裏話 暗躍せし魔人
「うふふ。面白い子に会ったなぁ。あーあ!でも、蜂蜜のお菓子食べたかったなぁ」
「お前はいつも食い物のことばかりだな」
とある崖の淵。
足だけをプラプラと振っていた少女、グニトラの背後から、壮年の男が歩いてくる。
男が近づいてくるのをわかっていたグニトラは、ゆっくりと振り向き、ヒラヒラと笑顔で手を振る。
「はぁい、ラドイプ!お久しぶりね☆」
「そうだな」
ラドイプと呼ばれた男は、グニトラと同じくピンク色の髪をし、オールバックにまとめた短髪。
引き締まった体格は、白い肌を虚弱と見せない。
「ヴィーが裏切った」
「…へー?」
一瞬だけ驚いたように目を丸くしたが、グニトラはすぐに笑顔を取り戻す。
だが、その笑顔は今までのものとは違い、邪気を含んでいた。
「あいつは昔からどこか変だったもんねー」
「そうだな」
「これで私たちは4人になっちゃったのねー」
「ウロスは動くまい。実質3人だ」
「トーラスは?」
「魔大陸だな」
「なるほど…」
ここにはいないもう一人の仲間を思い浮かべる。
自分の姉のように思っている彼女は、今この世界でも危険地帯といわれる魔大陸にいるそうだ。
彼女の実力からして心配はいらないとは思うが、手伝いに行ったほうがいいだろうか?
いや、自分が行くと邪魔になりそうだ。
「あなたはこれからどうするの?」
「私はもう少しこの大陸にいる。火種はいろいろと転がっていそうだ。お前はどうする?」
「そうねーなら私は獣大陸に行ってみようかしら」
「3人で散る形か。悪くないな」
「それにあの大陸には美味しい料理があるって話だし♪」
「そっちが本音だな?まぁいいだろう。それではまたな」
「はぁい」
ヒラヒラと手を振ると、ラドイプの姿が一瞬にして消えた。
おそらくはまた火種を煽りに行ったのだろう。
「働き者ねぇ。自分が一番だと思っているくせにねぇ」
あるいは、だからこそかもしれないと考えながら、グニトラはかつての仲間たちに思いを馳せる。
この世界の住人であるなら、相手がどれだけいても勝てる自信がある。
にもかかわらず、既に三人死んでいた。
仲間ではあるが、そのことに胸を痛めたりはしない。
自分たちはそういった感情とは無縁なのだ。
「もうすぐ門が開ける。どうなるかしらね~?」
門が開けば大量の仲間たちがこの世界に来れる。
乗っ取りはたやすいはずであるが、先ほど会った異世界人を思い出す。
「一筋縄ではいかないかもね~」
勝てないとは言わない。
だが、勝てるとも言えないのが事実であった。
グニトラはそれでも笑みを浮かべながら、その姿を虚空に消した。




