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とある冒険者の漫遊記  作者: 安芸紅葉
第一章 初めての異世界「辺境の街」編
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第0ページ プロローグ

初めての投稿となるので至らぬ所が多々あると思います。

暖かい目で見守っていただけたら幸いです。

「退屈だ…」


授業中の学校の屋上。本来なら生徒がいるはずのない場所に、いるはずのない時間である。

そんな屋上に一人の男子生徒が寝転がって空を見ていた。

黒葉周(クロバシュウ)

それが彼の名だった。

なぜ彼がこんなところにいるのか。なんてことはない。ただのサボりである。


「なんか面白いことないかなー」


他の誰かが聞いていたら「授業に出ろ」と言われそうだがあいにくここにいるのは彼一人。

そんなツッコミをするものもいなければ、もちろん彼の退屈を紛らわせるものもない。

もっとも、この世に彼の退屈を紛らわせるものなどあるのかは疑問ではあるが。

彼はごくごく平凡な日本の高校生である。

ただ一点を除いたなら。


黒葉周の特異な点を一般人に聞けばそのやる気のなさだと答えただろう。

彼は基本なんでもできる人間だ。

勉強も運動も、特に何かしらの鍛錬をしなくとも、一位とはいかないが上位に食い込むレベルの実力を有している。

にもかかわらず彼は動かない。

なんでもできてしまうが故に、彼はなにもしない。

しかし、一般人の認識と彼本来の能力には若干のズレがある。

確かに彼はなんでもできるのである。だがそれは通常の人間の能力を大きく超えてだ。

彼はなんでもできる。

それを見さえすれば。

それを見て認識さえすれば脳が、身体が勝手に動く。それが生まれながらにして彼が持っていた特異。


最初に気づいたのは彼の母親だった。

彼は言葉を話すことも、歩くことも、通常の子どもより早くできるようになった。

しかし、それ自体は特に変わったこととも思えず、自分の子は覚えが早いと喜んでいた。

きっかけは自転車だった。

彼には兄がいたが、その兄が自転車に乗っているのを見ていた(・・・・)。故に彼は、乗れてしまう。

4歳の子どもが、補助輪もなく、初めて乗るというのに彼はそれをなんなく乗りこなした。

それを見て母親は何かおかしいと思う。この子は異常である、と。

その後も彼は色々なことができた。

年齢など、経験など、自分には関係ないと言わんばかりに。


彼にとって幸福だったのは、彼の両親と兄が彼の異常さを理解してなお、彼を愛したことだろう。

彼を普通に子どもとして、弟として扱った。

彼の能力を使い何かするでも、気味悪がるでもなく。

それがどれほどの幸福か。

彼も理解している。

故に彼は両親と兄に感謝し、同じくらい愛していた。

そんな両親と兄が他界したのは、2年前、彼が15歳だった時だ。

どこにでもあるような交通事故だった。

彼だけが家で留守番をしており助かった。

彼は自分だけがなぜ助かってしまったのかと泣いたが、やはり時間が解決してくれたのだろう。

最近ではそういったこともなくなった。

悲しみは未だ胸のうちにあったが。

彼を引き取ったのは母親の兄家族だった。

別段そこで冷遇されるようなことはなかったが、兄家族は優秀すぎる彼をどうやって扱っていいかわからなかった。

だから彼はあえて能力を人並みに抑えることにしている。

この歳になると自分の異常さというのも理解できていたのだ。

だが、抑えたところでできてしまうことには変わりなく、故に彼はこう思う。


「この世界は、退屈だ」


周はそう言って、目を閉じた。

己の退屈を紛らわせてくれるものなど、この世界にはないと彼は齢17歳にして気づいてしまっていた。

しかし、幸か、不幸か、彼の退屈はこのあとすぐに終わりを告げることになるというのは彼自身まったく想像できなかったことである。


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