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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第六章 迫り来る脅威「王都星天会議」編
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第108ページ 戦闘開始

「じゃあ、行こうかシュウ」

「ん?行くのはいいんだが、なんで魔法で飛ばないんだ?」


正式に依頼を受けた俺は、ベンと同じ仕事を受けていた。

とりあえずは門の外、魔人巨兵の下に行かねばならない。


てっきり俺は、門の外まで空間魔法で飛ぶのかと思ったが、ベンは歩いて部屋を出ていく。

空間魔法をここで使えない理由でもあるのか、もしくは使えないのか。


「王城の中は、基本的に魔法の使用禁止だよ。まぁ緊急時は別だけど。今回の場合は、結界が張られているからね。あの結界は空間系の魔法や、通信用魔道具なんかも無効化するんだよ。王都は今や陸の孤島だね」


そう言って冗談めかしに笑うベン。

なるほど、この世界には魔法が存在するため物理的な結界だけを築いても無駄だというわけか。


俺はそこで、何かが引っかかった気がした。

だが、このときは、それを深く考えはしなかった。


---


「さて、どうするかねーアステール?」

「クル?」


現在王都内には人影が見えない。

王都に住んでいる人は自分の家や、職場に、それ以外の人は避難場所に指定されている建物に入っているからだ。


その為、俺は街中でありながらアステールに乗って移動している。

空中からだと速いのだが、結界から出るには地上を行く必要があるのだ。


「どうするもこうするも…やるしかないよねぇ」

「だが、あのオーバンという奴の一撃でも全く問題なさそうだったぞ?」

「あれ本気でやってないからね。ほら」


ベンが示す通り、もう一度轟音が響いたかと思うと、魔人巨兵の一体が倒れた。

今度は、頭部が完全に粉砕されている。


「20体いるからねー。俺たち七人と、シュウ、そんでグラス魔導師長の9人。一人二体でいいんじゃない?余りは好きにってことで」


七星剣は、国王命により、四方に散ってそれぞれ別の個体を倒すことになっていた。

それに俺とグラス魔導師長も参加することになっている。

計算によればこれで問題はないはずだ。


ないはずなのだが、何かがひっかかる。


例えばタイミングだ。


星天会議が行われることは別段秘密でもない。

しかし、だからこそ星天会議で王都に戦力が集中しているときに狙ってくるのはおかしいというのが、王国トップメンバーの一致した考えであった。


自分たちの種族が一番だと考えている魔族ならそんなこと気にしないという可能性もあるが、既に俺が幹部クラスを一人殺し、未完成品だったとはいえ魔人巨兵も破壊されている。

