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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第五章 王都までの道中「花の谷と妖精郷」編
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第90ページ 子どもの話

子どもたち三人を残らせ、あとの子は帰らせる。

不思議そうな顔で残っている子たちを見ていたが、何事もなく子爵がお菓子を配るように命じると、嬉しそうにそちらへ走って行った。


残った子どもは男の子が二人と女の子が一人。

その顔は過去視で視た顔と同じであり、やはり町の子どもであったのだ。


聞けばいつも一緒に行動している仲のいい幼馴染のようで、これまで悪戯や悪さをしたなんてこともない。

それどころか、自分より下の子どもたちの面倒を見たりと、元気のいい子たちであるそうだ。


その子どもたちが、自分たちが残されたことで今回の件であるということがわかったようで、今にも泣きだしそうな顔で震えている。


現在は、子爵の部下の方が、子どもたちの保護者を連れてきている最中だ。

待っている間に、その子たちにもお菓子をやるが、食べようとはしなかった。


---


少しして、子どもたちの親が到着する。

事情の説明はされていなかったようで、急に町長である子爵に呼び出されたかと思えば、呼び出された先で自分たちの子どもが震えている。

一体何をやったのか、と顔を赤くしたり青くしたりしながら急いで子どもたちに駆け寄った。


そこで今回の事件のことについて説明される。

子爵は犯人については言わなかったが、大体察しはついたようでまさかという顔をして自分の子どもたちを見る親たち。


「お前そんなことやったのか!?」


一人の父親が、自分の息子の肩を掴み、聞きよる。

そこで限界であったのか、子どもたちは涙を流し始めた。


「ごめんなさぁい~~!」


口々に謝罪をしながらも、子どもたちは泣きじゃくりとても話を聞けるような状況ではない。

自分の子どものそんな姿を見た親は、叱るにも叱れず、どうしたらいいかわからないようだ。


実際、この子たちがこんな行動をするのは初めてなようなので、親も叱るという経験があまりないのだろう。

叱らなければと思う男親も、号泣する子どもたちに困惑気味だ。


もちろんそれは俺たちも一緒で、本当ならすぐにでも何故そんなことをしたのか聞かなければならない立場の子爵も少し待つことにしたようだ。


数分して、母親たちが必死になだめ、どうにか子どもたちは泣き止んだ。


---


「さて、話を聞かせてもらえるかな?」


子爵が優しく語りかける。


こんなことをしでかしてしまった子どもたちに、子爵がなおも優しいのは別に怒れない性格であるからという理由ではない。

必要な時にできないのであるならば、子爵といえど貴族は務まらない。


今回の件、子どもたちが主犯だとは思えないのだ。

俺が視た光景で、子どもたちは笑って瓶を開け、魔法薬であろうガスを散布していたが、そもそも子どもたちがそんな危険なガスを入手できた経路が不明だ。


子どもたちが、俺たちが言う前から悲壮な顔をしていたことからも、ガスがどういったものかを知らなかったといった方がしっくりくる。

何者かにガスを渡され、蜂たちの巣に散布してくるように言われていたのだとしたら、その行動にも納得がいく。


だから、今はきつく問い詰めるよりも優しく諭した方がいいのだ。


子どもたちは、ポツポツと話始める。


あの魔法薬ガスが入っていた瓶は、昨日知らない男の人から貰ったのだということ。

中身は、蜂たちが元気になる薬であるということ。

明日の朝、これを蜂たちの巣に撒いてきてほしいと言われたこと。

男はフードを被っており、どんな人物かはわからないということ。

最初は不審に思っていたが、男が別の瓶から出した薬を馬に嗅がせると、馬が何やら元気になったので信用したということ。

代わりに、お菓子を買ってもらったこと。


「…」


話を聞き終えて、大人たちは難しい顔で黙り込んだ。


この話が本当だとしたら、男の目的はなんであったのだろうか。

魔法薬の解析は、終わっておりあの魔法薬はどんなに嗅ごうと致死性はないということがわかった。


せいぜいが二,三日動けなくなるだけのようだ。

それも安静にしていれば自然に抜けるもので、まったく何もできないというわけではない。

働き手が減った分の支障はあるだろうが、それもすぐに補填される程度のものだ。


とりあえず、実行犯はわかったので女王蜂に報告はいるだろうが、女王蜂はこの話を聞いたらどういう判決をするのだろうか。

ひどいことにはならないと思う。


まぁそれは本人たちに謝らせに行くとして、とりあえずは親と家に帰ってもらう。

親たちには、今後このようなことはないように教育するよう言って、それでもあまり叱りすぎないように言った。


今回の自分たちが知らず知らずしてしまったことで、子どもたちは心に傷を負っている。

自分がしでかしてしまったことを、必要以上に感じているのだ。


「…」

「…どうかされましたか?」


黙って何やら考えている俺に、子爵が問いかけてくる。

俺が顔を上げると、無意識にであろうが一歩下がった。


自分でも自覚があるから仕方ない。

今の俺は、この世界に来て初めてというくらいに、ブチギレている。


何も知らぬ子どもを、自分の悪事に利用するだと?

なんだそれは。

美しくないにも程がある。

どこの誰か知らんが…タダではすまさん。

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