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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第六章 迫り来る脅威「王都星天会議」編
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第136ページ 堕落の煙

「なんだ?」


煙幕の中に入った途端に、シェンツィアートの位置が感じられなくなった。

気配もない。


それどころか、隣にいたはずのベンの姿まで見えなくなってしまっている。

ベンの気配も同様にない。


どうやらただの煙幕ではなく、なんらかの魔道具(マジックアイテム)であったようだ。

外から見る限りでは狭い範囲でしか煙はなかったにもかかわらず、今では広範囲にわたっているのがわかる。


おそらくこれは、俺が持つマジックテントのような空間拡張を用いた技術なのであろう。

同時に中にいる者の気配を隠す効果もあるようだ。

この少し先も見えないような煙の中で、五感によってしか敵を発見できないとなるとかなり難しい。


「ベンは放っておいてもいいとして…どうやって見つけるかだな」


何やら胸がざわつくのを感じながら、俺はとりあえず足を踏み出した。


---


「シュウー?どこ行っちゃったのかなー?」


この煙幕が魔道具(マジックアイテム)だったことには気づいている。

無暗に踏み込んでしまったことは迂闊だったけれど、特に気にはしていない。


自分とシュウの力があれば大抵のことはなんとかなる自信があるし、あのシェンツィアートが自分達を越える力を持っているとは思えなかった。

あの雰囲気と技術力は確かに驚異的ではあったが、それでもだ。

もしそんな力があるのならば、人族などとっくに滅ぼされているだろう。


「さて、どこにいるんだろうねー?」


ベンは、特に警戒することもなく歩き出す。

気配を感じることができない今、警戒したところで無駄だというのもあるが、空間魔法の使い手である俺にとって、攻撃する為にある程度近付かれることはむしろ歓迎すべきことである。


気配を感じれず、空間把握のスキルも機能していないが、それでも接近されれば必ずわかる。

そのための魔法は発動済みだ。


空間魔法〈自己領域(テリトリー)〉。


この領域内の全ては術者によって把握され、任意に遠隔魔法を発動することも可能となる。


ベンもシュウも知らないことであるが、アキホの地下水道にてシュウが使った魔法はこれである。

最も、シュウの場合自分で想像した魔法であるので細かい差異はあるのだが。


ベンは、この魔法を発動することによって、この煙幕の中自分が認識できる範囲を最大まで広めていた。

それでも、この煙幕の効果なのか自分を中心とした半径2m程度くらいしか把握できていない。


そのことに驚きながらも、2mあれば大抵の攻撃には反応できるだけのスペックが今のベンには備わっている為、ただ驚いているだけにとどまっているのだ。


『……』

「ん?今何か聞こえた気が…」


進むごとに煙は濃くなっている気がする。

もはや自分の身体すら見ることが難しくなってきているようだが、別段焦ることもなくベンは進んでいる。


そのうち何か声のようなものが聞こえた気がして、ベンは足を止めて耳をすませた。


『…い…』

「んー?」

『…を…いつ…ましい…』

「よく聞こえないなー?」


どこから聞こえているのかと音源を探してみるが、どうやら辺りから聞こえているという漠然としたことしかわからない。

だが、少しそのまま耳をすませていると、だんだんとはっきり聞こえてくるようになった。


『俺以上の力を手に入れたシュウが妬ましい』

『俺よりも後にこの世界に来たくせに』

『あんなチートスキル』

『憎い』

『羨ましい』


と、自分の心の声のようなものが聞こえている。


「わかったこれ、闇落ちするやつだ!」


おそらくは自分の声。

どこか不気味な感じ醸し出されている。


しかし、前世の、地球の知識を持つベンにとって、この展開はわかりやすいものであり、楽しそうにしている。


ただし。

わかっている、知っているからといって、防げるとは限らない。


ジワジワと、心が浸食されている感覚を味わいながら、それでもベンは笑っていた。


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