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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第六章 迫り来る脅威「王都星天会議」編
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第101ページ 美少女と害悪

「そういえばニコラスさんに連絡したんだけどね」


一番街の散策を終え、少し高かったが味が確かな店で昼食を摂ってから、俺は公爵家へと戻った。

アステールにも、高級な魔物の肉を買ってやったので今日は一日ご機嫌であった。


戻った俺は、許可を貰ってから公爵家の庭園や、屋敷の写真を撮ったりして過ごしていると、仕事を終えて帰ってきたベンと遭遇。

屋敷の中庭にある四阿で貴族らしいティータイムとなった。

給仕をしてくれるのはトマスだ。


「ニコラスっていうと…ああ、あの錬金術師とかいう?」

「そうそう」


話しているうちにベンが俺と同じ異世界人だという錬金術師の話を出す。

クロの件で連絡を取ってくれたのだろう。


「どうだった?」

「なんか今は忙しいんだってさぁ。自分は行けないけど、手段はあるから送るって言ってた」

「送る?」

「そうそう。詳しいことは聞いてないんだけど、迷宮との契約を上塗りするように契約を組むとかなんとか?」

「ふーん?」


よくわからないが、それでクロが自由になれるのだろうか?

結局契約しているじゃないか。

大丈夫なんだろうか?


「あの人が大丈夫って言うなら大丈夫とは思うけど…あの人だからこそ心配っていうのもあるね…」


苦笑するベンを見ているとこっちまで心配になってくる。

会議が終わってガイアに戻ったら一度あの迷宮に行ってクロの様子を見るのもいいかもしれない。

もしかしたら全部終わった後かもしれないが。


---


「ところで今日こんなことがあったんだが」


俺は昼に魔道具店で見た光景を話す。

話しているうちにどんどんベンの顔が苦々しくなっていった。


「それは多分、モールド伯爵家のご子息、パウロ・フォン・モールドだろうね。モールド伯爵は子供がなかなかできなくてね、遅くに生まれた一人息子をそれはもうかわいがって育てたんだ。そうしたら…」

「なるほど。かわいがりすぎて我儘なお坊ちゃまになったわけか」

「うん…」


関わらなくて正解だったな。

もし足を止めて振り向いていたらどうなっていたことやら。


「伯爵はいい人なんだけど、息子にはどうも甘くてね。一部貴族からは反感を買ってしまっているよ」

「大変なんだな」


その伯爵に同情の余地はない。

自分が息子を甘やかせたせいだ。


だがそれでもアレを見てしまうとどうにも…


「それに伯爵は入り婿なんだ。モールド家の長女だった今のモールド伯爵夫人と結婚してね。伯爵夫人は伯爵以上に息子を可愛がっているそうだよ。そのお蔭で一時期伯爵家の財政はかなり厳しい状況になってたみたいだけど」

「よく知ってるな」

「貴族社会では情報が命だし、うちの母さんは社交界が好きなんだ。毎日のように噂を仕入れてくるよ。その噂を父さんやジェームズが裏付けしたりしててね。そういう話には事欠かないよ」


一家揃って優秀な諜報家ということなのか。

恐ろしい家族だな。


「わかっていると思うけどあまり関わらない方がいいよ。シュウにはラッセン辺境伯とシュレルン公爵家が後ろ盾としてあるって情報は流しているけど、多分あの人はそんなこと知りもしないし、知ったところで冒険者相手に踏みとどまるとは思えない」

「わかっているさ。そんなめんどくさそうな相手は全力で回避したい」


これがフラグであったことを、俺はこの時気づかなかった。

気づいていたところで何か手があったかと言われると首を傾げるばかりだ。


---


翌日。

今日も俺はアステールと連れ立って、王都の散策へと赴いていた。


聞けば、会議参加予定の者でまだ王都入りを果たしていない者はあと二名で、その二人は一緒に来るはずであり、日数から考えて今日か明日には到着するのではないかということだ。

つまり、会議の開始が近いということであり、自由に時間が取れるのもあと僅かということになる。


会議までにできるだけ王都を回って、せめてどこにどんな店があるかくらいは頭に入れておきたい。

なぜなら会議が終わり、辺境伯をガイアに送ったらまた戻ってきてララと王都観光をしないといけないからだ。


どうせなら楽しませてやりたいし、そうであるなら時間を効率よく使えるように準備しておかなければならない。


「女の子だしな。やっぱり服屋とかに行きたいものなんだろうか?」


というわけで俺は、一番街にある人気洋服店というものに来ていた。

中には入らないが、この世界では珍しくというか、初めて見るガラス張りの店であり外からでも中の様子がわかる。


人気洋服店というのは語弊があったようだ。

大人気洋服店だな、あれは。


ガラス張りでなくても中の様子はわかっただろう。

なぜなら店から人が溢れてしまっている。


貴族の子女だけでもかなりの人数がいるのに、そのお付の侍女が複数おり、店に入りきらなくなっている。

店の前には荷物持ちなのであろう下男が待機している有様だ。


これは入れない。

入れたとしても入らないとは思うが、あの中は戦争状態だ。


俺が遠目に眺めていると、喧噪としていた店の回りが何やら静かになっていく。

人々が見ている方を見ると、そちらから一台の馬車がやってくるところだった。


交差する剣と、その周囲に七つの星が輝いている紋章。

それは、この国の王家のみが使うことを許される家紋であるはずだ。


つまりあの中にいるのは王族の誰かだということになる。


店の前で馬車が止まり、一人の少女が降りてくる。

少女といっても、俺より少し年下くらいであろうか?

