第119ページ 王都観光
「わぁ!ここが王都なのですね!」
クルリと回って、辺りを見回す少女。
初めての王都に興奮している様子がありありとわかるその光景に、通り行く人々が思わず微笑みを浮かべる。
少女、ララはまだ王都に着いただけだというのに、楽しくて仕方ないといった感じだ。
それを見て、俺とエルーシャは思わず顔を見合わせて苦笑する。
辺境伯へのお願いとは、もちろんララを王都へと連れていく許可だ。
ラッセン辺境伯は、俺のその願いに対し逆に頼むと頭を下げられた。
「妻が死んでから、私は自分のことで手一杯だったんだよ。仕事に没頭することで悲しみを忘れようとした。娘を構ってやることができなかったのだ。父親失格なんだよ」
その場にいる全員が、誰も何も言わず辺境伯の独白を聞いていた。
「それでも、あいつは気丈に私を支えてくれた。自分も辛いはずなのに、そんなところを私には一切見せなかった。私にはもったいない娘だ」
その後、辺境伯がようやく夫人の死と向き合え、ララとの時間を増やしていく。
ララは、それはもう嬉しそうにしていたらしい。
そんなララが、今回の初めて王都に行きたいと我儘を言った。
本当は父親とどこかに行きたいだけなのだろう。
しかし魔族のせいでその旅行さえ行きたいと言えなくなってしまった。
辺境伯はもう当分ガイアを離れられない。
俺は辺境伯の代わりになんてなれないが、それでも沈んでしまったララの気分を少しでも回復できればと思ったんだ。
「私からも礼を言う。あのように楽しそうなお嬢様を見たのは、久しぶりだ」
隣りを歩くエルーシャが言う。
エルーシャは、ララの護衛として付いてきている。
その格好も、いつもの鎧姿であり、遊んだりするつもりはないようだ。
「いや、俺が一緒に王都観光したかっただけだよ」
「ふふ。お前は天邪鬼だな」
「何のことかね?」
「二人とも何をしているんですか!?早く行きましょう!」
「はいはい」
やれやれと二人して首を振り、先を行くララに小走りで追いつく。
今日は一番街で観光だ。
下見した店を周り、今評判のレストランで食事する。
ただ、それだけで夕方にはガイアへと戻るのに、それでもララは楽しそうだ。
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「あら、奇遇ですね。シュウさん」
「…何をなさっているのですか、フィオナ殿下」
俺達が一番街で人気の甘味処へと足を運ぶと、そこには両手にアイスらしき物を持ったこの国の第二王女の姿が。
店の前にどこかで見た馬車が止めてあると思ったらあなただったのか。
「何って…おやつですよ?」
首を傾げる姿は、王女というのにふさわしく可憐であった。
その両手の甘味が更に少女としての可愛さを引き上げる。
しかし、王女なのに街で買い食いとは…
「もちろん頼めば王城まで持ってきてくださいますけど、私は市井で民たちと触れ合いながらの方がいいのです。たまに、私が行くと気を遣ってくださることもあるのですけれどね」
それは初めて出会った時のようなことを言っているのだろう。
確かに、王女が買い物しているところにいきなり現れたらどうしていいかわからなくなるだろう。
「ご紹介はしてくださらないのですか?」
「これは失礼しました。こちら、ラッセン辺境伯のご息女でララシーヌ・フォン・ラッセン様でございます。こちらは、その護衛を務めているエルーシャ・フォン・グラス卿」
ララは、スカートを掴み、貴族令嬢としての礼を。
エルーシャは、胸に手を当て、騎士としての礼を取る。
「まぁ!初めましてお二方。フィオナ・ジェンティーレ・マジェスタ・フォン・アッシュフィールドです。ラッセン辺境伯とグラス魔導師長にはお世話になっています」
その言葉に、エルーシャは驚いたようだ。
自分の姉が宮廷魔導師長だということは言っていないはずなのに知っていたからだろう。
だが、あの王家なら部下の親戚縁者のことくらい知っていてもおかしくはないな。
宮廷魔導師長の妹で、ラッセン辺境伯の下で騎士団長をしているとなればなおさらだ。
「ご一緒してもよろしいですか?」
どういうわけかフィオナ王女がそんなことを言ってくる。
俺がララに視線を向けると、ララはおどおどと頷く。
さっきから一言も発していない。
いきなりの王女登場に驚いているのかもしれないな。




