第84ページ 依頼の詳細
「戻ったか、シュウ。よく帰ったな」
「丁度いいタイミングではあったがな」
辺境伯城へとやって来た俺は、ほぼ顔パス状態で応接室へと通された。
アステールはいつも通り厩舎へと向かい、俺の顔を知っていた兵士が、事情も知らされていたのかすぐに案内してくれたのだ。
「来てくれたということは、依頼を受けてくれるということかな?」
「強制依頼だと聞かされたが?」
「そんなことを言った覚えはないんだが…なら強制ってことで」
「おい」
いい加減すぎるだろう。
職権濫用じゃないのか?
「だいたい俺に依頼する必要あるのか?」
ギルバートも行くのだし、騎士たちも連れて行くだろう。
辺境伯自身もかなりの実力の持ち主だ。
俺の護衛なんて必要ないと思うんだが?
「聞いてないのか?お前にも会議に出てもらう必要があるんだ」
そうだった。
その話、本気だったのか。
「まぁそれがなくてもお前には頼んだかもしれんがな」
「何?」
「お前に頼むと帰り道が楽になるだろう?」
「帰り道?」
「ほら。空間魔法でパパァっとな」
「そういうことか」
まさかの移動手段としてのご指名だったか。
なるほど確かに空間魔法で一瞬にして帰って来れるという状況はありがたいわけだ。
特に断る理由もないな。
「わかったよ。引き受ける」
「そうか!ありがとう!」
「詳しく聞いていいか?」
「もちろんだ!」
話によれば、出発は早い方がいいということなので、二日後に。
行くのは、ラッセン辺境伯と、ギルバート他騎士数名。
ルートはいつものようにお任せして、馬車でだいたい20日だそうだ。
今回は、徒歩の侍従はいない為、全員が馬車か馬での移動となる。
道中いくつかの村と町に滞在しつつの行程となるので、余裕を持って一ヶ月と考えて行動。
「何か質問はあるか?」
「いや、特には…」
そこまで言った所で、部屋の外から聞こえる音。
誰かがこちらに向かって全速力で走ってきている。そんな音だ。
識図展開で確認した所、こちらに向かってきているのは二人。
ララとエルーシャだった。
「お父様!」
ドンと勢いよく開かれるドア。
入ってきたのは、やはりこの二人。
「お待ちください、お嬢様!」
「ララ!はしたないぞ」
「あ、ご、ごめんなさい。シュウ様」
貴族の娘として、確かにやってはいけない行動だ。
だが、そもそもララはそんなことをするような子ではなかった筈だ。
何かのっぴきならない事情でもあったのだろうか?
「どうしたんだ?」
「あ!そうでした!お父様!何故私を連れて行ってくれないのですか!」
なるほど。
王都に行きたかったわけだ。
そういえばララは辺境伯領から外には出たことがないと言っていた。
ガイアから近隣の町や村には行ったことがあるが、王都ほどの大きい街には行ったことがないんだろう。
「そうは言ってもなぁ。お前も行くとなると、エルーシャも連れて行かない訳には行かない。かと言って、そうしてしまうとガイアの守りはかなり手薄くなってしまう。夏にあのような事態があったばかりで、あまり防備を減らすわけにもいかんよ」
正論だな。
辺境伯の立場からすると、ララも連れて行ってはやりたいのだろうがな。
「そ、それはそうかもしれませんが…で、では護衛を別の方にお願いしては!」
「ララの護衛にエルーシャ以上の適任はおらんよ」
それは強さはもちろんだが、性別も含めてだ。
同じ女性でなければ、入れない所もあるだろう。
辺境伯の言っていることが正しいとわかっているのだろう。
ララは泣きそうになりながら、うつむいている。
ここは助け舟を出してやるべきだろうか。
「帰ってきてからなら、また連れて行ってやるから」
「本当ですか!?」
「ああ」
会議が終わって、辺境伯たちをガイアに戻したあと、俺とララたちでもう一回王都に跳べばいい話だ。
これなら問題はないだろう。
辺境伯に目をやると、すまんなという感じで手を上げている。
それに苦笑しながら、うなずき、飛び上がらんばかりに喜んでいるララに目をやる。
俺が見ていることに気がついたのか、恥ずかしそうにうつむいた。
「そ、そういえば、シュウ様。おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
俺は辺境伯たちにも温泉饅頭をお土産として渡し、ララにせがまれたのでアキホであったことなんかを話す。
辺境伯とエルーシャは難しい顔で聞いていたりもしたが、ララは基本的に楽しそうに聞いていた。
話をしていると、いつの間にか夕刻となっており、俺はその場を辞す。
さて、慌ただしいが明後日にはガイアを発つというなら、明日のうちに親父さんとことかにも顔を出してお土産を渡さないといけない。
火竜の火酒を喜んでくれるだろうか?
親父さんがどんな反応をするか楽しみにしながら、俺はアステールと宿に戻った。




