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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第一章 初めての異世界「辺境の街」編
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第15ページ 決着

今回はクレインとドーン視点からになります。


その光景は信じられないものだった。

彼のことはラッセン辺境伯とギルド長から聞いていた。

ランクはGだが信用できる力の持ち主だと。

それでも僕よりは弱いと思っていた。


これでも辺境伯の第二騎士隊長で街の治安を預かっている。

その力に自信もあった。

しかしあれを見てしまうとそんなものを自信とは言ってられない。


単騎でゴブリンの群れへと突撃し、何の補助もなしに最奥へとたどり着いた。

そこまではまだ理解できる。

Sランク以上の冒険者であればやってみせるだろう。


問題はそこからだった。

ランクBのゴブリンキングを軽くあしらったかと思えばランクAの地竜と一対一の戦闘を始めた。


その戦闘はまるで神話の再現のようであった。

詠唱をしている様子もなければ魔法陣や魔導書を使った様子もない。

にもかかわらず上級、下手をすると特級クラスの魔法が放たれる。

魔法は下級、中級、上級、特級と分かれるが上級以上は使い手が限られる。

ましてや特級などこの国でも使えるのは片手の指で足りるほどだろう。


火の鳥が舞い、風が渦巻き、地が揺れる。

あれは何だ。見たこともない魔法。

地竜を翻弄するその様子に僕は言葉もなかった。


「おいっ!気持ちはわかるがボーッとするな!」


そんな僕に声がかかる。

僕はハッとし周りを見る。


彼が地竜を引き受けてくれているとはいえ周りにはまだオーガやトロールもいる。

幸いCランク程度のやつしかいないようだがそれでもこれだけの数のゴブリンと合わされば脅威以外の何者でもない。


「すまないっ!地よ、人型を取りて我に手を貸せ!〈クレイドール〉!」


僕の得意とする魔法を発動する。

僕の属性は土。得意な魔法は土人形を操るこの魔法。

総勢10体の土人形がゴブリンへと襲いかかる。

奥に見えるオーガが僕の相手だ。


---


クレインが魔法を使うのを確認し、俺は近よってきたゴブリンに槌を振るう。


「鬱陶しいっ!!」


俺の少ない魔力を流してやると大槌がその刃を伸ばした。

この大槌はマジックアイテムで効果は巨大化。

それだけだが重さは変わらないため扱いやすく、重宝している。


巨大化した槌を振るう。

ゴブリンが十数匹倒れるが減っている気がしない。


「ドーン!奥のトロールが動き始めた!こっちに来るぞっ!」


トロール。

その身は巨大でもはや大木と言えるような木の棍棒を持っている。

知性がないのが救いだが、そんなことは問題にならないほどの力を持ちゴブリンとは比べ物にもならない。


見た目は緑の肌に汚れた布を巻いているだけというのに大きいものだとBランクに分類されたりもする危険な魔物だ。

普段は山間や森林の奥に住み見る機会はあまりない。


それが今目の前にいて、こちらに向かってドシドシと音を立てながら近寄ってくる。


「Gランクが地竜と戦っているってのにAランクパーティーの俺らがトロール程度から逃げるわけには行かねぇよなぁお前ら!」

「「「おぉ!!!」」」


俺の声にパーティーメンバーが賛同してくれる。

それに笑みを浮かべトロールに大槌を向ける。


「来いよデカブツ」


俺は向かってくるトロールに向け走り出し、その頭めがけて巨大化させた槌を振り下ろした。


---


どれほどの時間が経っただろうか。

地竜の尾が横なぎに振られる。

当たれば人間など吹き飛ばされるだろう。

革鎧なんか着てたところで関係ない。

一撃でも喰らえば終わる。

その緊張感の中で集中力は極限までになっていた。


斬鬼は地竜の鱗も斬り裂いた。

しかしいくら斬り裂いても致命傷につながらない。

再生されているわけではないが周りの肉により傷が閉じてしまうのだ。

だがその痛みは蓄積されているはず。


それでも疲労度はこちらのほうが上だ。

竜の体力なんて知らないが俺よりあるのには間違いない。

