第114ページ 半竜vs魔人兵装
遅くなって申し訳ありません。
「ガハハッ!さぁ、続きをしようか!」
言葉と同時に、弾丸のような勢いで飛んでくる魔族の男。
どうにか反応するが、その速さは、竜の化身を発動していなければ目で捉えることすら難しいだろう。
「避けるか!そうでなくてはなぁ!」
魔族は、楽しくてしょうがないと言わんばかりに、笑いながら再度突撃してくる。
先程は不意打ちだったが、今回は割と余裕を持って避け、カウンターに胴を薙ぐ。
ガキンッと音がし、鎧に斬鬼が弾かれた。
「なっ!?」
斬鬼は地竜の鱗でさえも容易に斬り裂いた。
鉄など論じるまでもない。
その斬鬼が、半竜状態であり、さらには相手の速度を利用したカウンターの斬撃をして、斬れなかった。
それは俺にかなりの衝撃をもたらした。
もしこれが斬鬼のように並々ならぬ高度を持つ刀ではなく、ただ切れ味のよいだけの刀であったならば、刀が折れていただろう。
「ガッハハッハ!無駄だ!この魔人兵装はとにかく硬いんだ!」
ガンガンと胸を叩きながら笑う魔族の男。
「だが、それならそれでやりようはある」
今度はこっちから攻める番だ、と俺は魔族に向かって飛ぶ。
それに対し今度は魔族が迎え撃つ構えを見せた。
俺は鎧の隙間を狙って斬鬼を振るう。
四肢と首、一瞬にして五振りするがあえなく鎧に阻まれる。
普通の鎧ならば、確実に通るはずの斬撃であったが、魔人兵装は普通の鎧ではなかった。
「無駄だ!魔人兵装は鎧のような関節などついておらん!これは鎧でありながら鎧でない!そういう意味ではお前のように鱗という感覚に近いかもしれんな!」
…魔族というのはみんなこんなに説明してくれるのだろうか?
「ふぅ。確かに、お前を斬鬼で斬ることはできないようだ」
「ほう?諦めるのか?」
魔族の男の返答には、隠そうともしない失望の色があった。
だが、それに俺はニヤリと笑って答えてやる。
「斬ることはな!」
斬鬼をキーの中に仕舞うと同時に、空を飛び、魔族に近付く。
「むっ!?」
最高速に近い速度であった為に、さすがの魔族も反応が遅れた。
魔人兵装とやらの硬度を信じていたせいもあるのだろう。
「竜の爪撃」
俺の爪が鋭く尖り、完全に竜のそれとなる。
その刃は、速度に乗れば斬鬼以上となる。
「がっ!?」
竜の膂力と合わさり、吹き飛ぶ魔族。
魔人兵装には、腹から肩にかけて三本の爪痕が残されていた。
「おやおや、自慢の鎧とやらも竜の力には敵わなかったと見えるな」
「く、くくく。面白い。そうでなくてはなぁ!」
ドンと音を立て、魔族の男は魔力を更に滾らせる。
常人であるならば、耐えることなど不可能な圧が生まれる。
「名を聞いておこうか」
「シュウ・クロバ。ランクA冒険者だ」
「その強さでランクAだと?ギルドとやらの基準はおかしいようだな!俺はダルバイン・クエーデ!六魔将が一人、メーア・ソトランク様一の配下!お前を殺す男だ」
尚も笑う魔族、ダルバインにこちらも笑ってやる。
「できたらいいな」
どちらからともなく踏み込み、空中で激突する。
いくら竜の鱗と化していても、こちらは生身だ。
当然、痛みは直接受ける。
だが、向こうの鎧とて、硬いだけであり、攻撃を通さないわけではない。
衝撃はきちんと中へと届いているはずだ。
それでも、俺達は純粋な膂力だけで殴り合いを続ける。
このダルバインという男は、魔族にしては珍しく肉弾戦が好きらしい。
俺が魔法を使わないのは、この魔人兵装というものにも、どうやら魔力吸収の機能がついているようだからだ。
魔法を吸収し、自らの力とするのか、それとも相手に向け放つのかはわからないが、どちらにしろ厄介なことには変わりない。
だが、そろそろ決着をつけねばなるまい。
前王の爺さんにすぐに終わらせると言ったのだ。
見る余裕はないが、俺達が飛び出した穴から心配そうに見ているのはわかっている。
本当ならさっさと安全なとこに避難していてもらいたものだが、安全な場所がどこかと聞かれると答えにくい。
ならば、こいつを倒し、この場を安全な場所とするまでだ。
「そろそろ終わりにするぞ!」
「ぐっ、ははぁ!楽しくなってきた所じゃねかよぉ!」
力では向こうが上。
だが、速さではこちらが上だ。
飛べば飛ぶほど速さは増しており、既にダルバインはこちらに攻撃を当てることが難しくなっている。
空中であるということもあり、上下左右を飛び回り、それこそ袋叩き状態であるのだから、当然だ。
むしろ竜の力で殴られながら、まだ原型を保っているのがすごい。
魔人兵装の硬度には呆れるばかりだ。
「いいや、これで終わらせる!」
右拳に力を集中させる。
あの結界は、神剣の助けがなければ破壊できなかったが、こいつは違う。
殴り合ってわかったが、あの結界ほどの強度はない。
竜の力だけでいけるだろう。
「竜の驀進!」
速さで翻弄し、左の拳や脚で攻撃を入れながら、隙を作り、ダルバインの胸に思いっきり右拳を突き込んだ。
「ぐほぉっ!?」
一瞬の停止の後、力を後ろに逃さず全て相手の身体に叩き込んだことにより、ダルバインは吹き飛ばずに、ただ空中での制御を失い落下する。
俺の方も、今ので力がつきたので、ダルバインを追うように下へと降りる。
「はぁっはぁっ…」
「ぐっごっほ…」
「チッ、まだ息があるのか。なんて頑丈さだ」
「がっ、へっ、もう何もできやしねぇよ。すげぇじゃねぇか。久しぶりに楽しかったぜ」
ふらつきながらも立とうとしていたダルバインは、その言葉を最後に背中から倒れた。
しかし、どうやら気を失っただけのようだ。
魔人兵装が解除されていくが、まだ胸が上下している。
まったくなんていう生命力だ。
「ぐっ、はぁあ!疲れた…」
俺も膝をつき、仰向けに倒れる。
目を閉じる前に、駆け寄ってくるベンの姿が見えていた。




