第120ページ 平穏を破る者
「あちらにあるお店はとても美味しいデザートがあるんですよ!」
「まぁ!是非食べてみたいです!」
フィオナ王女とララは、歳が近いこともありすぐに意気投合していた。
二人で一番街の人気デザートを食べつくす勢いである。
この二人のどこにあれだけの量のスイーツが入っているのかわからない。
俺はそもそも甘いものが好きではないので、単純に付き添いとなっている。
エルーシャは二人以上に食べていらっしゃる。
「ん?なんだ?」
「いや、なんでも…」
よく食べるな、と見ていると首を傾げて聞いてくる。
本当のことを言うわけにもいかず、首を振って誤魔化す。
しかし、この世界にも普通にあるんだな。
アイスとかケーキ、パフェやクレープまで。
「今の王都の人気デザートは全て、ベンが考えたものなんですよ!」
「ああ、そういうことか…」
あいつ絶対アイデア料とかで大儲けしていやがるな?
まぁ別に盗作だ、なんだと騒ぐ気は無いが。
しかし、よく作り方知ってたな。
「ふぅ、私もう食べれません」
「ふふ、ララ様は小食ですね」
小食!?
この通りの店を制覇しておいてか!?
15件は行ったぞ!?
このお姫様どれだけ食べるんだ…
「ゲラルト、今の時間は?」
「はい、殿下。只今16時を回ったところでございます」
「いい時間ですね」
ゲラルトというのは、初めて出会った時にもいた老齢執事の方だ。
長い顎鬚に、片眼鏡。
燕尾服をビシッと着こなしていらっしゃる。
そして、何より漂う独特の雰囲気。
風景に溶け込むようでありながら、主に話しかけられると途端に存在感を発揮する。
この人も多分ジェームズさんと同類だ。
すなわち、戦う執事。
フィオナ王女の侍女さん方も近衛侍女というやつのようだ。
この王女さんを、こんなに強そうなメンツで囲む意味はあるのか知りたい。
一人で十分な気がするのだが。
王女ともなるとそういうわけにはいかないのだろうな。
「シュウさん、そろそろお帰りになられる時ではないのですか?」
「ああ、そうだな。そろそろ帰るか?」
「はい!本日はありがとうございました」
ララがフィオナ王女に礼をする。
それを、フィオナ王女たちは微笑ましく見ている。
俺が案内するつもりだったが、結局フィオナ王女が案内してくれたようなものだな。
後日礼を言っておかなければ。
俺達は、席を立ち、店を出る。
その時だった。
「ん?」
一瞬。
たった一瞬であったが、景色がぼやける。
気がついた時には、俺達を囲むようにする黒いローブを羽織った8つの人影。
「…何者だ?」
「そろそろご退場願おうか、シュウ・クロバ」
「狙いは俺か!」
ララを庇うように前にでる。
他のみんなも臨戦態勢を整えている。
斬鬼を抜き、エルーシャも剣を抜き放つ。
王女の手に細剣が握られ、ゲラルドが隙なく構える。
近衛侍女たちが短剣を取り出している。
勝負はあっという間だった。
「…なんだったんだ?」
あっという間に全員を無効化した俺達は、そのあまりのあっけなさに何が何だかわからない。
俺一人だろうと負けるはずない程の者たちだった。
本気で俺をどうにかしたいと思っていたとは思えない。
「シュウさん!この方たち…王都の民たちです!」
「何ですって?」
フードを取り、相手を確かめていたフィオナ王女が声を上げる。
俺はハッとして全員のステータスを確認する。
全員に「混乱」と「魅了」の状態異常がかかっていた。




