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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第六章 迫り来る脅威「王都星天会議」編
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第121ページ 避難

「魅了にかかっているようです」

「魅了ですか!?一体誰がこんなことを…」

「どうやら悠長にしていられる状況ではないようですぞ?」


緊張を孕んだゲラルトの声に、俺とフィオナ王女も警戒を強める。

辺りの店から出てくる者、ただ道を歩いていた者、そんな普通の人々が全員こちらに視線を向けている。


その目に力はなく、身体もどこか力が抜けているように思える。

だが、手には各々、武器となるような物を持っている。

それは棒であったり、包丁であったり、鍋であったりと様々だ。


しかし、これからそれを本来の用途で使おうとしているとは微塵も思えない雰囲気がある。


「これは…私達を料理しようということでしょうか?」

「余裕ですね、殿下」


軽口をたたくだけの余裕はあるようだが、実際はかなりまずい。

戦力的には圧倒的にこちらが上だ。

だが、こちらにはフィオナ王女がいる。

この王女は絶対に、


「無暗に民を傷つけることはなりません」


ほら見ろ。

そう言うと思った。

嫌いではないが。


それならば


「殿下、空間魔法で王城へ跳ぶ許可をいただけますか?」

「残念ですが、無理です。王城の敷地内に空間魔法で干渉するためには許可証が必要になります。「識別」のスキルが付与された許可証によってのみ、王城内へ跳ぶことが可能になるのです」


「識別」というのは人と物のステータスを確認するスキルである。

ちなみに「審知」が人だけ、「鑑定」が物だけ。

これらが「○○眼」となると、見ただけでわかり、眼とつかないと触れているモノしかわからないそうだ。


何でも王都を囲む結界の簡易版が王城敷地を取り巻くように設置されているらしい。

物理的な防御力はないが、転移などの空間魔法だけを阻む。

希少とはいえ空間魔法があるこの世界なら必要な処置なのだろう。


しかし、今はその防犯が鬱陶しい。

逃走するにしても、周りの王都民は全て操られているような状態である。

このメンツならば強引に突破するのはもちろん可能であるが、民を無傷でとなると難しい。


やはり空間魔法で跳ぶのが一番だ。

しかし、どこへ?


いや、考えるまでもない。

王都で安全かつ俺が知っている場所など残り一つだ。


「シュレルン公爵家に一度跳びます。よろしいですか?」


フィオナ王女が頷くのを待ち、俺は魔法を発動させる。


ちょうど民たちが動きだし、それぞれの得物を振り上げた瞬間に、魔法が完成した。


一瞬後に俺達は、シュレルン公爵家の敷地内に立っていた。


---


「療養中のところ申し訳ありません、シュレルン公爵」

「構いません。事態が本当であるならば、由々しき事態です」


シュレルン家へと跳んだ俺達は、中へと入り、ひとまずジェームズに話を通す。

話を聞いたジェームズは、すぐに公爵へと渡りをつけてくれた。


公爵は、俺がガイアに戻るのと入れ違いで自宅療養に移っており、ベッドに横になった状態で俺達を出迎えた。

起きようとはしたのだが、フィオナ王女がそのままでよいと言った結果だ。


「して、これからどうするおつもりですかな?」


公爵は、王女に問い掛けているようであり、その実視線は俺に向いている。

王女もそれには気付いており、特に不快とも思っておらず、同じように俺の意見を待っているようである。


「まずは、王城へと侵入します。魅了がどこまで広がっているのか確かめなくては」


俺達のいた辺りの人だけが、操られていたとは思えない。

あの店に入って出るまでの時間であの全員が操れたとは思えないし、そうであるならば俺達が行くまでに魅了が使われていたと判断するべきだろう。


ただし、最初に襲ってきた8人と、後から豹変して見えた王都民たちとでは、完全に洗脳の深度が違っていた。

意識の深層まで洗脳され、言葉を話していた最初の8人。

ただ操られているというだけで、動作も遅かった後の王都民たち。


これらから考えられるのは、最初の8人が最初に操られ、その8人から更に劣化版の魅了が放たれたのではないか、ということ。

そんなことが可能であるのかは知らないが、魅了を使える一人があの人数全てに魅了を使ったと考えるよりはまだマシである。


この推理は、他の皆も受け入れてくれ、俺は更に懸念を発表する。


これだけ大体的に、魅了を使ってきたにしては、やはり今回の襲撃はお粗末なものだった。


魅了で操られているだけの一般人に俺が倒せるとは思えないし、空間魔法も使える俺を捕らえられるとは思っていないはずだ。

ならば何故、あんな行動にでたのか。


それはやはり陽動であり、俺の意識を他から逸らすこと。


ならば敵の狙いは何か。


俺の意識を逸らしておく必要のある場所。

魅了を使える相手が、時間稼ぎが必要となる場所。

魅了を最も効率よく使うためには。


それはもう、一つの答えとなっていた。


「王城に入り、父上を操る…ですか」

「その通りです」


国王を操ることができれば、この国の大抵は思うがままにできる。

例え、それに不信感を抱くものがいたとしても、その者も操ってしまえばいいだけの話であり、不可能だとは言えない。


「ならば私も!」

「ダメです。王城が現在どうなっているかわからない以上、殿下にはここにいてもらいます」

「しかし!」

「あなたはお強い。下手をすれば私よりも強いのかもしれない。しかし、今回の件で必要なのは武力ではありません。あなたは民に力を振るうのを望んでおられないのでしょう?」

「っ!」


悔しそうに唇を噛む王女。

気持ちはわかるが、だからといって連れていくわけにはいかない。

王女まで操られてしまったら目も当てられないし、魅了という攻撃に対して必ず守れるとは言えないのだ。


俺には魅了耐性がある為大丈夫ではあるが、王女にはそんな精神耐性スキルがない。

ここは我慢してもらわねばなるまい。


「エルーシャ、すまないがララを頼む」

「言われるまでもない」


本当ならば、ガイアに戻してやるのが一番確かなのであろうが、できれば今は魔力を温存しておきたい。

スキルのお陰でほぼ無尽蔵に近い魔力を使えるようになったが、ガイアまでの距離を往復するとなると、大量の魔力を使う。

回復には時間がかかるだろう。


「公爵、みんなを少しの間お願いします」

「わかった。気をつけるんだぞ」


公爵家にいれば安全というわけでもない。

しかし、俺と一緒に行動するよりは安全のはずだ。


実際公爵が操られていないかどうかは賭けだったが、敵の手はまだここまで及んでいなかった。

夫人も公爵家にいたし、これから公爵家内に入ろうとする者にはチェックが入るようになる。

どうチェックするのかは知らないが、公爵が大丈夫というのだから大丈夫なのだろう。


王城には、ベンとトマスがいるはずだ。

何もなければいいのだが。


「王城にはドラグニル卿もいます。あの人を操れる者がいるとは到底思えませんがお気を付けください」

「はい」


ゲラルトの忠告に頷く。

あの第一位を操られてしまうと、もうお手上げだ。

今の俺ではどうしても勝てないだろう。


「シュウさん、私に力無いばかりにまたあなたに頼ってしまいます」

「はい?」


えっと、どうしてそういう話になった?


「お頼み申し上げます。どうか父を、この国をお救いください」

「…必ずや」


真剣な目で俺を見る王女に、俺はしっかりと頷いた。

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