第12ページ 報告と検証
それからのギルドは大騒ぎだった。
さすがに俺の意見だけで信じることはできないということでギルド長直々に出ると言い始めて副ギルド長に引き止められ、結局なぜか副ギルド長が出るというおかしな状況になり、それをギルド長がずるいと言い始めると言うよくわからない状況。
ちなみに俺は一部始終を見学していたが、グラハムが丸め込まれた長が出ることの必要性やら出た場合このギルドはどうするのかやらの理論が大部分は副ギルド長にも適応されると思うのだが、それを言うことは俺にもグラハムにもできなかった。
ちなみにこの二人、ギルド長は元Sランク冒険者で副ギルド長も元Aランク冒険者であるらしい。かなりの猛者だ。
この二人だけであの軍勢を殲滅できるのではないだろうか。
すぐに副ギルド長のテメロアが数人の冒険者を率いて確認に向かう。
俺が視たポイントはここからだとまだ数日はかかるポイントではあるらしいが待っていることもできないということで騎士団と警備隊、辺境伯にも知らせが走り、ギルドから滞在中の高ランク冒険者への強制招集命令も配布された。
そして俺はというと、なぜか辺境伯の下へと遣いに出された。
ギルド長は他にやることがありすぎて行けず、俺なら面識があり、そのほうが早いということだ。
「冒険者ギルドから遣いできた。ラッセン辺境伯に報告したいことがある。取り次いでくれ」
「なんだと!?いきなり来てはいそうですかと言えるわけないだろう!!」
まぁそうだろうな。
さてどうするか。
「おや?シュウ殿ではありませんか?」
「…マインスか?」
そこにタイミングよく一人の男が現れる。
どうやらどこかに出かけていたらしい。
それにしてもナイスタイミングだ。
「いいところで会った!ギルドからの遣いできた!ラッセン辺境伯に報告しなければいけないことがあるんだ。会わせてくれ!」
「…どうやらただごとではないようですね。わかりました、付いてきてください。聞きましたね?この人は通して構いません。ご苦労」
「はっ!お帰りなさいませ、マインス文官長!」
「…文官長?」
「ええ、私の役職です。気にしなくていいですよ。それより急ぎでは?」
「あ、ああ。頼む」
俺はマインスについて辺境伯城に入る。俺が勝手に呼んでいるだけだが。
待たされたのは昨日と同じ応接室だった。
しばらくしてすぐにラッセン辺境伯とマインス、エルーシャ、そして初めて見る初老の男。
この男、がっちりと高価そうな鎧を着込んでおり一目で騎士とわかる。
確かエルーシャが第三騎士隊隊長だったから、おそらくは第一か第二の隊長だろう。醸し出す雰囲気が圧倒的だ。この人の前だと萎縮して話せなくなってしまう者もいるのではないだろうか。
「よく来た、シュウ。早速だが報告というのは?」
「ああ。深淵の森よりこちらに向かって魔物の軍勢が押し寄せてきている。その数およそ千」
息を飲む声が聞こえた。
いやこの場合は顔色を一切変えなかったマインスがおかしいのかもしれないが。
「それは本当か?」
「この眼で視たからな。まぁスキルで視たから信じられないというのもわかるのだが、嘘はない」
それから俺はもう一度ネレル森林からギルドでのやり取りを話した。
その間マインスはずっと顔を崩さなかった。
こいつを驚かせるのはなかなか難しそうだ。もっとも俺は昨日達成しているけどな。
「話はわかった。マインス、クレインとギルドに連絡を取り連携しろ。ギルバート、騎士隊を集め戦の準備だ。指揮を任せる。エルーシャ、城を開放し非常警報を発令しろ民を迎え入れる準備もだ」
「「「はっ!」」」
3人は慌ただしく出て行く。
その指示は的確で素早い。さすがは辺境を預かるトップといったところだろう。
だがしかし
「いいのか?そんな簡単に信じて」
「ん?言わなかったか?マインスは嘘か真実かがわかる。あいつが何も言わなかったということは本当だってことさ。それにお前がそんな嘘をつく理由もないしな」
「なるほど、確かにな」
「お前のおかげで危機にいち早く気づくことができた。ガイアの街の領主として礼を言う」
「いや、それはこの危機を乗り越えてからにしてくれ。これからが本番だろ?」
「…ああ、そうだな。しかしお前も災難だな。いきなり異世界へと飛ばされた次の日にはもうこんなことに巻き込まれるとは」
「あーそりゃ確かに」
あるいはだからこそこのタイミングで飛ばされたのか。
いや、考えすぎか?