さすがにそんな楽観的な思考で行動はしないだろう。


だがとにかく、今はあの魔人巨兵をどうにかするしかない。

出る前に上がっていた報告では、魔人巨兵の力が思ったより強く結界の消耗が激しい。

強度的には問題ないが、このままでは備蓄している魔石を利用しても近いうちに魔力が尽きる恐れがでてきたそうだ。


魔人巨兵20体を破壊するのが急務なのである。


---


「ガッハッハ!久しぶりに面白そうな相手だ!あの冒険者も面白そうではあったがな!本気で行くぜぇ!」


背に提げた人の身の丈ほどもありそうな大戦斧を片手で振り回し、男は吼える。

男、七星剣第五位ビクターは目の前に迫りくる魔人巨兵を見上げながら、どうやってこいつを倒すか頭を巡らせる。


その時、背後から轟音が鳴り響いた。

それはオーバンが向かった方角だ。


その後、もう一度響き渡る何かが倒れる音。

それはオーバンが既に一体仕留めたことを意味していた。


「はっ!負けてられねぇなぁ!ごちゃごちゃ考えるのはもう止めだ!いくぜぇ!」


大戦斧を振り回しながら走るビクター。

その瞳に恐怖は微塵もなく、あるのはただ強者と戦えることに対する喜びだけだった。


---


「まったく、この老骨には荷が重いのではないか」


大剣を肩に担ぎ、街を囲む外壁の上から魔人巨兵を眺めやるギルバート。


老骨という割に、ここまで走ってきたギルバートは少しの間で息を整え、己の空気を一変させた。


もし周囲に誰かいれば、ギルバートの周辺から急に温度が上がったことに気づいただろう。

だが幸いにして、既に避難はなされ、ここにいるのはギルバート一人であった。


魔人巨兵討伐にあたる9人以外は、騎士や衛兵であっても一般人の避難誘導が終わった時点で、退避している。


それは、9人の実力を全員が知っているからであり、任せても問題ないという信頼と、あの化物達と魔人巨兵との戦闘に巻き込まれては堪らないという思いからだった。


「任されたからには、身を粉にして主らを塵としてくれる」


大剣を構え、鋭い眼光で敵を見据える歴戦の猛者がそこにいた。


---


「魔族のみに起動できる特大の転移魔法陣とは厄介ですね。しかし、王国の魔法師たちに気付かれず、そんなものを用意できるのでしょうか?」


マジェスタ王国第二王女にして、七星剣第二位フィオナは、普段の優しい表情とは打って変わって王都に迫り来る脅威を見ていた。


その傍には、フィオナ王女の従魔である美しい獣が伏せている。

白銀の体毛を持つその大きな狼は、魔人巨兵などまるで意に介した様子はなく、ただただ退屈そうにしている。


それを横目で見やって、フィオナは思わず苦笑いを浮かべる。

やる時はやってくれるのだが、大抵の場合自分の相棒は適当にあしらうだけだ。

格上相手の戦闘でないと一切やる気をみせてくれない。


「まったく。貴方が本気で力を振るってくれれば私も楽ですのに」


言葉とは裏腹に、フィオナの顔には笑みが浮かぶ。

それは、自分の手で自国の民を守れるという喜び。


こういう時のために力を身につけていたというのに、第二王女という立場からなかなか前線には立てなかった。


国王の心配も、反対も押し切って魔族大陸との境界線で、陣頭指揮を執る同腹の姉を内心羨んでいたのだ。


「マジェスタ王国第二王女フィオナ・ジェンティーレ・マジェスタ・フォン・アッシュフォード。参ります!」


フィオナの手にいつの間にか握られていた細剣が輝き出す。

一人の王女が望んでいた舞台は整い、王女がその身に培った力を存分に振るう時はきた。


---


「んーどうやって倒すかなー」

『前と同じ感じでいいんじゃねぇかー?』


独り言のつもりで呟いた言葉に、返答があってベンは驚いてそちらを見る。

そこには羽を広げてこちらに向かって降りてくる一羽の青い鳥の姿があった。


「スカイ!帰ってきてたの?」

『王都に結界が貼られる寸前に滑り込んだぜ。あれがお前の言ってた魔人巨兵か?』

「完成品みたいだね」


左手を挙げて、青い鳥、自分のというか公爵家の従魔であるスカイをそこに停まらせる。


スカイは、魔物名を「ブルースピーダー」と言い、戦闘能力はないが、飛ぶ速さは追いつける者なしと言われている魔物だ。


どうしてか人語を話すことのできるスカイを、公爵家は重宝しており、ベンも時々お使いを頼むことがある。


今も神聖教国から帰ってきたばかりのはずだ。


「教国の様子はどうだった?」

『よくないな。まぁ詳しくは後で話すさ。さっさと倒してしまえ次男坊』

「はいはい。じゃやりましょうかね!」


腰に差す神剣を抜く。