15、16歳くらいであるように見える。


プラチナブロンドの髪を左右に結い、若干カールさせている。

一目で高級品だといわかる薄水色のプリンセスラインドレスを身にまとい、優雅に馬車を降りる姿に、店の客やその付き人からほぅと息が漏れる。


綺麗な顔をしているが、まだどこか幼さが残るその容姿に俺も目を奪われていた。

その様子は一種の芸術と言ってもいいのではないだろうか。


「こんにちは、皆さん。お邪魔したようで申し訳ありません」

「いいえ!殿下が謝るようなことではございません!」

「そうですとも!」

「さぁ殿下、中にどうぞ」

「そうですわ。殿下が我々のことを気に掛ける必要はありません。ここにいる誰も殿下より自分を優先させたりいたしませんわ」


少し困ったような顔で頭を下げる少女に客たちは慌てた様子で否定し、道を開ける。

それに対して更に困った顔をしたが、自分が何を言ってもしょうがないと感じたのか素直に店の中へと入っていく。

そのあとを、王宮で高度な教育を受けたのであろう侍女が二人続く。


その様子を、ある者は恭しく、ある者は微笑ましく、ある者はうっとりとして見ている。

そこに買い物を邪魔されたと思っている者は一人もおらず、殿下と呼ばれた少女が国民より慕われていることがわかる。


そんな中、俺が注目していたのは別のことだった。

それを注視して見ていると、ふと視線を感じる。


そちらを見ると、馬車の御者をしていた初老の執事が、こちらを見ていた。

目が合うと、執事は朗らかに微笑み会釈をしてくる。

よくわからなかったが、俺も会釈をする。


俺が次はどこに行こうかと頭の中の地図を見ていると、あまり時間をかけたら悪いと思ったのか、お姫様がすぐに店から出てきた。

ただ、顔は非常に満足気であり、後ろの侍女が持っている袋を見ればわかるようにいい買い物ができたようだ。


「どけ女たち!余が通るぞ!」


と、そんな微笑ましい光景に水を差す無粋な声。

それは、昨日聞いたばかりの声で、できればもう二度と聞きたくなかった声だ。


その声に店にいた貴族子女ばかりかその侍女、下男までが嫌な顔になる。

当然、俺もだ。

顔色を変えないのはお姫様一行くらいか。


案の定、女性たちを押しのけ現れたのは、見たくなかったガマガエルのような男。

整った顔立ちをしている女性たちに交じり、一人醜いと余計に醜い気がする。

鳥肌が立ってしまった。


「おい!そこのお前!昨日はよくも余を無視してくれたな!」


おっと、用があるのは俺にだったようだ。

そのままずかずかと俺に近づいてくる。

はて、何故俺がここにいるとわかったのか。


「クルゥ」


ああ、アステールか。

アステールはそれほど大きいわけではないが、それでも首を伸ばせば俺の頭よりも高い位置に頭がくる。

遠目でもわかりやすいことはそうであろう。


まったくめんどうなことだ。

さっさと移動すればよかったが、面と向かって指を指され、俺もそれを確認してしまっている。

昨日のように無視するわけにはいかない。


「昨日?はて、何のことでしたか」


一応とぼけておくことにする。

だが、それは悪手だったようだ。

ガマガエルがどんどん赤くなっていく。


「バカにしおって!!まぁよい!お前!そのペンダントは収納の魔道具であろう!余に寄越せ!」

「…は?」


思わず素で聞き返してしまった。

いや、意味がわからない。

それにガマガエルはまたプルプルと頭を震わせて、醜く唾を散らし喚きたてる。


「余に寄越せと言っておるのだ!このパウロ・フォン・モールドに献上できること誇りに思うがいい!」


何を言っているのだ、このガマガエルは?

斬ってもいいのだろうか?


そう思っていると、ガマガエルは更にバカなことを言い始める。


「ふむ。お前のその鎧、そしてそっちの黒いのもなかなか良いものであるようだ。それも置いて行け」


その一言で、俺の回りの雰囲気は一転した。

黒いの呼ばわりされたアステールが剣呑に喉を鳴らす。

俺の腰に斬鬼が召喚され、俺の手には一振りのダガーが握られる。


実はこのナイフも、アタミ伯爵から貰った魔道具(マジックアイテム)だ。


―・―・―・―・―・―


魔道具(マジックアイテム)】インビジブル・ダガー

品質A、レア度6、魔工匠ジュウゾウ・アタミの作。

ファントムストーカーの骨で作られたボーンダガー。

魔力を流すことで、刃が透明化する。


―・―・―・―・―・―


このガマガエルは害にしかならない。

この世界の為に斬るしかないな、と俺は決意する。


自分の命があと少しで終わるとも知らず、ガマガエルは醜く笑っている。

もはやガマガエルに対して申し訳なくなってくる。

あれはあれでかわいげがあったりもするのだ。


ただ、目の前の醜男は俺の変化に気づかなかったようだが、遠目で見ている者にはわかったようだ。

一歩退く者や、顔を青ざめさせる者、ここから離れようとする者など。


そんな中、こちらに近づいてくる一人。


「横から失礼致します。お話は聞こえておりましたが、横暴ではございませぬか?」


それは先ほどまでこの場で視線を独り占めしていた少女であった。


長くなってしまったので2つに分けます。

え?これでもいつも以上に長い?

なかなか切れなくて…笑

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