このまま続ければこちらが先にミスするだろう。


地竜が口を開きその巨大な(あぎと)で俺を噛み砕こうとしてくる。

ズラリと並ぶ歯は一本一本が剣であるかのように鋭く尖っている。


脳に思い浮かべるのは身を吹き飛ばす突風。

魔力を変換し風へと変える。

イメージしたままの現象が俺を横へと吹き飛ばし、強引に危機から逃れる。


思考が加速する。

どうする、どうすればいい。


刀では決着がつけられない。

魔法は鱗に阻まれ効果があまりない。

炎で焼こうが風の刃で刻もうが土の刺を生やそうがお構いなしに進んでくる。

あの巨大な怪物をどうすれば仕留められる。


その時唐突に思い浮かんだ。

思い出すのはギルド長の姿。

そうだ。

身体に纏わせた無属性の魔力。

何にも変換させていない純粋なる魔力。

あれも視た。

使えるはずだ。


心臓の位置から魔力を押し広げるイメージ。

魔力が身体を覆う。だが足りない。

刀も体の一部であるとし同様に纏わせる。


「…行くぞ」


尾が上方から振り下ろされる。

わずかな動きでかわすと尾が叩き落とされたところを震源に地が揺れる。

一瞬バランスを崩しそうになるがどうにか耐え、刀を振り下ろす。


「GuGyaaaaaaa!!!」


戦闘が始まってから初めて地竜が悲鳴を上げる。

俺の魔力を纏い、更にその魔力をイメージにより硬化させた斬鬼は、地竜の尾を何の苦労もなく切断した。


怒りに目を変えた地竜がこちらに向け腕を伸ばす。

俺はそれをかいくぐり奴の胸元へと飛び込んだ。


見上げるようにすると目があった。

ニッと笑って腹を一閃。


「Guoooaaaa!!」


悲鳴とも怒号ともつかないような咆哮。

まるでそれが攻撃であるかのように空気が震え鼓膜にダメージを受ける。

音が消えた。


「くっ!」


俺は目により突っ込んでくる奴の頭を見て強引に身体を捻り向きを変えるが間に合わなかった。


「ガッハッ」


地竜の頭による頭突き。

鋼鉄並の硬度を誇る竜の鱗と地竜の筋力により出されるその一撃はまさに致命傷となるべきものだった。

俺が全身に魔力を纏っていなければ。


一瞬で全身の魔力を硬化させ衝撃を和らげたが、それでも身体が悲鳴を上げる一撃だった。

もうあまり動けはしないだろう。


動きが止まったところに続くように攻撃が入る。


「Giaaaaaaa!!!!」

「っ!?ブレスか!」


その巨大な顎を開き、エネルギーを集積させているのがわかる。

竜がそんな格好をするなら答えは決まっている。

地竜がブレスを使うとは知らなかったが間違いはないだろう。


「ちくしょうっ!」


俺は慌ててその場から退避する。

だが、先ほどのダメージにより身体が思ったように動いてくれない。


諦めるという選択肢はなかった。

この身体で避けることは不可能。

ならばどうするか。


「やるしかないかっ」


想像するのはアニメなんかで見る光景。

飛ぶ斬撃。

あれを再現する。

ブレスだろうがなんだろうが叩き斬る。

それしか生き残る術はない。


極限まで高まった集中力と魔力制御のスキルにより、高速で魔力が奔る。

強固に濃縮された魔力が刀だけに集中される。

更に、斬鬼を鞘に収め腰を低く構える。


「はぁぁぁぁあ!!」

「GuruuuuuGAaaa!!!」


俺の叫びと地竜の咆哮が重なる。

そこにあるのはただ純粋に相手を打ち倒すという意志のみ。


地竜から土色のブレスが放たれる。

どうやら土属性のブレスのようだ。

まるで質量を持つかのようにこちらを押しつぶそうとする力の奔流。


対する俺は居合切り。

異世界補正と身体強化により上乗せされた筋力による神速の一太刀。

放たれる斬撃。俺の全ての魔力を注ぎ込んだ死への刃。


邂逅は一瞬だった。

地竜のブレスが斬撃を押したのは一瞬だけ。

切り裂かれたブレスは俺の周囲を破壊したが、俺には届かなかった。


しかし俺の放った横一閃の斬撃は地竜のブレスを寸断し、地竜に届いた。

切断される地竜の首。まるで自分が斬られたことが信じられないというような顔をしたまま、地竜の首が地に落ちた。


ドンという音が響き、地竜の身体も遅れて地に伏せる。

俺はそれを見た後、意識を手放した。

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