第131ページ 招かれざる客
「過ぎたことを言っても仕方ありません。グラス魔導師長、悔やむのであれば魔人巨兵の研究を更に進め、破壊法を見つけなさい」
俯くグラス魔導師長に対し、フィオナ王女はあえて厳しく声をかける。
それは、王族としての気品に溢れた所作。
人々を導く立場としての行動。
フィオナ王女の性格だけであるならば、優しい言葉をかけ慰めるだけ。
しかしそれではグラス魔導師長にとって何の慰めにもならないとわかっているからこそ、彼女の頭を後悔よりも仕事へと向けさせた。
魔族の捕縛よりも部下を守ることを選んだ彼女の行動を、認めているからこそ。
グラス魔導師長を責めるようなことは一切言わずに、意識を切り替えさせた。
魔導師長はハッとして、その場に恭しく肩膝をつき、右手を胸に。
主に対する最上級の敬礼。
フィオナ王女はそんな魔導師長の姿を見て、一つ頷くだけだ。
王と臣下。
その関係を象徴するかのような一面であった。
この子は、俺よりも幼いこの王女は、既に立派な王の風格を有していた。
あの優しい王と、強き王妃から受け継いだ王者の風格を。
俺がその光景を見て心を温めていると、不意に脳内の地図に光点が生じる。
「……チッ」
いいところに限って邪魔が入る。
「どうしたの?」
「客だ。呼んでないがな」
いきなり舌打ちした俺に、若干引きながらベンが問いかけてきた。
俺がこの光景に対して舌打ちしたとでと思ってんのかね?
失礼な。
俺の言葉に、他の三人も慌てたように気配を探る。
もう通常の気配感知でもわかるだろう。
強い力の持ち主が二人、そしてそれに従うように六人。
悠々と、歩きながらこちらに向かってきている。
扉が開き、姿を見せる。
今までの証言、そして俺が視た通り、桃色髪の美しい女と、丸体型の白衣を着た男。
「私の力が解除されたから来てみれば、強そうな人がこんなに」
「キヒヒヒヒ!小生の新しい実験に付きあっていただくにはピッタリでやんすね!」
白衣の男の声は甲高く、女の声は甘ったるい。
女たちの後ろにいる六人は、黒のローブを被り、何の反応も見せなかった。
「メーア・ストランクだな?」
「あら、私を知っているの?でも、私も貴方を知っているわ、シュウ・クロバ。私達の作戦をことごとく邪魔してくれているそうね」
「俺がいる時にするのが悪い」
ニヤリと唇の端を釣り上げてやると、メーアはその笑みを若干引き攣らせたがすぐに薄ら笑いに戻る。
しかし、こいつらは一体どこから現れたというのか。
先程まで研究所内に気配はなかった。
研究所には地下区域と、二階部分もあったがそちらの探索はしていなかった。
しかし、俺の識図展開には正確な地図として表示されなくてもこの魔族たちのような強い魔力を有する者がいたならばわかるはずだ。
力を隠そうともしていないのだから。
だが、空間魔法で跳んできたような気配もなかった。
どういうことだ?
「何のために戻って来たんだ?」
「素直に答えると思うの?」
「実験でやんす!」
「「……」」
気まずい沈黙が流れる。
この丸体型の魔族は隠すつもりはないようだ。
「シェンツィアート博士、何故言ってしまわれるのです?」
「言ったところでこやつらにできることなどないのですから!」
シェンツィアートが両腕を振り上げると、後ろに控えていた六人が何かを投げた。
六つの球は空中で輝きだし、音を立てて爆発した。




