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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第五章 王都までの道中「花の谷と妖精郷」編
110/358

第92ページ 正体

男は観念したように一つ息を吐き、口を開く。


「そうです。私は魔族です。邪魔しないでくれませんかねぇ?」


男の身体から魔力が吹き出す。

一般的な人族の魔力量を遥かに凌駕し、もし一般人が浴びせられれば気を失うだろう。

「覇気」スキルとは違う純粋な魔力でだ。


「な、なぜ…!?」


だが、それでも俺には関係ない。

紅焔竜の魔力はこんなものではなかったし、魔神から漏れ出る魔力は無意識に人を殺しにきていた。


「悪あがきは終わりか?さっさと吐け。俺はそんなに気が長い方ではないんだ」


今度はこちらが「覇気」を使ってやる。

それだけで、今までどこか余裕を見せていた魔族の顔がひきつり、額に汗が浮かぶ。


「もういい。時間の無駄だ。あまりな能力だから今まで使ったことはなかったんだが…視れば済む話なんだよ」

「なんだ…何を言っている?」

「俺の眼は、特別製なんだ」


"心の中を覗く"

俺の眼には、隠し事など通じない。

この能力があるからこそ、識図展開(オートマッピング)も心情を反映することができるのだろうな。


本当に、非人道的すぎて使いたくない能力であったが、仕方ない。

相手が魔族だとわかった時点で、この町の人に任せるという選択肢がなくなってしまった。


ただの人しかいないこの町では、尋問はおろか拘束しておくこともできないだろう。


俺がやるしかないが、俺にはこんなことに時間をかけている暇がない。

さっさと終わらせるに限る。


「全て視せてもらうぞ」

「や、やめろっ!?」


何をさせるかだいたいわかったのだろう。

魔族の抵抗が大きくなるが、蛇たちはしっかりと拘束している。


魔族の目を覗き込むと、相手の心というか、記憶というかが流れ込んできた。


「…なに?」


だがそれは、想像していたものとは全く違う。

映し出されるのは、様々な光景。


魔族として行動するこの男。

人族として行動する女。

獣族として行動する少女。


その全てが、この男と同一人物であると言っている。


「お前、魔族じゃないのか?」


さすがに驚きを隠せずに呟くと、その瞬間心が変わった。

映し出されるのは、白の肌にピンク色の髪をした女。


「もぉ、なんなのよその能力。私の心も見れるとか反則でしょー?」


顔は男のままでありながら、男から発せられる声は今までとはまるで違う高い女の声。


「あなたも違う世界の人かしらん?」


男がニヤリと笑うと同時に、その顔が崩れていく。

体格もどんどん小さくなっていき、小さくなったことで生じた隙をつき、そいつは蛇の拘束から抜け出した。


一瞬の予期できぬ挙動。

魔族であるならば有り得ないその動きに、俺の思考はまた謎に包まれる。


「お前はなんだ?」


服装は同じでありながら、顔や体格は完全に女のそれとなった魔族だった男。

ピンク色のショートヘアに、病的といっていいほど白い肌。

しかし、雰囲気からは陽気なオーラが漂い、その顔には笑みが張り付いている。


「魔人よ。私は魔人グニトラ。よろしくね」


いっそ軽快と言っていい程に、グニトラと名乗った女はこちらに笑って手を振ってくる。


魔人。

魔族でなく、魔神でもなく魔人。

そうこの女は言った。


それは今まで聞いたことがない単語であったが、自然と俺の中では納得していた。


「異世界人…」

「当ったり~♪」


何が面白いのか、笑顔のままでグニトラは言う。


「まったく、とんだ邪魔が入っちゃったわ。ただ蜂蜜のお菓子が欲しかっただけなのに」

「なんだと?」


そんな理由で?

そんな理由であんなことをしでかしたのか?


「お前…」

「あら?なーに、その顔?そう言えばさっきから何か言ってたわねぇ。覚えてないけど、子どもがどうこうって。ああ、あの蜂の巣に薬をまいてくれた子達ね?お礼言っといてねん♪」

「黙れ。お前が誰だろうともう関係ない。理由がわかった以上、ここで始末する」

「あなたにできるかしらん?さっきまでの私とは違うわよ~?」


それは事実だった。

魔族の男の装いの時よりも、感じる魔力量は跳ね上がっている。

更に、あの蛇から抜け出す時に見せた動き。


正直目で追うのがやっとではあった。

だが、手がないことはない。


俺には切り札とも言うべきスキルがある。

あまり使いたくはないが、今回は別だ。


「あら?その目…なんか嫌な感じするわね~。今日の所は逃げるわね!」

「なに!?」

「うふふ。バ~イバ~イ!」

「待て!」


グニトラがそう言うと同時に、俺はグニトラに向かい飛びかかったが、それよりも先にグニトラの姿が虚空に消える。

一種の空間魔法のようだ。


識図展開を表示するが、マップ上にグニトラの名前は表示されなかった。

どうやら、この町からは既に退避したようだ。


「くそっ」


悪ずいて、グニトラと行動を共にしていた男たちを見ると、先程とは違い、気を失っていながら何やら憑き物が落ちたような穏やかな顔をしている。

何かしらの術によって操られていたと見るべきか。

となると情報は得られそうにない。


「くそ…」


もう一度俺がつぶやいた段階で、この町の衛兵たちが追いついてきたようだ。

さて、どう説明したものか。

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