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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第六章 迫り来る脅威「王都星天会議」編
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第130ページ 魔族の目的

「結局、目的はわからずですか…」

「そうでもありません。少なくともこの資料に用があったことは確かです」

「……でも、完全に後手に回ってるよね」

「「「……」」」


そうだ。

王城への侵入から研究所への侵入まで、完全に後手に回ってしまっている。


仮にも人族最大の王国首都において、これ以上後手に回るのは如何なものか。


「あら?」

「どうしたんです?ポラリスさん」

「いえ、これ…」


グラス魔導師長は、見ていた研究資料をこちらに差し出してくる。

いや、見せられてもわからないが…


「この資料は私たちが調べた物ではありますが、ここを見てください」


示されたのは、資料の端。

走り書きが書かれている。


「『相違』?」

「読めるのですか!?」

「え?」


読めるも何も書いてあるままなんだが…


「これはおそらく魔族の文字です」

「魔族の?」

「はい。それが証拠に我々はこの文字を読むことができません」


魔導師長の言葉に、ベンとフィオナ王女も頷く。

そうだったのか。

俺は「異世界からの来訪者」の称号効果により、話すことも書くことも不便がないようになってるから、魔族の文字だろうと読めてしまうのか。

となると、解読できてない古代文字とかも読めそうではないか?


「しかし…『相違』ですか…」

「ええ、そう書いてあります」

「もしかすると…」


そう言ったまま何やら黙り込んでしまう魔導師長。

そして、自分の中で納得がいったのか俺たちに向き直る。


「もしかすると、まだ魔人巨兵は未完成だったのかもしれません」

「どういうことです?」


魔導師長は、他にも魔族語によって走り書きをされている資料を広げ、その全てが同じ文字であることを確認する。


「これを相違と読むのであらば、それは何との相違であるのか。これがもし魔族側からの答え合わせであるならば、相違ではなく間違いなどと書くのではないでしょうか」

「いや、そもそも答え合わせをする必要はないのでは?」

「その通りです。学校ではあるまいし、わざわざ間違えを指摘してくれるとは思えません。では、どういう可能性があるのか」


そこで言葉を切る魔導師長。

わかりますか、と言うように見回してくる。


「もしかして…」


呟いたのはフィオナ王女だった。


「もしかして…答え合わせではなく、検討?」

「検討ですか?」


我が意を得たりと頷く魔導師長。

フィオナ王女の言葉を引き継ぐ。


「魔人巨兵はまだ未完成だった。しかし、魔族の研究者には何故完成に至ることができないのかがわからなかった。だから」


だから、わざと未完成の状態で出陣させ、人族に調べさせ、その研究データと自分たちの見解との相違点を探った。

そこから完成品へと至る為に。


「そんな面倒なことをわざわざしますか?」

「魔人巨兵の元々を知っていますか?」

「いいえ…」

「魔人巨兵とは、その昔、魔人が生み出した兵器です」


魔導師長以外が、驚愕に顔を染める。


「闇より出ずる巨人。夜を呼びて、昼と為す」

「終末の13日…」


それはまだ三種族が手を取り合っていた時代。

どこからともなく現れた巨人の軍勢により、世界から太陽は隠れ、大陸は火に包まれた。

空は闇に覆われていながら、昼のように明るき世界。

大陸の大半が海に沈み、生物絶滅の危機に瀕した。

そんな折、天より降臨せし神により、巨人はその命を終える。

その後新たに降臨せし神により、世界は再び光に満ちた。


「これは神話の話では!?」

「何事にも元になった物があります。この巨人の場合は、魔人巨兵を用いた魔人の侵攻事件です」

「そんなことがあって、伝わっていないのか?」

「ええ。神話として伝えられている限りです。それ以上は、口伝によってのみある者たちに伝えられています」

「ある者たち?」

「それはまたにしましょう」


そう言って魔導師長は、言葉を噤む。

だが、俺以外の二人はわかっているようだった。


「その魔人巨兵を、魔族は今回復活させようとした。けれど、魔族に現存した資料だけでは完成とはいかなかったのでしょう。人族が知る魔人巨兵の資料を求めた。人族に魔人巨兵の資料が残っていなかったことは誤算だったのでしょうが、結局私の頭の中にあった物を書き出したこれらを見られてしまいました」


魔導師長は、それだけ直筆だと思われる資料を手に取り悔しそうに顔を歪める。


この予想が正しいのだとすれば、次は更に強くなった魔人巨兵を相手にしなければならないということに他ならない。


俺たちは、俯く魔導師長に何も言うことができなかった。

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