立てられた。
「なっ!?」
「さぁ私の為に働きなさい!」
白骨の手が地中より現れる。
それは一本や二本では収まらず、次々と這い出てくるのは骸骨兵。
スケルトン。
剣を持つ者、槍を持つ者、弓を持つ者。
様々存在するが、その装備には見覚えのある印がつけられている。
竜が絡まる剣の紋章。
マジェスタ王国の証たる国章。
「貴様っ!?」
「この国に骨を埋めた過去の兵達。存分に戦うといいわ」
ニヤリと笑うメーアに対し、私の顔はどうなっているのか。
これほどの怒りを覚えたのはいつぶりだったか。
「眠りに着く兵達を起こし、戦わせるなど!」
「使える物は使わないとね?」
死霊術。
死者を呼び起こす禁断の魔法。
ベンの師であるエイブラハム卿を呼び起こしたのもこの女か。
なれば、ここでこの女を斬れば、彼もまた眠りに還ることができるということだ。
「戦う理由が増えました。あなたを斬ります」
「この軍勢を越え、私の下までたどり着けたらいいわねー?」
スケルトン軍の数は50を越え、更にまだまだ増え続けているようだ。
ここの下が墓ということはなかったので一体どういう仕組みか気にはなるが、そんなことどうでもいい。
宙に浮かぶ聖剣の数は十四。
私の手に二振り。
私は地を蹴り走りだす。
この国の為に戦ってくれた死者の為に。
友を悲しませない為に。
「マジェスタ王国第二王女フィオナ・ジェンティーレ・マジェスタ・フォン・アッシュフォード。参ります!」




