⑥傍観者気取りの三人共通の友人、だったはずの人。小倉 綾の二年間。―1
長くなったので2話に分けましたm--m
連続投下します。
香、ぎったぎた(笑
ちょっと、雰囲気がどろりとしてきましたかね。
「……ねぇ、香。藪坂の事、好きなの?」
そう私が言った時の香の顔、絶対忘れない。
――チャンスだと思った。
榎本 祥子。
更科 香。
藪坂 良輔。
大学に入って、この三人が目立つようになるまでそうそう時間はかからなかった。
凛とした大人の雰囲気を持つ、和風美人の祥子。
容姿も中身も可愛らしい天然さを持つ、フランス人形のような香。
祥子の彼氏で平凡に埋没しない程度の容姿だけれど、面倒見がよく優しいと評判の藪坂。
同じ学年の私達だけではなく、他の学年の人達も珍しいものでも見るように学食や図書館で彼女達を目の保養としていた。
なんか、おもしろくない。
誰もが新しい生活に夢見る時期なのに、もう皆の興味はこの三人に浚われてしまった。
キラキラ光る向こう側は、私みたいな一般人には足を踏み入れられない場所。
高校で地味子と言われてきた私が、一発奮起して高校デビューならぬ大学デビューをもくろんでいたのに。
大学受験が終わって以降、私は自分改造に懸命に力をつぎ込んだ。
真っ黒で直毛だった髪を、縮毛矯正とデジタルパーマでふんわり内巻きカールにして。
色は、ノーブル・プラム。
ニキビを治すのに、高い薬用化粧品を買って。
肌がきれいになってからショップのお姉さんにアドバイスしてもらって、すっぴんに見えるナチュラルメイクを攻略した。
ナチュラルメイクは、ナチュラルに見えるだけで決してナチュラルではない。
そう見えるようにするメイクは、手間も技術もメイク道具もたくさん必要だった。
今まで基礎化粧くらいしかしなかった五分もかけないメイク時間は、慣れても三十分は費やすようになって。
細い目を大きくするためのアイライナーにつけまつげ、瞳を大きく見せるためのコンタクト。
ケバく見えないようなチークにファンデーション、そしてオレンジベージュの口紅。
卒業式に出席した私を見て、呆けたように口を開けていたクラスメイトの顔が面白かった。
これが、あんたたちが地味子って馬鹿にしてた私の本当の姿よ。
……胸が、すっとした。
卒業式後に初めて告白というものをされたけれど、嬉しいよりも嘲笑うことしかできなかった。
今まで馬鹿にしてたくせに、見た目がよくなれば誰でもいいわけ?
それでも表面上は申し訳なさそうな表情をして、頭を下げる。
「ごめんなさい」
あんたなんかじゃ、私の横にはふさわしくないのよ。
絶対に声に乗せない言葉を、吐き出しながら。
なのに。
だというのに。
私は何度も遭遇するというきっかけを意図的に作って、三人と少しずつ仲良くなっていった。
この三人を蹴落とすのは、得策じゃない。
何を考えているのかわからないけれど中心になっている祥子が私を嫌がれば、それにつき従っているような藪坂も香も私に対していい感情は抱かないだろう。
だったら三人と一緒にいる事で、私もそこに引き上げてもらう方が得策。
打算的と言われようと狡猾と言われようと、私は私の選んだ方法で大学生活を謳歌する。
――あの地味子、何が楽しくて生きてんのかしらね~
――あそこまで地味だと、地味っていうよりあれよね。空気。
――えー、じゃぁ、あたしらあれ吸って生きてるわけぇ?
ぎりっ。
噛みしめていた歯が、気持ち悪い軋みを上げる。
もう、あんな地味子には戻りたくない。
私の思惑通り三人と上手く友達になれて、当たり前のように一緒にいられる立場を手に入れたけれど、私は満足なんかしていない。
私に声をかけてくれる人もいなくはないけれど、大半は彼氏のいない香に対するアプローチの為に近づいてくる。
香の何がいいのかわかんない。
一緒にいればわかる、この子の長所は容姿だけ。
天然といえば聞こえはいいけれど、唯の空気が読めない馬鹿な子なのに。
ある意味、相手してる祥子が凄いと思うわ。
私は香が嫌がるから……、そう伝えて「自分で頑張った方が、印象いいわよ」と励ます形ですべて追い払った。
本当に香が嫌がってるのもあるけれど、あの子に彼氏ができたら私の居場所がなくなるじゃないの。
勉強も頑張って容姿にも気を付けて、手に入れた今の居場所。
でも、それでもあの三人の方が上に見えて。
――悔しい。
「……?」
気づいたのは、香の不自然な態度だった。
大学二年が始まった、その頃。
それまで、実は藪坂の事を猛烈に嫌がっていた香。
一度語ってくれたのは、祥子への強烈な憧れ。
だからこそ、藪坂の事が話題に上がるとむっとした顔をしてた。
なのに……
一限の講義が終わって校舎から出ると、向かいの校舎から藪坂と香が一緒に出てきた。
それ自体はおかしくないことなんだけど……
「笑ってる……」
香が、藪坂に対して満面の笑みを向けていたのだ。
それまでは、あって微笑くらいだったのに。
まるで……そう、まるで祥子に向ける眼差し。
私の中の何かが、その違和感に警鐘を鳴らしていた。
馬鹿としか言いようのない二人と、その二人に騙されている一人を、
私は、唯々傍観しているだけ――
――なわけ、ないでしょう……?