今やるべきことは他にたくさんある。
「辺境伯、一つ頼みがある」
「なんだ?言うだけ言ってみろ」
---
「水よ、穿て〈ウォーターランス〉!」
「風よ、奔れ〈ウィンドアロー〉!」
「大地よ、貫け〈アースニードル〉!」
「氷よ、砕け〈アイスショック〉!」
俺は辺境伯に願い出て属性魔法が使える魔法師に魔法を見せてもらっている。
残念ながら闇属性の魔法を使えるものは今いないらしい。
基本属性のうち氷、光、闇は現れにくいらしく10人中1人いればいいほうだそうだ。
もっとも希少属性になると100人に1人もいないそうだが。
驚いたのはエルーシャの属性が氷だったこと。
今氷属性を使えるのはエルーシャしかおらず、無理を言って見せてもらった。
「まったく。忙しいというのにこれなんの意味があるのだ?」
「まぁあとのお楽しみってところで。俺の予想が正しければこれで大きな戦力の引き上げになる。俺のな」
そう言って笑ってやると少し驚いた顔をしたが、呆れたという風に首を振ると騎士の一人に呼ばれて出て行った。
本当に忙しい中来てくれたんだろう。感謝だな。
ステータスカードを見てきちんと刻まれていることを確認し、俺は集まってくれた魔法師に礼を言う。
俺は辺境伯城をあとにすると急いで図書館に向かった。
近いうちに行こうとは思っていたので図書館の場所はわかっている。
そこで俺は魔法に関する本を探し、お目当ての物を見つけた。
「やっぱりか」
魔法の基礎と題されているその本。
そこには色々な呪文や属性について、それぞれの相性が書かれていたが俺が知りたかったことは最後のページに書かれていた。
すなわち
『魔法とは己の魔力を糧にし生み出すものである。必要なものは信じる力。
呪文や陣、媒介はあくまで補助にすぎず、大切なものは想像力。どんな魔法を生み出すかは使い手次第である』
疑問に思っていたことがある。
俺がララの魔法を視た後、スキルの項目には光属性魔法と記載されていた。
だが、俺が視たのは〈ヒール〉の呪文だけ。確かに〈ヒール〉は使えるようになったのだろうが、それだけで光属性魔法と呼べるだろうか。
俺は他の魔法の呪文を知らないのだから使うことはできないのだ。
「完全なる完結」で呪文がわかるのだろうかと思ったがそんなこともない。
となると可能性は一つだけ。
そもそも呪文が不要であるということだ。
〈ヒール〉を視たことにより光属性魔法の発動プロセスを理解した俺の身体は既に光属性魔法を発動できた。
しかし、呪文がいると思い込んでいたためにしなかったのだ。
必要なのは信じる力。大切なのは想像力。
俺は目を閉じ、頭に思い浮かべる。
自分の手のひらの上にピンポン玉ほどの大きさの光の玉を。
イメージし、魔力を流す。
目を開けると確かな光源が、そこに生まれていた。
黒葉周 17歳 男
冒険者ランク:G
HP:10000
MP:5000
魔法属性:全
<スキル>
体術、剣術、槍術、棒術、弓術
火属性魔法、光属性魔法、水属性魔法(new)、風属性魔法(new)、土属性魔法(new)、氷属性魔法(new)
馬術
<ユニークスキル>
天衣模倣、完全なる完結、全知眼
<称号>
「知を盗む者」、「異世界からの来訪者」、「極致に至る者」、「武を極めし者」、「すべてを視る者」
<加護>