この剣は、巨人を殺すために精霊王から賜った物だった。

前回何もしなかったから、今回は働こうと、想像通り駆り出された友人を思いながら口の端に笑みを浮かべる。


「シュウに負けないように頑張ろう!」


前に会った時より更に力を付けていた友人。

それを頼もしく思いながらも、どこかで負けたと思っている自分がいる。


ただ今は、同じ目的で剣を振れることに嬉しく思うだけだった。


---


命令を下された9人のうち、唯一深刻そうな顔をしている男がいた。

七星剣第三位、雷霆のローレンスと呼ばれる男だ。


ローレンスは、今まさに結界を壊そうと殴りかかっている魔人巨兵を見て、重い溜息を吐く。


「ふぅ。なんという間の悪いことをしてくれるんだ魔族というやつは。今日はステフとデートの予定だったというのに。ステフは怒らせると怖いんだ」


……ローレンスにとって、王都の安全や、魔族の暗躍などまるで問題ではなく、問題なのはこの騒ぎによって中止となってしまうデート。

それによって怒るかもしれない女性のことだった。


「よし!早く片付けようではないか!私を待っているステフの為に!」


前述したように既に一般人、一般兵は下げられている。

故に誰も、この男にツッコミを入れるものはいなかった。


---


「大きいですね」


空中に立ち、冷静に呟く一人の女性。

魔導師長ポラリス・フォン・グラス。


正確に言えば、立っているのではなく、魔法によって浮いている状態ではあるのだが、一切揺らぎもしないその姿は立っていると表現するのが一番いい。


「魔族の方々がせっかく成功品のサンプルをプレゼントしてくれたのです。有難く受け取りましょう」


ここにも一人、常人とは違う見方で今回の騒動を見ている者がいた。


彼女にとって目の前の魔人巨兵は研究用サンプルでしかなく、それ以上でも以下でもない。


「では、時間もないようですので」


左手に持つ銀の長杖。

先端に嵌った青色の魔石が輝き、周囲を極寒の世界へと変えていく。


---


「思った以上に硬い。もっと気を練らねば消耗が大きくなるな」


他の者よりいち早く駆けつけ、早々に一体を倒したオーバンは、思っていた程楽に倒したわけではなかった。


オーバンの戦いは魔力でなく気力を用いたものであり、魔力とは違って誰でも持っているが誰もが使えるわけではない。


オーバンはその気力を用いた格闘術の達人であったが、そもそもオーバンの格闘術は対人戦を想定しており、魔人巨兵に対抗できるような大技は少ない。


やれないということはないのが、七星剣たる理由である。


七星剣に冒険者ランクを当てはめた場合、全員がSSランク以上の実力がある。


Sランクは人が努力すれば到達できる地点。

SSランクは、限られた天才が努力を重ねることで到達できる人の限界点と言われている。


この魔人巨兵は、魔物としてのランクでSもしくはSSランクの力があるだろう。

戦えないことはないが、その巨大さ、硬さからオーバンとの相性は最悪に近かった。

戦い方を工夫しないと苦戦は必至であった。


「行くぞ」


それでも、武人として退く気はなかった。


---


そして、七星剣の中で唯一。

人を辞めた者たちと言われる、SSSランク相当の実力者。


第一位アレキサンダー・テムエ・ドラグニルは、今まで被っていたフードを取り、魔人巨兵を見ていた。


その顔には笑みが浮かんでおり、この状況を楽しんでいるかのようである。


「舐められたものだな」


もしも常人が聞けば、声だけで戦慄してしまう程の圧。

銀色の長髪を後ろで無造作に括り、翡翠色の瞳が敵を射抜く。


否、アレキサンダーにとって魔人巨兵は、敵と呼ぶに値しない存在であった。


どれだけの力を持っていようと、造られた存在など取るに足らぬと、生まれながらにして強大な力を持っていた男は、自分の進む道を塞ぐ岩程度の認識でその巨大なモノを見ていた。


既に心はここになく、気になるのは会議で会ったあの冒険者。


まだ自分より弱い。

弱いが、いずれ自分にも匹敵し、あるいは凌駕するかもしれないと初めて思った者。


あの者との邂逅で、昂ぶっていた感情に冷水をかけられた気分であった。


故に、今から起こることは彼のただの八つ当たりである。

戦闘ではなく、ただ彼がその力のまま蹂躙するのみ。


彼にとってそれは、いつものことであった。


---


9人の化物と20体の兵器。

その衝突が今始まる。

だがそれは、果たして戦闘と呼べるのかどうかは誰にもわからない。

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