第113ページ シュウの戦い
「お前は何だ?竜人か?いや、違うな。奴らにはそのような姿はなかった」
「俺は人間さ」
「人間?なんだそれは?おかしなことを。だが、俺の前に立ったんだ。敵ってことでいいんだよなぁぁ!?」
言葉と同時に魔族の男が突撃してくる。
俺は、それを迎え討ち、魔族とぶつかるタイミングと合わせタックルしてやった。
半竜状態の俺と、強化魔法のかかっていない魔族。
どちらが勝つかは明白だった。
「ぐはぁっ」
突っ込んできた勢いよりも更に加速し、魔族が吹っ飛ぶ。
ちょうど開いていた扉から廊下に転がりだし、反対側の壁にぶつかるが、それでもなお勢いは止まらず、壁を突き破り屋外へ。
「シュ、シュウ君なのか…?」
後ろから前王が尋ねてくる。
完全には振り向かず、首だけを回し横目で後ろを確認。
シュレルン公爵以外は無事なようだ。
「そうです。このような姿で御前に罷り出た非礼をお詫び申します」
「そ、そんなことはよい!それよりその姿は一体…」
「事情は後ほど。公爵は大丈夫ですか?」
俺が間に合わなくて公爵に何かあったのだとしたら、後を任せてきたベンに後で殺されてしまいそうだ。
あいつは、今世の家族もとても大切に想っている。
「わ、私は大丈夫だ。それより、ベンはっ…」
その答えに、俺は思わず笑ってしまう。
やはり、親子ということなのか。
あいつの親だというと心配をかけられてばかりなのだろう。
同情を禁じ得ない。
「ご安心を。ピンピンしておりましたよ」
そう答えると、安心したように力が抜け、バタリと倒れ伏したまま動かなくなった。
慌てて、宰相と国王が駆け寄る。
どうやら命に別状はなさそうだが、しばらくは安静だろう。
「それでは、私は魔族を片付けて参ります」
「や、やったのではなかったのか!?」
侯爵の一人が甲高い声を上げる。
他の侯爵もだいたい似たような表情をしていた。
恐怖に染まった表情を。
「まだです。ですが、ご安心を。すぐに終わらせます」
後ろからかかる声を無視し、一歩の踏み出しで、先ほど魔族が飛び出た穴から外へと出る。
翼を広げ、眼下へ視線を向けると、目を爛々と輝かせた魔族が飛んでくるところであった。
「あのように吹き飛ばされたのは久しぶりだぞ、人間!」
「そりゃどうも!」
魔族の手にはどこから取り出したのか、赤い矛が握られており、俺も斬鬼を握る。
神剣を使えば、勝負はあっという間につくかもしれないが、あれは力がでかすぎて対個人には向かない。
通常サイズの人型のものと戦うのなら、斬鬼の方が戦い易いのだ。
斬鬼と矛が打ち合う。
こちらは竜の翼を用いて飛び、魔族は魔法で飛んでいるようだが、空中戦であることに変わりなく、上下左右もまるで関係なく斬撃が飛び交う。
先ほどまで上にあった頭が下にあり、蹴りかと思えば拳が飛んでくる。
上下運動を利用し勢いをつけ、上下運動を利用して勢いを殺す。
武器での仕合では勝負がつかないと思える程の互角。
こちらは「竜の化身」を使っているし、向こうは身体強化の魔法も併用している。
魔法を使いっぱなしの分、魔族の方が不利であるかのように思えるが、先ほど一度全力を出したこともあり、俺の体力もあまり余裕があるというわけではない。
「くくっ、面白い。面白いぞ、人間!そうか、お前がスパンティウム様が危惧し、ガイゼンを殺った男か!」
「だったらどうした!」
ガイゼンというのは深淵の森で会ったあの男の名前だ。
特に覚えていたわけではないが、ちょうど会議の資料に名前が出ていた。
トマス辺りが報告していたのだろう。
「ならばまだまだ楽しめそうだということだ!簡単に死ぬんでないぞ!」
「なに!?」
魔族が懐から取り出したのは、何らかの結晶。
どこかで見たような光景に、俺はまた魔人巨兵かと思ったが、違った。
「魔人兵装!」
魔族が叫ぶと同時に、魔族の身体を紫の魔力が包む。
一瞬にして魔族の身体は見えなくなった。
魔力は徐々に硬質感していき、遂には鎧へと変わる。
それは、魔人巨兵が着ていたものと同種のものであった。
「ガハハっ!さぁ、続きをしようか!」
紫色の兜の奥。
両目を赤く光らせながら、魔族の男は笑いを含む声で告げる。
先ほどよりも遥かに大きな魔力を醸し出しながら。




