第11ページ 暗雲
ギルドに戻った俺をレイラが苦笑しながら迎える。
「おかえりなさい、シュウさん」
「ああ。どうかしたか?」
「シュウさんが『オーガの角』を戦闘不能にしたあと大変だったんですよ?」
「『オーガの角』?ああ、あいつらか」
聞けばあのバカたちはあれでもランクDパーティーだったらしく奴らを倒した俺は何者なんだとギルドが大騒ぎだったらしい。
何よりもあの程度の奴らがランクDだったというのが驚きだ。
「それは大変だったな」
「もぉ人ごとみたいに!…あれ?シュウさんこそ何かありましたか?」
たった二日の付き合いなのによくわかるもんだ。
「その話はあとでな。とりあえずはこれを頼む」
俺はバッグごと薬草を渡すとレイラの笑顔が引きつった。
「これは…たくさん採ってきましたね…しょ、少々お待ちください。ちょっと手を貸してくれる!」
レイラは周囲にいたギルド職員に声をかけ査定を手伝ってもらう。
3人がかりでやってすぐに査定結果はでた。
「お待たせしました。査定の結果すべて高品質品との判断でそれが計312枚となります。一枚を銅貨1枚として合計で金貨3枚銀貨1枚銅貨2枚となります」
「…意外と高いな」
「え、ええ。私どもとしましてもここまでの高品質品をこれだけの量どうやったら集められるのか興味がつきません。また、この金額は薬草の買取金額とだけでして報酬は更に銀貨5枚となります」
「大盤振る舞いだな」
「確かめてはいませんが薬草採取の報酬としては過去最高かと」
レイラは笑ってはいるがその笑顔にはどこか疲れが見える。
俺は報酬を受け取り、遺体から回収したギルドカードを渡す。
「…これは?」
「ネレル森林で死んでいた冒険者のものだ」
「!?…詳しく話していただけますか?」
俺は森林で起きたことをできるだけ詳しく説明する。
ゴブリンが3体いたこと。
若者が死んでいたこと。
その3体はすでに仕留めたこと。
討伐証明部位を証拠として提示する。
「そんな…ネレル森林にゴブリンがいたなんて……話はわかりました。すみませんが、少しお待ちいただいてよろしいですか?もしかすると話はそれだけでは済まなくなるかもしれません」
「わかった」
俺は素直に頷きギルドの隅にある椅子に座り待つ。
「シュウさん、ギルド長がお話を聞きたいそうです。お時間いただけますか?」
少しして戻ってきたレイラからの言葉に俺は無言で頷き立ち上がる。
やってきたのは前と同じギルド長の部屋だ。
入るとグラハムともう一人30代から40代くらいで赤髪のメガネをかけた女性がいた。
「来たか、早速だが話を聞かせてくれ。ああ、こっちはうちの副ギルド長だ」
「テメロアと申します。以後お見知りおきを」
「シュウだ。話と言ってもあまり話せることはないのだが」
俺はレイラにした話をもう一度する。
話を聞き終えた二人は難しい顔をして考え込んでしまった。
「…と、すまん。事がことなんでな。お前さんの話を聞くかぎりやはりそれでは終わりそうにない」
「と言うと?」
「ゴブリンが集団で行動することは珍しいことではありません。ですが、ネレル森林に魔物は生息していないはず。となるとどこかから流れてきたとしか考えられないのですが、ネレル森林を越えた先には深淵の森しかありません。更に深淵の森からは滅多に魔物が出てきません。出てきたとしてもネレル森林まで来ることはないのです。あそこは魔物にとって好ましい環境が整っていますから、わざわざ出る必要がないのですよ」
なるほど。今回の事件は何かがおかしいと言うわけか。
だが、そうなるとゴブリンがあそこにいた理由は…
「深淵の森に何かしらの異変があったとしか思えん。こんなことは過去にも例がない。すぐに調査隊を派遣しなければならんだろうな」
「かしこまりました。人選はいかがいたしましょう?」
「・・・今この街にいる冒険者で適していると思われるのは誰だ?」
「難しいですね。高ランクの冒険者は何人かいますが、調査に優れているかと言われると…」
「俺が行こうか?」
「お前が?何か手があるのか?」
俺はユニークスキルの「全知眼」の情報だけを開示し二人に見せる。
ギルド長は俺の事情をある程度知っているし、副ギルド長も特に問題はなさそうだと判断したからだ。
「これは…なるほど…このスキルがあれば確かになんとかなりそうではあるが…」
「しかし、これでしたらここからでも見ることができるのではないですか?」
「「あ」」
自分のスキルなのに他人から指摘されるとは情けない。
いやまだ使ったことないスキルだったし。
俺は一度目を閉じてから「全知眼」のスキルを発動。
その中でも「千里眼」のスキルを用い北を覗く。
この「千里眼」のスキルは見たいと思ったところの風景を見ることができるようだが、どこらへんというのがわからないためまずネレル森林を俯瞰できる位置に視点を置く。
そこからまるで鳥の視点になったかのように北へと視点を移動させていくと。
「これは!?」
「どうした?」
見えたのは千にも届くかという魔物の軍勢が今まさにこのガイアの街へと向かってきているところだった。




