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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第六章 迫り来る脅威「王都星天会議」編
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第118ページ 辺境の少女

「おう、シュウじゃないか!辺境伯に用事か?まぁ入れよ」


なんだそれ。

友達の家じゃないんだぞ。


辺境伯城に赴いた俺は、顔パスも甚だしく誰にも止められることなく門まで辿り着く。

門番にも止められず、城の扉もなんなく通過し、ただそれでも辺境伯へと遣いは走ったようでいつもの応接室に自分で(・・・)行くように言われる。


いやいや、自由過ぎるだろう。

別に他のところをうろつくつもりもないが、だからと言ってこれはどうなんだ。


俺が頭をひねりながら待っていると、やがて辺境伯がやって来た。

その後ろにはギルバートとマインス。

更に、ララとエルーシャもいる。


「無事だったかシュウ」

「まぁな」


今の俺よりも遥かに疲れて見えるラッセン辺境伯。

その後ろの二人も似たような感じであるし、ララも顔が暗い。

というか何か落ち込んでいるような気がする。


「ガイアの襲撃については、グラハムから聞いてきた」

「そうか…ガイアにグラハムがいてくれて本当によかったと思っているよ。もちろんお前もな、マインス」

「もったいないお言葉です」


マインスは戦う力を所持していない。

それでも、辺境伯の名代として陣頭指揮を執っていたと聞いている。


「街の被害はどんなもんなんだ?」

「問題はない。いや、なさすぎるのが問題か」

「ん?どういうことだ?」


街への被害は、グラハムや騎士団、冒険者たちの尽力により軽微に抑えられた。

しかし、だからこそ今ガイアへの移住希望者が増えているらしい。


この付近、ラッセン辺境伯の領地内だけでなく別の領地からも移住希望が多数あり、その管理で今は大忙しであるそうだ。


また、知っての通り、ガイアの主な収入源は、深淵の森を含む辺境ならではの高ランク魔物たちの素材である。

今回の襲撃に際して、逃げた魔物などもおり、冒険者たちの負傷、街の修善、それらを含めても収支的に最終的にはプラスになるのではないかと思われる。


それもまたよくなかった。

今度は、それを知った他の領地から借金の申し入れなどもあり、北と南の辺境はそんなことないのだが、西の辺境からは人出が欲しいとまで言われている。


しかしもちろん、西の辺境であるガイアから東の辺境まで人を送るとなると莫大なコストがかかる。

それがラッセン辺境伯の頭を悩ませているのだ。


「なぜ東の辺境付近で募集をかけないんだ?」

「東の辺境はほぼ壊滅状態だ。好き好んでそこに行こうと思う奴は、近ければ近いほどいない。その点、うちにいるような冒険者たちは胆力が違うからな。多少の危険があろうと報酬がよければ行くだろう。しかし…」

「報酬を支払う余裕もないから、ラッセン辺境伯からの支援ということにしたい、と」

「そういうことだな」


何とも都合のいい話ではあるが、簡単に断るわけにはいかない。

そんなことをすれば、事実はどうあれラッセン辺境伯が狭量であり、できる支援を行わなかった薄情者だということになる。


王都からも支援は行くはずであるが、今回の件の一番の責任は東の辺境伯が、自身の領地の主だった者をまとめて王都に連れてきてしまった為だ。

あまり大きな支援は求められない。


しかし、同じ辺境伯であるラッセン辺境伯には求めることができるということだろう。

聞けば、北や南にも支援を求むと言っているらしく、何とも厚かましい。


だが、現状東はそれほどまでに逼迫しているとも言える。

独力での回復はまず不可能であろう、と王都でも判断を下していた。


「どうするんだ?」

「どうするもこうするも…送るしかあるまい。神聖教国の件もある」


今回の襲撃により、東の辺境が壊滅状態であることが知られれば、神聖教国がバカなちょっかいをかけてくる可能性もあるということだろう。

東の辺境より更に東には砂漠が広がり、神聖教国との間にはいくつかの国、その中には戦力拡大に力を入れている帝国も存在するが、情報によると、帝国に神聖教国が何かしているという話はない。


理由は不明であるが、神聖教国の目的は、マジェスタ王国だけなのだろう、というのがシュレルン公爵の考えだ。


「あ、あの…」


今まで黙っていたララが恐る恐ると声を上げる。

その声に俺が疑問を感じながらも、そちらに目を向けると、ララは力の無い顔で笑った。


「や、やっぱりいいです!私これで失礼しますね」


そう言ってララは足早に部屋を出ていってしまう。


いつもは付いていくはずのエルーシャも、今回は憂い顔でそれを見ているだけだ。


「ララはどうかしたのですか?」

「ああ…私たちが王都へ行く前、シュウがあいつと約束してくれただろう?会議が終わったら王都へ遊びに行こうと」

「はい」

「だが、このようなことになってしまい、今王都もガイアも観光といった雰囲気ではない。それが自分でもわかっているのだろう。楽しみにしていたようだからな…」

「それだけではなく、お嬢様は襲撃の際、気丈に振舞われていたが、やはり父君であるお館様や、ギルバート卿、そしてお前がいなかったことが影響していたのだろう。そんな中で、王都でも襲撃があったと聞いてしまい、お館様が戻られるまでは部屋で震えておられた。私やマインス卿がいたとしても、怖かったのだろうよ」


エルーシャが補足してくれる。


ララはまだ14歳だ。

夏の襲撃から半年、もう一度の襲撃があり、更にその時には唯一の肉親であるラッセン辺境伯がいなかった。

頼る相手がおらず、それでも辺境伯の娘として気丈に振舞わねばならなかった。


そんな時に、王都でも魔族の襲撃があり、もし父親に何かあったらと思わずにいられなかったのだ。


ララの母親、辺境伯の妻に当たる人は、ララが幼い時に謎の病で死んだそうだ。

感染病かもしれないということもあり、辺境伯とララは愛する人の最期を看取ることもできなかった、と前に聞いたことがある。


結局病の詳細は分からず仕舞い。

だが、その時辺境伯はララに約束したそうだ。

決してララに寂しい想いはさせない、と。


楽しみにしていた王都観光も、こんな時だからと言いだせるような子ではなく、今だって本当は言おうかと思っていたのだろう。

だが、やはり自分から遠慮したのだ。


まだ14歳だというのに、貴族として今やっていいこと、いけないことを、やらなければいけないことをはっきりとわかっている。

だが、それは少し悲しくも感じた。


だから俺は


「辺境伯、少しお願いが」

「?」


俺は辺境伯に一つのお願いをすることにした。

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