第91ページ 首謀者
「識図展開!」
発動されるユニークスキル。
敵の捜索。
アステールに乗り、上空から地図を埋めることで、町の全図が脳内に映し出されていた。
その中に、いくつもの赤い光点が浮かび上がっている。
もう何ヶ月も前となるが、アキホで手に入れたこの能力は、とても便利なものだった。
地図だけでなく、人の居場所もわかる。
敵は赤点として、味方は青点として、その他の相手を緑点として表示される。
この能力を手に入れたあと、色々と検証してみたところ、この判別は俺の心情を反映しているのではなく、客観的事実によって判別されているようだ。
俺が知らない犯罪者も赤で表示される。
俺に対して悪意を抱いていたアタミ伯爵の忍部隊の一人も、俺は知りもしなかったのに赤で示されていた。
つまりは俺が知らない事実であろうと、相手の心情まで組み込んだ上で勝手に判断してくれるのだ。
だが、その判断基準は色々と設定できるようで、法や規律などを犯している者としたり、俺に悪意を抱く者としたり、その他にも俺の基準として俺の美学に沿わない奴を判別したりもできる。
どのようにしようと俺の敵は、俺が認識していようとしていなかろうと、俺から逃げることはできないということだ。
しかしながら、これには一つ欠点がある。
名前を知っていなければ光点の判別はできないのだ。
つまり、任意の敵を見つけることはできない。
だから俺は片っ端から赤の光点の下に向かうことにした。
結果として、サルベニーにいた犯罪者のほとんどをこの日のうちに子爵配下の兵は捕縛することになり、子爵は一気に増えた案件に頭を悩ませることになるのだが、それはまた違う話だ。
「見つけたぞ」
何十人かの関係ない犯罪者を捕縛した後、俺はようやく当たりを引いた。
サルベニーのとある倉庫から、何やら運び出そうとしていた者たち。
それを指揮しているのは、聞いたフードを被っている男だった。
「何者ですか?あなたは」
空間魔法で突然現れた俺に一瞬驚きを顕にしたが、心の中は別としてすぐに表情を消し、俺へと質問を返してくる。
ただの小悪党ではないようだ。
だが、他の奴らはそうでもないようで、4人いた男たちは急激に殺気立ち始め、腰に差していた剣を引き抜く。
粗末な作りの剣や、短剣を手に男たちは俺を睥睨してくる。
「話すことなどない。お前たちの目的にも興味はない。子どもを利用するような奴らの言い分など俺は知らない。大人しくする必要もないぞ。全員ここで終わりだ」
ディメンションキーの中から、ある魔道具を取り出す。
ハンドボール程の大きさの黒い玉。
アタミ伯爵から報酬として貰ったものの内の一つだ。
「捕えろ」
魔力を流し、俺の言葉を発動キーとして魔道具が発動する。
玉が崩れ、その真の姿を現す。
シャアァッ
まるで生きているかのように敵に躍りかかる八匹の蛇の姿。
―・―・―・―・―・―
【魔道具】八岐蛇
品質A、レア度6、異世界人ジュウゾウ・アタミの作
魔力を通すと、八つの蛇の首が自動で敵を捕える。
長さや強度は流す魔力量に依る。
―・―・―・―・―・―
蛇を斬ることもできず、呆気なく捕らえられる男たち。
だが、フードの男だけは魔法で蛇をかわした。
フードの男の前方に展開されているマジックシールド。
無属性魔法に分類される魔力でできた盾だ。
「へー?」
瞬時に展開したマジックシールドは、あの男の魔法師としての力の高さを示している。
ただ、ギリギリではあったようで、肩で息をしている。
俺は蛇で縛っている男たちの意識を奪い、蛇を解放する。
全ての蛇で包囲するようにフードの男を襲わせる。
「くっ!?」
いくつかの頭は魔法で追い払ったが、八本の蛇頭全てをかわすことはできなかったようで、一本が足に絡みつき、一本に腕を取られると、あとは時間の問題だった。
「さて、本当なら俺はここでお前たちを始末してしまいたいんだが、事実関係をはっきりさせないといけないらしい。さっさと吐くか?」
「お、思い出しました。そういえば今、辺境から来ている貴族が竜殺しを連れてきているとか。あなたですね?」
「だったらどうした?竜は殺せても人は殺せないと思っているか?」
フードの男の視線は、俺の右手に握られる斬鬼に向く。
常人では見えぬ速度でそれを振るい、フードだけを切り落とす。
ようやく露になった男の顔。
金色の髪、浅黒い肌をして、耳が尖っていた。
「…魔族か」
男の顔が憎々しげに歪む。




