第125ページ 地下へ
下からの爆音と同時に、王城全体が揺れた。
立っていたメンツがバランスを崩し、何かに捕まる。
「オギャーオギャー!!」
俺とベンもぐらついたのに、直立不動のアレックス。
さすがである。
「ふむ。狙いは魔族の奪還で間違いなかったようだな」
全く動じた気配もない。
余裕である。
「どうする?」
「陛下たちを公爵家に避難させることは変わらんだろう。ベンに任せて私達は下へ。騎士団が機能しているならば非戦闘員の誘導を開始しているはずだ。だが、様子を見てみないことにはどうしようもない。まさかとは思うが、王城自体が倒壊する可能性もある」
アレックスの言葉に、その場にいる全員が息を呑んだ。
王城倒壊。それは、建国以来の大事件となるだろう。
王族が全員無事だったとして、倒壊した王城が民に与える心理的不安は拭いきれない。
「なら、私は王家の方々を公爵家へとお連れした後、誘導を手伝います」
「わかった。フィオナに民衆の避難をするよう伝えろ」
「わかりました。それでは皆様、参りましょう」
「うむ」
「アレックス、それにシュウ君。いつも君達だけを矢面に立たせてしまってすまない」
「いえ」
「問題ない。この程度、散歩と変わらん」
いや、散歩とは違うと思うのだが…
というかアレックス、国王にタメ口だったぞ?
周りのみんなは驚いた様子がない。
どうやらいつもそうみたいだ。
よくわからんな。
ベンと王族たちの姿が消える。
これで王族が洗脳される心配はしなくていいな。
「では私たちも行こう」
「ああ」
部屋を出て下へと向かう。
もはや隠れる必要はないので足早に階段を降りる。
その途中で、ディメンションキーを利用した早着替えを行う。
フービンさんの服がキーの中に収納され、いつも通りの地竜の革鎧が身に纏った状態で現れる。
1m以内ならどこでも自由に物を出すことができるという特性を利用した着替え方法だ。
「ドラグニル卿!」
「む?」
一階には、既に騎士団が集まっていた。
会議で会った軍務卿や、責任者たちの姿も見える。
だが、俺の目にははっきりと魅了状態であることが見て取れた。
「アレックス、魅了を受けている!」
「心得た」
その瞬間。
アレックスから覇気が迸る。
まるで重力が増したかのようにその場にいた全員が身体の動きを止め、中には泡を吹いて倒れる者も。
その絶対的捕食者を前にしているかのような、プレッシャーが止んだ時、まともに立っていられたのは、直接覇気を向けられたわけではなかった俺だけであった。
「なんだ、つまらん」
言葉通り、憮然とした顔で腰を抜かしている面々を見やるアレックス。
いやいや、今のは仕方がないと思うぞ。
しかも、今の覇気で魅了の効果が飛んだようだ。
状態異常が解除されている。
魅了の洗脳よりも、生物としての生存本能が勝ったということだろうか。
何という力技。
「ド、ドラグニル卿?」
「うん?どうやら洗脳が解けたようだな」
「ああ。あんたに対する畏怖でな」
フィオナとララは魅了を解除するのは光魔法か魔道具でしか無理だと言っていたんだがな。
「記憶はあるのか?」
「あ、ああ。なんだかぼやけているが…」
「ぼやけている?」
「どう言えばいいのか…うっすらとしていて…」
「まぁいい。お前に魅了をかけた者のことは?」
軍務卿は他の者と違い言葉を発していた。
大本の魔族が直接魅了をかけた可能性が高い。
「はっきりとは…ただ、女だったとしか」
「女か…」
一応確認を取ってから頭の中を覗かせてもらう。
記憶がぼやけているというのは、こういうことか。
なんだか靄がかかっているように見える。
おそらくは魔族の大本だと思える女は見えたが、女であるということくらしかわからない。
ここら辺の記憶は特に曖昧だな。
何か細工をされたとみるべきだろう。
一階は見た感じ何もない。
高そうな花瓶が落ちて割れているくらいだ。
窓も割れているな。
「地下には誰か向かったのか?」
「ああ。何人か行った。戻ってきてはいないが」
アレックスと頷き合う。
二人で降りることにしよう。
さて、何が待っているのかね?
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軍務卿に状況を説明し、騎士団の統率を任せ、俺達は二人で地下への階段を下る。
騎士団にはそのまま城内にいる人員の避難を任せる。
「地下牢には今どれだけの囚人が?」
「魔族の男だけだ。他は王都内にある収容所に移した。魔族を入れておくなら集中する必要があるからな」
そんなことまったく思っていない感じで言うアレックス。
聞いた話によると、竜人は魔人族よりも更に高スペックであり、人種としてはこの世界一の実力を誇る。
だが、魔族より更に個体数は少なく、世事にも興味がない為滅多に表舞台に出てくることは無い。
このアレックスは過去、国王に助けられたことがあるそうで、国というよりも国王個人に忠誠を誓っているらしい。
今では友人となっているそうだ。
「これは…」
地下へと降りていくと、暗い廊下が伸び、左右には鉄格子の牢屋。
ダルバインを収容していたのは一番奥だということなので、進んでいくと床に倒れている騎士の姿。
様子見で降りた騎士たちなのだろう。
残念ながら既にこと切れている。
魅了する必要がなかったのか、できなかったのか。
生きている者には出くわさず、俺達はどんどん廊下を進んでいき最奥の牢屋に辿り着いた。
「待ってたぜぇ?」
拘束具が全て外され、完全に自由な状態であるはずなのに、牢屋の中に座り楽しげに笑うダルバインがそこにいた。




