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⑦修羅場ですか? 修羅場ですね。

長いです、お時間のある時にお読みいただければ嬉しいですm--m

さて。

なんだか私以外の思考が邪魔してきた気がしますが、華麗にスルーします。


とりあえず泣いている香と慰めている藪坂とそれを見ている私という構図を、どうにかしたい。

多分、メールとか電話とかでこの修羅場の情報が拡散したんだと思うけれど、見学者の人数が半端ない。

文明の利器め……、最悪。

あと、さっきからカシャカシャ音がするのは写メでしょうね、そんなに他人の修羅場が楽しいですか楽しいですね人の不幸は蜜の味とはよく言ったもんです先人凄い。

肖像権の侵害とか知ってますか?

一枚いくらとかで、会計箱おいてやろうか。


はぁ、……と聞こえないように小さくため息をついた。


藪坂の態度で何かがあると思っていてそれが当たっていて、辛いとかむかつくとかいろんな感情はあるけれど。

それでももしかしたら……という風に思っていたからか、思ったよりも冷静でいられていると自分でも思う。

だからこそ、この状況が嫌でたまらない。

どうしてこんなところで話し合おうと思ったのか、そこまでこの二人が馬鹿だとは思いたくなかった。



ちらりと藪坂を見れば、香を慰めながら周囲の人の目から彼女を隠すように肩に手をまわしています。

すみません、私が一番守られてしかるべきだと思うのは間違いじゃないと思うんだけどどうでしょうかね。

思わずため息をつけば、びくりと肩を震わせた香の涙が量を増す。

「あのね」

もう一度ため息をついてから、私は極力小さな声で話し始めた。



「藪坂も更科さんも、お互いの事が好きなんですよね」

「そんな、他人行儀な言葉つかわないで……」

私の言葉を遮る理由がそれですか。

「無理」

今を持って友人という関係を解消するつもりなので、他人行儀でいいと思います。

「祥子……」

「私の話を聞いてもらえます?」

少し声のトーンを落としてそういえば、みるみる間に香の表情が歪んで止まらない涙が頬を伝う。

私はもう一度ため息をついて、二人を見た。


「これ以上、見も知らない人達に娯楽を提供するつもりはないから、単刀直入に言います。藪坂とは別れます、更科さんとの友人関係もここまで。では」

それだけ言って立ち上がろうとすると、慌てた香に机の上に出していた手に縋り付かれた。

「祥子、本当にごめんなさい! それでも、祥子と友達でいたいの!」

……この子は……。

がくりと肩を落としたくなる。

せっかく人が周囲に聞こえないように小声で言ったのに、香が叫んだら意味ないじゃないですか。

怒りで口端が引きつりそうになるのを何とかこらえて、香の手をやんわりとほどいた。










「いい加減にしてよ、ホントに」

一瞬にして、食堂が張りつめた空気に変わった。

確かに修羅場ではあったけれど、当事者の祥子が落ち着いていたからこそ周囲も興味津々に見ていることができたのであって、その彼女が剣呑な声を上げれば否が応でも一気にド修羅場と化す。

祥子は大きくため息をついて、立とうとしていた体をまた椅子に収めた。

「端的に言えば、私は彼氏に二股かけられてたわけ。その上、浮気した相手が自分の友達とか、ものすごく救えない話なんですけれど。加害者の二人、自分たちがしたことわかってる?」

「かっ、加害者って……そんな……酷い……」

呆然と目を見開いた香の顔が見る間に歪んで、声を上げて泣き出す。

それまでの大泣きで見るも無残なメイクどろどろの顔になっていたのに、涙を拭うように手で目のあたりを擦るから無残通り越して大惨事。

「榎本……」

そんな香を労わりつつ、困惑したような非難がましい視線を向けてくる藪坂に、祥子は剣呑な視線を向けた。

「馬鹿じゃないの。浮気しました、相手はあなたの友人です。でもこのまま友達として仲良くして欲しいのって、私の事舐めてる? それに頷く人いると思ってるわけ? あんたならどうなのよ」

「それは……」

「いいんだわかった、これからもよろしくとかいうわけ? そもそも私が黙って聞いてるのをいいことに、まー好き勝手自分に酔った発言してくれちゃって。耳が腐りそうよ、浮気男」

