第123ページ 合流
昨日は投稿できていなかったようで申し訳ありません。
本日は昨日分を含め二話掲載になります。
一話目です。
変装は、驚くほどにうまくいった。
いや、いってないのかもしれないが、堂々と進めるというだけで時間の短縮になる。
王城の階段は、廊下の両端二か所につけられており、廊下の真ん中にはエレベーターらしき魔道装置がある。
王城内の移動手段はその三つである。
魔道装置は、動かす為に何らかの符号がいるらしく、残念ながら俺は動かせない。
否応なく階段を下りるしかなく、一気に駆け下りてしまえればいいのだが、この階段は防犯上の問題であるのか三階に一階くらい階段の目の前に騎士控室が用意されていたりする。
確認したところ、そこに配置されている騎士は、漏れなく魅了されずみであった。
この騎士たちは、まったく動く様子がなく、通る人物をただ監視しているだけのようだ。
これまでは、一人ずつしかいなかったのに、9階より下には二人ずつ配置されているようであり、気をそらしたりすることができなかった。
故に、文官の服が必要となっていたわけである。
これで、もし彼らが顔を正確に判別しているようならお手上げであったが、この世界では名簿に顔写真がついているようなこともなく、照会もできないであろうから大丈夫とは思っていた。
実際大丈夫であった。
問題は、洗脳されていない人たちであった。
どうにも俺は文官として若すぎるようであり、首をかしげながら通り過ぎられたりする。
特に騒ぎになることはないが、怪しまれているのは確かだ。
だが、それももうすぐ終わる。
どうにか誰に声をかけられることもなく、三階へと到達した俺は、王の執務室へと足早に向かっていた。
そう。
あと少しだったんだ。
唐突に問題は起きた。
「ここで何をしている?」
「ここに何の用事かな?」
背後から声がかかる。
王城に入ってから識図展開は常時発動している。
人に見つからない為には必要だったのだから当然だ。
三階の光点は全て確認した。
幸いなことに三階には、国王執務室、宰相執務室、騎士団長執務室、騎士控室しかなく、あとは無人の応接室といった感じになっていた。
つまり、この階に人は少なかった。
国王執務室に、国王、前王、第一王妃の3人。
宰相と騎士団長は不在。
騎士控室に6人の騎士。
両端の階段前に二人ずついる騎士。
この11人しかここにはいなかった。
そして、その誰もが部屋から出る様子はなく、一番の鬼門となるであろう騎士控室はまだ先にある。
つまり、後ろから声がかかるはずはなかったんだ。
気配もまったくせず、まるでいきなり現れたかのようであった。
頬を汗が伝う。
脳内の地図を見る。
と、そこには知った名前が二つ表示されていた。
「なんだお前らか…」
息を吐きながら振り返る。
そこにいたのは、この国の最高戦力。
七星剣の第一位と第七位だった。
「シュウ?」
疑問符を浮かべている二人に、状況を説明する。
さすがに歴戦の二人である、今の状況がどれほどヤバイかを途端に理解し、顔が真剣になる。
「なるほど…魅了による洗脳か」
「俺達は地下にいたんだけどね。一階にあがってみると皆の様子がおかしくて。どうも嫌な予感がして…許可はされているけど、城内で空間魔法を遣うことはないんだよ?でもアレックスさんがね」
「陛下の安否が第一だからな」
特に襲われるということはなかったそうだが、様子だけでいつもと違うことを見抜くのはさすがだ。
しかし、この二人を洗脳しようとしなかったのはどういうわけだ?
いや、これはできなかったと見るべきか。
おそらく最初に襲ってきた8人は、魅了をかけた大本が直々に洗脳した者。
それ以外の単純な命令しかされていない者は、大本以外から広がっていった感じなのだろう。
この二人クラスの実力者ならば、大本でなければ洗脳できないということはありそうだ。
「とりあえず陛下の所に行こう」
「そうだな。都合がいいことにそこに前王と第一王妃もいるようだ」
「ほう?そのような能力もあるのか。便利だな」
「一家に一台って感じですよねー」
なんだそれは。
俺は家電じゃないぞ?
だが、ここでこの二人と合流できたのは僥倖だった。
戦力的にも能力的にも。
ベンは城内で空間魔法を使えるようだし、アレキサンダーの戦闘能力は群を抜いている。
俺の知らないところで二人が洗脳される心配もなくなった。
この二人が同時に敵に回るとなると全力を出しても勝てないだろうからな。
「そういえば、話すのはこれが初めてか。アレキサンダー・テムエ・ドラグニルだ。アレックスでいい」
「シュウ・クロバだ」
「私の姿を直視してなお、それだけ落ち着いていられるのはさすがだ」
「そうでもない。心が折れそうだ」
今、アレックスはいつも被っているフードをしていない。
こうなって初めて、あれが特殊な魔道具であり、この男の隠しきれないオーラを抑制する為の物だったことがわかる。
向き合うだけで、その瞳を見るたけで、常人ならば腰を抜かしてしまうだろう。
あるいは、絶対的な君臨者を前にした民衆の如く、その前に跪き頭を垂れる。
こんな気分になったのは初めてだ。
俺がスキルをフルに使えば例えどんな相手にでも対応できるつもりではいた。
自信がなくなってきたぞ。
「ふっ、できればもっと落ち着いた状況で話したかったものだ」
「まったくだな」
「にしてもシュウ、その服どうしたの?」
「借りたんだ」
ベンが呆れたように見てくる。
仕方なかったんだと言い訳しておく。
「ふむ…あそこは騎士の控室があるのだが、どういう状況かわかるか?」
「覗いてみないことには何とも言えないな」
「では覗いてみろ」
「…」
ベンの方を見ると、その顔には諦めてと書いてある。
おそらくいつもこんな感じなのだろう。
俺は諦めて扉の影から中を覗く。
だがどうやら、この中にいる騎士たちは誰も魅了を受けていないようだ。
「どういうことだ?」
不審げに呟くアレックス。
俺もわからなくなってきた。
だいたい、洗脳されている人もよくわからない。
ただの町民や、階段を見はっている騎士がされているのに、王の執務室直近の騎士控室にいる騎士たちはされていない。
どうにもやっていることがちぐはぐな印象を受ける。
いったいどういうことなんだ?
だがとりあえず、騎士たちが魅了を受けていないことがわかったので、俺達はどうどうと詰め所前を横切る。
俺一人であったらできなかったが、騎士団の幹部でもあるこの二人が一緒ならば問題はない。
悠々と通り過ぎ、ベンなんか中に手を振っていた。
執務室の前まで来た。
これで既に国王が洗脳され済みであったら最悪だな。
アレックスが扉をノックし、名を名乗る。
入れとの声がかかり、扉を開ける。
さて、どっちだ?