その言葉に、藪坂の顔が羞恥に歪んだ。

まだ香よりは羞恥心というものを持ち合わせていたんだなと、怒りのみなぎる心中でぼやく。

それくらいなら、もっと前にやることがあるだろう、この馬鹿。


祥子は立ち上がると脇に置いていた鞄を手に取り、座っている二人を見下ろした。


「あんたたちなんて、こっちから願い下げ。どうぞ二人の世界で生きていけば? 優柔不断男と天然馬鹿娘、心底お似合いよ」

そう言って立ち去ろうとした祥子の顔に、冷たい水がぶちまけられた。

思わず呆然としてしまった祥子に、金切り声が響く。

「言っていいことと悪いことがあると思う! 優柔不断なんて、良くん、凄く男らしいもの!」

顔を向ければ、今や空になったグラスを両手で包むように握りしめている香の姿。

そのグラスの中身は、全て祥子がかぶっているわけだけれど。


「そ、そうだ! そんなだから冷静無表情とか呼ばれるんだよ!」


香にかばわれたことでつけあがったのか、藪坂が怒鳴り声を上げる。

その名の通り冷静のはずの祥子の何かが、ぶちりと音を立ててはじけ飛んだ。















……なーんて修羅場を演じたら、ある意味楽しいかしら。


泣いている香を見ながら、ぼんやりそんなことを考える。



まぁ、やるわけないけど。やった方が、絶対印象悪くなるもの。

こんなところで、幼馴染がしてくれたレクチャーが役に立つとは……。

まぁ、修羅場でも演じないと話を分かってくれない気がしてきたけどさー。


手を私にほどかれた香は、今まで以上に……いったいどれだけ涙を生産してるのか……大泣きするし、それを宥める藪坂の声もでかい。

よって、周囲の視線は増えていくばかり。

ホントもう、勘弁してほしい。

それに……


ちらりと視線を手元に向ければ、藪坂たちと話し始めてすでに三十分近く。

呼び出しのメールが来た時の状況を考えると、早急にここから離れないといけない理由があるのだ。

主に自分の精神衛生上の理由で。

来るなとは言っておいたけれど、なんか絶対来る気がする。

これ以上の辱めは、勘弁して頂きたい!


祥子は立ち上がろうとした体をもう一度椅子に戻し、努めて冷静に口を開いた。

ため息もついちゃったけど、そこはスルーして。


「私に悪いと思っているのよね、二人とも」


少し希望でも見えてきたかのように表情を明るくさせた二人が、深く頭を下げる。

「もちろん」

「本当に、ごめんなさい」

その姿だけ見れば、とても反省している二人だろう。

言ってることは、最低だけど。


「友人と二股を掛けられて許せるほど、私は物わかりのいい人じゃない。もし仮に、二人が同じことをされたら嫌でしょう。それでも友人を続けていきたいの?」

「だって私、祥子の事好きなんだもの!」


いらねー、告白だ。


思わず半目になりそうな表情を引き締め直して、気持ちを落ち着かせるために小さく息を吐き出す。

ホントもう、勘弁してほしい……。

「私は無理」

これ言ったら、なんか私の方が悪くなりそうだけれど……仕方ないか。



「あなたたち二人なんて、大嫌い。顔も見たくないわ。どうぞご勝手に」



ざわり。食堂の空気が一瞬だけ揺れて、微かに声が聞こえてくる。



――うわー、きっつ……

――榎本さん可哀そうだけど、藪坂の気持ちもわかるというか

――香ちゃん、可愛いもんなー



そんな声の中にも、私を擁護するような囁きが聞こえて少し気持ちが落ち着く。

無表情だろうが冷たかろうが、誰にどう思われても構わない。



「……」



――ホントは……



呆然としている二人に、視線を向ける。

二人には、わかってもらえていると……私を知ってもらえてると思ったんだけどな……。

そう思って二人との関係に胡坐をかいていた、私の傲慢だったってことだね。



いつの間にか敬語も消え、そろそろ自分の感情を抑えるのがきつくなってきたなと判断した私は、椅子から立ち上がった。



「それじゃ」

そういって踵を返そうとした私の肩に、ふわりと暖かい重みが降りてきた。



「これ、いったいどんな状況」



振り向かずともわかる、私の後ろに立つ人物。



「凄いギャラリーね」



男女の声は、私の後ろ、左右から聞こえてくる。




「え……?」




藪坂の驚いた声、目を見開く香の表情。

間に合わなかった……と肩を落とす私は、後ろにいる二人の気配にこれ以上の羞恥はないとがくりと肩を落とした。


ていうか、確実に関係ない人増えてるんですが!



無関係人間が一人増えてるんですけど!

後ろの男一人!

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